表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
確率を操るのは  作者: 安藤真司
PR
27/34

姉は

 櫛夜が友莉を連れ去った直後の生徒会室。

 ここでもまた修羅場とでも言うべき空間が一室を支配していた。

 生徒会役員、一年、見習い。

 森崎みもりがやや声を張る。

「皆さん、一つ言いたいことがあります!」

 突然の宣言に詩織を除く全員が(元々櫛夜の行動に呆然としていた直後であるが)動きを止め、みもりの方を向く。

 詩織だけは笑顔で茶々を入れている。

「いいぞー、言ったれみもりー!」

「詩織は詩織でもう生徒会でのキャラを忘れてますし!」

「はっ、もっと真面目におしとやかに頑張るんだった」

「もう手遅れもいい所ですわ……」

 みもりは相変わらずの三つ編みにした髪を緩く手で払い、はっきりと断言する。

 

「皆さん、仕事をしましょう!!」

 

 間が空く。

 沈黙が続く。

 ついでとばかりに心当たりがある者が目を逸らす。

 みもりの言葉が心に突き刺さる。

「ええ、分かっていますよ。侑李先輩のことで頭がいっぱいなのは勿論勿論。私もあれこれと考える日々です」

 主として俯くは綾に弥々、ついでに奏音。

「そちらを櫛咲先輩を中心に解決を図ることは継続すべきですが、ですがしかしこのままでは生徒会としての責務が果たせないかもしれませんよ」

 生徒会としての責務、とみもりが表現したそれは。

 言うまでもないことだが。

「体育祭の準備、もう一度進行スケジュールを見直しましょう?」

「「「は、はい」」」

 偶然か必然か、綾と弥々と奏音の声が重なった。

 重なり、三人目を合わせて、密かに笑顔を見せ合う。

「いいですね、綾文会長?」

 そんな仕草も当然の如くみもりに見抜かれ綾は素っ頓狂な声で返事をしてしまう。

「っええ、そうね。見直しは大切ね」

 ふわふわとした綾の返しから、早速予定の確認をしようとみもりが自ら主体となって動こうとした瞬間。

 詩織が急に手を上げた。

「はい!」

「ええと、詩織どうしたのかしら?」

 みもりが優しく尋ねる。

 詩織と幼い頃からの付き合いであるみもりが詩織の顔を見やる。

 実はこの時点で既にみもりには次に詩織がどんなことを言い出すのかに見当がついている。

 こういったテンションの高いときの詩織ほどわかりやすいものはない、とまでみもりは思うわけなのだが。

 しかし先が見えている分、感情を抑えるのもまた難しい。

 どうせ、とみもりは脳内で怒りのボルテージを密かに上げる。

(どうせ、何か失敗した報告なんでしょう?)

 その予想は寸分違わず的中する。

「いやぁ、昨日頼まれてた、予算案の書類なんだけどね」

「ええ」

 詩織はいつもの笑顔で軽快に話す。

 にぱぁ、とでも効果音がつきそうな勢いだ。

「私の紙に書いた文字が『1』と『7』似ててさ、全部打ち間違えちゃってた☆」

「そう、詩織よく今話してくれましたね」

「あはは、帰ってちらちら完成した資料眺めてたらミスしたのに気付いてさ。危なかったよぉ」

「ええ、よく気付きましたね」

 みもりが切れる。

「いまっすぐ!! 書き直しなさいっ!!!」

「ごめんなさいぃっ!!!」

 と、そんな嫌な茶番を短く済ませて。

 生徒会の面々はしばし今いる全員でスケジュールの見直しに入った。

 

 中々戻ってこない櫛夜と友莉の様子を気にする余裕もなく次々に予定を組み直していく。

 しかしそれでも思った以上に時間がかかったのは、自分達が思った以上に友莉のことで頭がいっぱいで仕事を進められていなかったためであろう、と綾は思う。

 それならそれでいいことじゃないか、むしろこうして後輩が尻を叩いてくれるなんて先輩冥利に尽きるというものだ、などと少しだけ嬉しくポジティブに考える。

 そう思いながら、隣に座る弥々をちらと見る。

 今朝は結局逃げてしまったわけだが。

 みもりの命により、命でなくとも、生徒会を抜け出すわけにもいかない。

 弥々にも、櫛夜にも。

 合わせる顔がない。

 どうやって接したらいいのかがわからない。

(朝は弥々から、昼休みは櫛咲くんから逃げてしまったものね)

