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帰り道。
三人が並ぶ。
友莉に優芽、間に奏音。
より正確には、友莉に優芽、間に落ち込む奏音を挟んで、カフェにいた。
女子高生がカフェにいることは何も不思議ではないのだが。
生徒の模範であるところの生徒会役員が三人揃って帰りに寄り道しているというのは珍しい。
珍妙と表現するよりは、貴重と表した方が適切だろう。
だがそこはさすがに生徒会役員、というべきか。
幸いなことにここはカフェにしては比較的雑多な場である。
二階席まで用意されているこのカフェでは、およそ放課後の時間、大体四時から六時くらいの時間は帰宅途中の学生で席が埋まる。
つまり、誰がいるかなどぱっと見ただけではわからないということだ。
木を隠すなら森の中、という発想だ。
当然目撃者が増えることは否めないが、そこは意外と問題ない。
誰も生徒会役員の事など実はあまり気にしてはいない、ともいえるだろう。
生徒会役員がいるならば自分達も大丈夫、という自らへの免罪符、ともいえるだろう。
そもそも奏音らの通う幸魂高校以外の生徒も多い、ともいえるだろう。
兎も角、雑多に紛れて生徒会の中心をこれから担っていく二年生の三名はカフェに佇んでいた。
「げ、元気だしなよ奏音!」
友莉の気遣う声に続けて優芽も奏音に声をかける。
「だ、大丈夫?」
して、その奏音は今にも泣きそうな顔で二人を見る。
慰めてくれていることは嬉しいのだが、慰められているという事実がより一層惨めな想いを増させてもいる。
慰められている原因、内容が内容なだけに、だ。
まぁ、実際の所。
「大丈夫じゃ、ないなぁ」
奏音はつい先ほどはっきりと失恋した直後なのだった。
一つ年上である三年で生徒会副会長を務める光瀬光。
奏音が初めて出会ったのは今から一年前になる。
奏音が一年生の頃の事、噂に名高い幸魂高校生徒会役員に立候補したのは自己研鑽のためであった。
中学時代の奏音は既に成績や通学面から考え適切だと判断していた幸魂高校の文化祭を訪れ、そしてその場の学生たちの熱量に魅せられ、かつその文化祭が生徒会が主体となって運営していることを知った。
格好いい、と稚拙ながら的確に心情を言い表す言葉が奏音を突き動かし、無事進学を果たした奏音は憧れと不安を胸に生徒会役員に立候補した。
そしてそんな奏音が最初に話したのが光瀬光だった。
生徒会室に奏音が入ると、光は柔らかな笑顔で緊張する奏音に言ったものだ。
「あれ、初めましてだね、もしかして生徒会役員の立候補の子かな?」
「は、はい! 一年の狩野奏音です! この度は立候補させて頂きました!」
「うん、よろしくね。僕は二年で会計をやってる光瀬光って言うんだ。あ、じゃあここ座ってよ」
「は、はい!」
「ちょうどお茶入れたところだから」
「は、はい?」
「まずは緊張を解くこと!」
「へ?」
「それが一年生最初の仕事だよ。って、去年の先輩の言葉の受け売りなんだけどね」
「あ、じゃあ、その、お茶、頂きます」
「うんうん、是非是非」
当時二年の光は生徒会内で会計を担当しており、時期副会長を命ぜられていた。
そのため奏音は光の下について会計が行っている仕事を学ぶことになるのだが。
最初から変わらない彼の優しい物腰。
仕事がいくら来ようと、後輩が何か失敗をしようと笑ってフォローを切り抜けるその精神力と行動力。
また、奏音は中学時代、話し方や態度が丁寧すぎて距離感を感じるなどと言われることも多かったのだがそれに関しても光は緩く笑いながら、
「いいんじゃないかな。少なくとも僕は距離感なんて感じてないし」
と言ってのけた。
そんな彼のことが好きになったのは、もういつのことだったか、覚えてはいない。
覚えていないというより、これ、という明確なきっかけはなく、気付いたときにはもう好きだった、という状態になっていた。
