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ボックスマンの断罪 (2)

 学校側はついに警察への協力を求め、『箱』事件は生徒の親達の間にまで広がり、他の学校の生徒、マスコミ関係者にまで知られる大事になるも、事は収まりを見せなかった。


 女生徒白川あきなの元に箱が届いたのは、十一月の半ばの頃の事だった。僕や尾下銀の所属するクラスでは不登校生徒が二桁になった頃だった。


 白川あきなと言えば磯村君の一件があったすぐ後に起きた『女子更衣室財布窃盗事件』で犯人に疑われていた生徒だった。彼女は動揺しながらも、『箱』の中身をみんなの前で読み上げた。やはり、中学時代の万引き等を告発するとの内容だった。



「気にすることねぇよ」



 黙りこくるクラスメイト達の中で、発言したのは尾下銀だった。背の高い彼は、みんなからの注目を浴びた。



「白川、もう万引きなんてやってねぇんだろ」



 白川はコクリと頷いた。彼女は中学時代家庭に問題があり、一時期荒れていた。が、今ではそれを償うかのように、地域のゴミ拾いのボランティアなどにも参加していると聞いた。



「ボックスマンだかなんだか知らねぇけど、人の過去の粗探して告発するなんて、そんなの正義でもなんでもねぇよ」


「でも……」



 小さな声がして、みんながそちらを見た。その声を発したのは、あの磯村君だった。


 ちなみに、田村達は『箱』によって先月自主退学している。



「実際、『箱』のおかげで、虐めとか、なくなったよね……」



 小さな身体で、小さなを振り絞るように、彼は言った。みんな口には出さずに、感じていた事だった。


 授業中の無駄口は無くなった。生徒間のグループ同士の対立や、男子生徒の喧嘩、禁止事項を破る者が、今やこの学校にはいない。



「でも、でもよ磯村。これが、この状況が望んでいた状況か? うるせぇ奴とか、かつて問題を起こしてたヤツがみんないなくなれば満足か? 『正しくなろう』って、気付いて、変わるチャンスだって許されないのか?」



 磯村君は明らさまに動揺して見せた。「白川さんの事を、い、言ってるんじゃないよ。もちろん尾下君の事でも……」


 クラスメイトは黙り、教師がやって来ると席に戻った。出席が取られ、今日の不登校生徒は十一人だと知った。


 僕としては正直、望んでいた光景だった。もちろんそれは尾下銀には言えない。



 その日の帰り道での事だ。



「もう見逃せないだろ。流石に」



 いつか言われるだろうと予想していた事を、彼は言った。



「ボックスマンの正体を突き止める。そして、こんな事はやめさせるんだ」



 僕は迷った。何と言ってやればいい。



「ボックスマンが……どんな悪い事をしたんだ」



 尾下銀は僕を見据えた。僕も、見返した。



「確かに、ボックスマンのやり方は狂人じみているし、僕としても美しいやり方とは思えない。けど……」



 僕は静かな校内を思った。静かな教室を、脳裏に浮かべた。



「今の学校は、静かで落ち着いている。騒ぐ馬鹿も、暴力を振るうような輩もいない。磯村君の言うとおり、虐めをするような低俗な奴も」



 尾下銀の中で何らかの感情が沸き立つのを感じながらも、僕は言った。



「今の学校は、美しい」



 尾下銀の姿が大きくなった。彼は一瞬で僕に近付くと、大きな手でグイと胸倉を掴んだ。


 僕は反射的に身を仰け反らせる。しかし、彼の力が逃がさない。喉が圧迫され、呻き声が出た。


 しかし、それはほんの数秒のことだった。尾下はパッ、と手を離すと、動揺した様子で僕に謝った。「いや、悪い。悪かった。ごめん」


 尾下は自らの大きな手を見ていた。震えていた。僕も初めての経験で、足の震えを止めることが出来なかった。



「俺一人でやる。もう……お前には頼らない」



 そう言うと、尾下銀は一人で、早足でその場を離れて言った。


 僕はその後ろ姿を、ただ黙って見送った。



 尾下銀の机の上に『箱』が置かれていたのは、その三日後の朝だった。

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