 そんなことは綾自身が一番よくわかっているのだが、それでも難しいものは難しい。

 綾はいくら人が出来ているだの優秀だの言われていても、基本的にはただの高校三年生である。

 仲良い友人の機微を察することは出来ても、自分の精神状態をすぐに落ち着かせられるほどの精神力はない。

 しかも、原因が原因だ。

 自分に告白してきた光がすぐ側で黙々と作業していることも一つ。

 そして昨日思い出してしまった、あったかもしれない未来。

(いえ、あった、のよねこんな感覚なら)

 櫛咲櫛夜と、付き合っていたらしい、過去の自分。

 そんな自分を知ってしまった。

 思い出してしまった。

 そんな自分のままでは。

 なかなかどうにも、今現在の彼女である弥々に合わせる顔が、あるはずもない。

 なんて考えている様子をしっかりと弥々に見られていた。

 自分の挙動に関しては置いておいて、自分を見ていた理由を咄嗟に尋ねてしまう。

「ど、どうかした?」

 もちろんどうかしてるのは綾だ。

 それは綾も知っている。

 知っているので、弥々に窘められるかと思いきや、弥々もまたぎこちない風な顔つきをしていた。

 忙しなく動かしていた腕を止めて一言。

「ど、どうもしない」

 とだけ言う。

 この時点で綾も弥々の異変に気付く。

 弥々が素っ気無い、など、ありえない。

 ありえないと綾は言い切ることが出来る。

 弥々は自他共に認めるシスコンだが、綾も綾で負けないくらいにシスコンを自称している。

 妹大好き人間であるところの綾はすぐに、弥々が『どうかしている』理由に見当をつける。

「どうもしなくないでしょ。お姉ちゃんに嘘がばれないとでも思ったかー」

「なに綾お姉ちゃん、その妙なキャラは」

 顔を見合わせ、笑いあう。

 互いに変な気遣いなど普段しないので、二人ともが『どうかしている』状況が可笑しく思えたのだった。

 姉妹とは大体そんなものなのかもしれない。

 いつも一緒にいて。

 休みの日も仲良くしているような姉妹感においては、裏もなにもなく、あまり気を遣う機会はない。

 端から見れば気を遣っているような仕草も、大体互いに把握出来ていたりするとそんな行動は想定した上で次の自分の行動に移ってしまうため、本人達はそれが当たり前だと思っていたりする。

 例えば綾文姉妹においては、およそ洋服のサイズに大きな違いもないので、よく私服で出かけるときには貸し借りをしているわけだが。

 その時に当たり前のやりとりが。

「これいい?」

「いいよー」

 だけだったりする。

 それだけで意思疎通が完璧にこなせるのだから、遠慮も何もない。

 そんな二人であるからこそ、おかしな空気を出してしまう自分達を笑えるのだろう。

 綾はきっと弥々も同じような感情で笑っているんだろうなぁ、と思いながらも今は少し我慢するように、と合図をする。

「今日一緒に帰ろっか。今は仕事しましょう」

「うん、そうだね」

 と、珍しく遠慮しあった姉妹は、現状を保留した。

 

 