それから奏音は片想いをしていることを誰に言うこともなく、密かに想いを含まらせていたのだが。
先日優芽から指摘されたことでどうやら去年一年を共に戦ってきた同じく現在二年生の友莉と優芽は奏音の気持ちに気付いていたらしい。
そうして優芽に応援された直後に、これだ。
光は何の前触れもなく、或いは前触れはあったのかもしれないが奏音に悟られることなく、言った。
「実は僕、明日の放課後、綾文さんに告白するつもりで呼び出しているから、是非気を遣って欲しいな」
つまり、光は綾のことが好きであり。
明日の放課後告白するのだ、と。
見事なまでに失恋をしてしまった奏音は、気を遣った友莉と優芽によってこうして帰りにカフェに連行されているのであった。
少し気を持ち直した奏音がまずは確認とばかりに二人に質問をする。
「一応確認したいのだけど、二人とも私の、その、ことは知ってたのね?」
友莉が頷く。
「たぶん知ってるのは、私と優芽だけだと思うよ!」
「う、うん。たぶん、だけど」
「そう……」
優芽が知っていることは既に聞いたところではあるが。
改めて言われると、恥ずかしい。
失恋したことも含めてより、恥ずかしさは倍増している。
と、いうか。
「そういえば私、友莉さんに拒絶されていなかったかしら……?」
「そんなことないような気がしないでもないねごめんっ!」
友莉がびたん、と机に頭をくっつけて奏音に謝ってきた。
櫛夜と奏音が二人で洒落た喫茶店にて友莉を説得したのが、奏音と友莉が最後に話した時である。
その時の友莉は二人の言うことを全く聞かず、友莉は二人を完全に拒絶、その後も顔を合わせようとはしなかった。
櫛夜と綾から、事の顛末は確かに聞いたのだが。
実際、家族の事も、友莉自身の事も、何も出来ない自分に苛立つばかりで奏音としても中々友莉に合わせる顔がなかった。
しかし、それはそれとして、結構拒絶されたことは心にぐさりと刺さっていたのだ。
今は今でショックを受けているが、あの時の哀しい気持ちを忘れているわけではない。
友人に拒絶されることは、ある意味で失恋よりも辛い。
そのことを友莉自身も知っているからこそ、何の言い訳もなくすぐに謝る。
「ごめん奏音。色々、あった」
その口調はいつもの彼女ではなく。
しかしあの時の、全てを拒んだ彼女でもなく。
きっと櫛夜と綾が見つけ出した、友莉らしい侑李友莉なのだろう。
色々と話すその中に、どれだけの心が詰まっているか位は、奏音にも分かる。
「いいわよ。その代わり、そのうち私たちにもちゃんと『あなたらしさ』ってものを、教えて欲しいわ」
友莉が零した台詞。
『私から私らしさを奪ったら、何が残るんだろうね? 』
友莉の言うところの『私らしさ』が何なのかは結局奏音にはわからなかった。
考えても一向に出てこない。
奏音にとって、友莉らしさなんてものはいつだって変容するものだったからだ。
いくら何が変わろうが、変わったそれを友莉だと認めることが出来る自信がある。
大切な友人に対して、そう言い切れる、と考えた奏音は奏音なりに友莉の言葉を待っていたのだ。
「うん。奏音、ありがと」
「大切な友人なんだから当たり前でしょ」
「わ……たし、も」
そんな二人に優芽も口を挟む。
友莉はいつもの眩しいまでの元気な笑顔で、しかし言葉は今の友莉らしく応える。
「優芽にも勿論、話すね」
「うん」
三人、不思議と笑みが出てきた頃合で、友莉が自分のことに耐えられなくなったか、話を元に戻す。
つまり、失恋話なのだが。
「で、どうするの奏音!」
あえて以前のままのトーンで強めに話す友莉に対して、一気にテンションの落ちる奏音。
悪気があるわけではないのだが、友莉もこれは空気違うか、とやはり最近のテンションにしてしまう。
(櫛咲くんといい、こういう感じで話す機会が多いなぁ)
などと考えながら、それも悪い気がしないのが友莉にとっては摩訶不思議な現象だったりする。
「で、どうするの奏音」
もう一度、同じ発言を繰り返す。