 しかしながら、結果から言えば時は待ってくれなかった。

 仕事が一段落つき、そろそろ下校しよう、という時になると皆早めに書類を片付け始める。

 その頃には既に資料室から櫛夜と友莉も戻ってきており、同じようにみもりからの簡単な叱責を受け作業に入っていた。

 既に四月ではるが、今更のように昨年度の冬の寒さがすっかり消えていることを放課後の時間になると感じざるを得ない。

 窓の隙間からふわりと暖かい風が吹き込み、固定していなかったプリントが二、三枚机からひらりと舞い上がる。

 すぐ足元に落ちたプリントを拾おうと弥々が屈んだ時だ。

 ふいに光が立ち上がり、全員に向けて優しくもよく通る声で話し始めた。

「ちょっと話しておきたいことがあるんだけどいいかな」

 特に否定する者もいないので、光は続ける。

「森崎さんに怒られたばっかりだっていうのに私的なことで申し訳ないんだけど」

 と前置きをして。

 光はあっさりと告白する。

「実は僕、明日の放課後、綾文さんに告白するつもりで呼び出しているから、是非気を遣って欲しいな」

「「はっ!?」」

 突如発した光の発言にみもりと詩織が間抜けな声をあげてしまう。

 単純に脈絡のない展開についていけなかったらしい。

 他の反応としては。

 櫛夜と弥々は怪訝な顔つき。

 綾は落ち着きのない様子。

 友莉に優芽は、不安げな顔で、ある少女を見る。

 して、その少女。

 狩野奏音は。

 一つ年上の先輩である光瀬光に恋する少女は。

 滅多にない虚ろな顔をしていた。

「え、えと、本当ですかそれっ!?」

 詩織がはしゃぎながら光に迫る。

 うら若き女子高生にとって、恋の話は大好物らしい。

 無論、しがらみのない恋の話に限り、だが。

 綾がため息混じりに詩織に答える。

「まぁ、らしいわね」

「へぇ……」

「あんまりあれこれ聞くのもよくないわよ詩織」

 みもりが露骨にテンションを上げている詩織を窘める。

 ついでに、綾に近づく男に殺意を向けている(とみもりが考えるほどにひどい)弥々に気を向ける。

 この場で弥々が犯罪を犯さないように一応手を掴んでおく。

「うん、み、みもり?」

 まだ名前呼びが慣れきっていない弥々が、急に手を掴んできたみもりに顔を赤らめながら反抗する。

「いや、弥々がおかしな事しないようにって」

「し、しないよッ」

 そんな二人に詩織も加わる。

「ほんとかなぁ。弥々はたまに危ないもんねー」

「だからしないってば」

 弥々が詩織とみもりに腕を掴まれ、身動きが取れず脱力する。

 そんなほっこりするやり取りを優しく見ている櫛夜がとりあえず、と荒れたこの場をまとめる。

「まぁ、そういうことなら、明日は少し遅くなっても大丈夫です。俺も今日は侑李と二人遅れたわけですし」

「そうかい。ありがとう」

 光のお礼に、櫛夜は妙な感覚になるが時間も時間なので突っ込まない。

 綾も櫛夜のフォローを有難く頂戴する。

「早く帰りましょうか、ね」

 ようやくそれで全員が帰り支度を進める。

 その間ずっと、奏音が停止していたこと。

 停止した奏音をあれやこれやと囲む友莉と優芽の姿があったことに。

 櫛夜も綾も弥々も気付き、しかし無視したのであった。

 

 

 帰り道。

 綾と弥々は並んで歩く。

 夕焼け空が赤と黒の色を交互に滲ませる。

 駅から家までの道のりはそう長くはないが、色々と思考しながら歩くには十分な距離がある。

 例えば、二人積もる話をしながらゆっくり歩くくらいの距離は、ある。

「不思議だね」

 弥々が口火を切る。

 綾と弥々は仲良く手を繋いでいる。

 すれ違う人が一瞬二人を物珍しく見るが、仲睦まじい二人に思わず笑顔が零れる。

「何が?」

 綾が優しく応じる。

 可愛い妹の、他愛もない話を聞くのが一番の幸せなのだが、ここ最近はこうした時間も短くなっているように綾は思う。

 仕方ないとも思うが、それでもやはり寂しいものは寂しい。

 もちろん、今日だって、普通の話が出来るかどうかは分からない。

 というか、出来ないのだろう。

「いつもと同じ道だよ。ここは」

 弥々の言葉は、いつもとは違う響きをしている。

 綾はてっきり、今朝弥々を置いていってしまったことを怒られたり、あるいはつい先ほどお互いに挙動がおかしくなってしまっていたことについて尋ねられるのかと思ったのだが違うらしい。