「ど、どうするって言われても」
光が綾に好意を持っていることは事実で。
光が綾に告白することも事実で。
今更何かをどうこうすることは、もはや出来ないのではないだろうか、と奏音は言外に滲ませる。
そんな奏音の内心を見抜き、友莉はもう一度繰り返す。
今度は少し意味合いを変えて。
「奏音は、どうしたいの?」
「わ、私は、別に、このまま今まで通りで」
「もう、このまま通りではいられないよ」
友莉は別に奏音を責めたいわけではない。
ないのだが、奏音の言葉も借りれば、こんな所で変に立ち止まる友人を放って置けるわけがない。
大きく両手を上に伸ばし、んんっと伸びをする。
ついでにキャラメルマキアートに口をつけて甘い味わいをしっかり堪能してから友莉は奏音に向けて、いや、優芽も含めて二人に自分のことを暴露する。
「実は私も、つい先ほど櫛咲くんに告白して振られまして」
「えぇっ!?」
「……っ!?」
全く想定外の言葉に奏音と優芽が驚きを隠せない。
「今日櫛咲くんに連れ去られてたでしょ? で、資料室に連れられてたんだけど、その、まあ色々話した挙句にね、告白しまして」
あまりの出来事に二人は言葉が出てこない。
「私の気持ちの部分は置いておいてだよ。まぁ櫛咲くんにはそれはもう可愛い彼女がいるわけで」
可愛い後輩、綾文弥々。
誰が見たって可愛いだろあんなの、と友莉は今更思ってしまう。
見た目は勿論、どちらかと言えば格好良いに区分されそうな綾に対してはっきりと可愛いに分類される端正な顔立ち。
全体的に真面目でかっちりしている生徒の多い中、弥々は程度良く攻めたスカート丈や手触りのよさそうな髪をふわふわとパーマをかけていたりと洒落たところもある。
しかもその辺りはどうやら本人の趣味で勝手にやっているだけらしく、そうした外見を鼻にかけることもない。
性格も純真そのもので、あれこれ仕事を一緒にこなしていても、雑談に興じていてもよく聞きよく話せる人柄だ。
姉である綾に対する情熱がちょいとばかし行き過ぎている節はあるが、それもまた愛嬌であろう。
「弥々ちゃんに迫られたら無理だよなぁ」
思わず本音が友莉から零れる。
「弥々ちゃん確かに、すごく可愛いものね」
「私もさ、弥々ちゃんに勝ちたいなぁとか、別れて欲しいなぁとか。そういうことを思ったわけじゃないんだよ」
友莉はそのままの声色で、自分の想いを語る。
「知って欲しかった。ここに『好き』って感情があったことを」
「……それを私も、って?」
「さぁ。本当の本当に奏音がいいなら、このままでもいいと思うよ? でもさ、奏音の『好き』はこのままでいられるほど小さくはないと思うよ」
友莉は具体的にどんなやりとりがあったかは話さなかった。
どんな想いを伝えたかったかを言っただけだ。
それでも十分。
奏音は友莉が言いたいことを理解した。
「そう、ね。このまま放っておいていたら、この気持ちが可哀想だものね」
「うん」
優芽もフォローを続ける。
「それに、言ってみるまで、案外分からない、かも」
奏音はさすがにそれは、と笑う。
「そういうつもりでは、やっぱり無理よ。あんなにはっきりと断言されちゃったら」
「でも、綾文会長と、光瀬先輩は、あんまりあわな、そう」
しどろもどろに優芽が言う言葉を、奏音は反芻し、嫌なことまで一緒に考えそうだなと思いながらも二人の事を思い浮かべる。
綾と光。
普段は仲良く、というよりも信頼しあう会長と副会長といった姿の方がよく見かけるので、合う合わないといった話にするならば、イメージ的には合う気がするが。
確かに綾の色恋沙汰というのはあまり聞いた覚えがない。
度々誰かしらに告白されているらしいとは伺っているものの、綾は自分からそうした話を全くしない。
聞かれてもぼかすくらいなので、綾自身、あまりそうした話が好きではないのだろう。
どういったタイプが好きなのかなども含めて、所謂恋バナをした覚えすらない。
「うーん……自分で言うのもなんだけど、合うんじゃないかしら。結構息はぴったりよね」
友莉もまた、言葉を選びながら答える。
「微妙な所だね。綾文会長の趣味ってよく分からないからなぁ」
次いで、先ほど櫛夜にも話し、若干よく分からない反応をされた話を友莉は思い出す。
「私はてっきり、綾文会長って櫛咲くんと良い感じなのかなぁって思ってたんだけどね」
「ない」
そんな友莉の言葉に、珍しく優芽が真っ先に否定をした。
友莉はあはは、と軽く笑う。
「突っ込みが早いなー優芽は。まぁ当の櫛咲くんにも話してみたら変な顔されたんだけどね」
「弥々ちゃんと、付き合ってるのに、ひどい」
「確かにあんまり良い気分ではないかもね。嫌がらせのつもりで話したからそれでいいんだけどね」
友莉はそんな二人に軽く恨み言を言う。
文句と言うよりは、ただの嫉妬に近いものだが。
ここまであれこれしてくれる二人に対して、軽口を叩くくらい訳ない。
「もう、二人とも話題の中心が綾文会長になってるわよ。慰めるつもりがあるなら最後までちゃんと慰めてよ」
「もー私は十分励ましたよー」
「ごめん、なさい。つい」
全く悪びれない様子で、口だけは謝る二人に奏音も嘆息する。
もちろん本気でふくれているわけではない。
「いいのよ。綾文会長と光瀬先輩が上手くいくならいくで、それは仕方ないもの」
「それこそどうすることも出来ない、もんね」
友莉もそれには同意する。
自分の想いを届けたいとすることと、その相手の想いが成就することとは全く別の話だ。
相手が幸せならばそれでいい、とまで思えるほど大人ではないが。
相手の幸せを奪ってまで自分の願いを叶えたいとも思わない。
奏音はそんな多感に揺れ動くこともない。
人知れず失恋をしたショックは勿論だが。
世界にはいくらでも、どうにもできない問題があるものだ。
「それでも、綾文会長がデレデレしてるのは、見たくない、な」
それでも優芽は微妙な嫌悪感を示す。
奏音は微妙な違和感を覚えつつも、一応茶化しておく。
「優芽さんは綾文会長に憧れを抱きですわよ」
「でもわかるなー。綾文会長がデレデレしてる姿は確かに見たくないねー」
しれっと優芽に賛同する友莉が腕を組みながら頷く。
優芽がちぅ、とココアを飲む姿を横目に、友莉が続ける。
「そういえばさ、ありがとうね。優芽」
「え、なに、が?」
頬を赤らめながら、友莉が語る。
「私が怪我するたびに、時間を巻き戻してくれてたんでしょ?」
「……全然、なんてこと、ないよ」
優芽が笑う。
友莉も応えるように笑う。
「むしろ、最初、助けれなくて、ごめん」
続けた優芽の言葉に、友莉がおどけてみせる。
「最初から助けれたら、それこそ未来視だよ。って、あれ、奏音と綾文会長は出来るんだっけ」
「……え、えぇ。一応ね」
ひどく傷ついてばかりだなぁ、と自分と奏音を並べて、笑う以外の表情を作れない友莉が、決意を表明する。
櫛夜によって変わった自分が。
どんな答えを出したのか。
聞いて欲しい。
「私さ。新競技出ないことにしたから」
奏音と優芽が再三、驚きに包まれる。
全く、大体驚愕の言葉を紡ぎだすのは、いつも友莉である。
これが時間にどんな影響を及ぼすのかは分からない。
もしかすると、この決断すらも過去にあったことなのかもしれない。
それは考え出せば、立ち止まるしかない、立ち止まることしか選べなくなる。
だから友莉は決断したし、だから友莉は櫛夜に想いを伝えたのだ。
そして、振られた。
櫛夜は、応えてくれた。
好きな人がいるから、とちゃんと話してくれた。
そして、あるのかないのかわからない未来じゃなく、自分で選んだ未来を掴めと、言ってくれた。
だから選んだ。
もう、繰り返すわけにはいかない。
繰り返してはいけない。
時間を繰り返すなんて、『ずる』をしてはいけない。
『ずる』をして、何度でも櫛夜が自分のところに来てくれるのではないか、なんて幻想に捕らわれていてはいけない。
『ずる』をして、自分の想いがいつか実るのではないか、なんて夢に溺れてはいけない。
「私は今の自分を肯定したい。今の自分を私らしいって言ってあげたい」
そんな友莉の決断に。
奏音は言葉もなく、頷く。
言葉は要らないだろうから。
優芽もまた、何も言わなかった。
そして、友莉はもう一つ言わなければならないことを伝える。
二人に伝えなければならないことがある。
櫛夜は言っていた。
この時間の繰り返しには、もう一つの意味合いがあるのかもしれない、と。
つまり、友莉を救うという意味以外にも、もう一つ、全く別の思惑が動いているのではないか、と。
それが玉川珠子に関することなのではないか、と疑ってもいる。
友莉は自身に準えて、時間を繰り返す意味があったのかもしれない、と話をした。
自分自身が『ずる』をしていた張本人なのではないか、と一瞬本気で思ったほどだ。
それは恐らくは半分、正しいのだろう。
結果的に他の人間の思惑が動いていたのかもしれないが、前の時間の友莉は、体育祭の新競技に参加しただろうから。
だが自分は玉川珠子と繋がってはいない。
玉川珠子は櫛夜に不思議と具体的な例を言ってみせたようだが。
最後まで自分の気持ちを話した友莉は、実の所、時間を繰り返す別の意味に見当がついていた。
その予想が正しいかどうかはやはりわからないが、少なくとも奏音と優芽には話しても良いだろうと判断する。
むしろ、話さなければならないだろう。
「今、時間を繰り返すことを利用している人がいる」
その言葉に、奏音が聞き返す。
「どういう、こと?」
「詳しくは分からないけど、私を怪我から助ける、のとは別の想いで時間を繰り返している人がいる」
「別の、って」
「時間を繰り返す意味ってなんだろうね」
「え?」
友莉は奏音と優芽を交互に見て、ゆっくりと話す。
もうとっくに友莉が頼んだキャラメルマキアートは無くなっている。
「時間を繰り返すのはさ、未来を変えたいからだよね」
過去をやり直したい。
そのはずだ。
時間を繰り返している理由は、友莉が怪我を負う、という未来を変えるためのはずだ。
「なら、変えたい未来が、別にあるのなら、それも仕方ないよね」
友莉が怪我を負う未来。
それを、変えたい。
いいことだ。
なら例えば。
侑李友莉が、櫛咲櫛夜に振られてしまう未来を変えたいと言うのならば。
そのチャンスがあるのならば。
それもいいことだ。
純なる願いだ。
櫛夜も言っていた。
『繰り返したいなんて思うほどに、想ってくれてありがとう』と。
繰り返したいなんて。
素晴らしい願いじゃないか。
そうまでして、好きな人と通じ合いたいなんて。
いいことじゃないか。
友莉もそう思う。
思うが、それを、だ。
認めるわけにはいかない。
自分の都合で、皆の時間をここから先に進めなくしてしまうなんてことは、あってはならない。
もう既にどのくらいが本来あるべき時間から変わってしまったのか友莉は知らないが。
興味もないが。
今の自分の気持ちを、なかったことになんてさせたくない。
ちゃんと振られた自分でありたい。
「でも私は、そんな弱さを認めない」
「友莉……」
友莉は、今の自分が選んだ未来に進みたいと願う。
その邪魔を、されたくは、ない。
「そんな弱い人間が、生徒会にいるのなら、言ってあげなきゃいけないよね」
一呼吸置いて、友莉は強く言う。
「いつまでも『こうだったらな』なんて時間に縛られているんじゃないよ!!」
「ってね」
それら友莉の誓いに隠されたメッセージを奏音と優芽は受け取る。
優芽は不安気な表情ながらも、頷いた。
奏音はそんな優芽を見てから、次に友莉を見て、やはり頷いた。
「そうね。私たちは、未来に進みたいものね」
「うん、そうだね」
未来を選ぶ。
その決断を信じた三人は。
それ以上言葉は交わさずに。
店を出て各々の帰路に着いた。
言葉を発さなかったのは、必要がなかったからではない。
それ以上、言葉を使おうとすれば、せっかくの決断が。
ぶれてしまうかも、しれなかったからだ。