 それともこれからそういった話に移るのか。

 綾はしっかりと考えながら返事をする。

「いつもと同じ帰り道だね」

「うん」

 一歩、弥々は綾の前に出る。

「でも、昨日と今日だと、全然違うね」

 一歩先を歩く弥々から、仄かに香水の甘い香りが漂う。

 櫛夜と出会ってから、きっと彼女が恋をしてから購入したものだろう。

 それほどに、甘い。

「色が違うの」

「色?」

「そう、風景の色がね、違う」

 風景の色、と弥々が表現したものが何か、まだ分からない。

 今見えているのは、夕焼けに染まる世界。

 暖かい陽だまりの道。

 色があるといえば、もちろん目で見る世界には色が付いているが。

「昨日はね、眩しかった。眩しくて、眩しくて。眩しすぎて、周りなんて見えなかった」

「そう、今は?」

「今は、淡い」

「淡い……」

 弥々は、気持ちを風景の色に例えているのだろうか。

 であれば、風景が淡く見えているとは、どんな心象なのだろう。

「私はね、綾お姉ちゃんのこと、好きだよ」

 それについては、綾も自信を持って言える。

「私だって弥々のこと大好きよ」

「うん、知ってる」

 弥々が笑う。

 綾も、同じように笑う。

「全部を信じれる関係も、隠す意味を信じれる関係も、互いに偽りあえる関係も、私は綾お姉ちゃんに求めてないよ」

 今度はまた分からない。

 なら、何を求めているのだろう。

 弥々は今、何が言いたいのだろう。

 

「私、聞いてた」

 

 その言葉で。

 綾は自らの失態に気付く。

 その場で、過去の自分を殺したくなるほどに。

 聞いてた。

 何を? 

 綾の言葉をだ。

 いつ? 

 今日の昼休み以外ありえない。

 どうして? 

 綾自身が、それを嘆いていたからだ。

「別にね、だからどうこうって話じゃないの」

 弥々が青ざめる綾に、まるで言い聞かせるように話す。

「私は怒ってないし、怒る理由もないし、怒る必要がない」

「怒って、ないの?」

「うん、だって今を繰り返す前に、櫛夜先輩と綾お姉ちゃんが好き合ってただけでしょ?」

 飄々と話す弥々は笑顔のままだ。

 そこに寂しさはほとんど混じっていない。

 ちょっぴりと混じる寂しさは全て、綾に向けたものだ。

「ごめん……」

「綾お姉ちゃん、それは怒るよ」

「え?」

「だから、私は綾お姉ちゃんのことが好きなんだってば」

 弥々は先ほどの台詞を繰り返す。

 そして歩みを止める。

 弥々に合わせて綾も足を止める。

「ねぇ。どうだったのかな、過去の私は」

「どうだった、って」

「私はさ、やっぱりおかしいな、変だなって思ったの」

「何を?」

「だって、気付いたらあっという間に好きになってるんだよ、櫛夜先輩の事」

「……」

 綾の返事を待たず、弥々は続ける。

「大したこともしてないよ。櫛夜先輩、ちょっぴり私の事を認めてくれただけ」

「認めて、くれたんだ」

「そう、認めてくれたよ。それだけでさ、好きになるなんて、変だよねって」

「そうかしら」

「んー、だからさ。きっとこれは積もり積もった私の気持ちなのかなって」

「前の時間も含めて、ってこと?」

「そう。繰り返し繰り返し、貯めていた想いなんだろうって」

「そっか、そうなのかもね」

「綾お姉ちゃんはどう?」

「どう、って」

「櫛夜先輩の事、好き?」

 前の時間で付き合っていたのならば、当然。

 綾にもそんな気持ちの積み重ねがあるのではないか、という質問。

 正直な気持ちを、聞きたいところだ。

「別に、そういうのは、ない」

 だから、この綾の言葉を信じるわけにはいかない。

「きっと私もそう言ったよ」

「え、と」

「たぶんね。私も、前の時間でそう言ったんだよ綾お姉ちゃんにさ」

 きっとそれが、姉妹で初めて、気を遣った、綾文姉妹にとっての大事件。

「綾お姉ちゃんに申し訳なくって、たぶん私は何も言えなかったんだよ。それで繰り返した結果が、今」

 今。

 つまり、自分からアプローチをして、櫛夜と恋人関係にある、今。

 それを心のどこかで、望んでいたのだろう、と。

 弥々はそう言う。

「でも、それで綾お姉ちゃんとこんなになるのは、嫌だよ」

「そうね」

 綾が、一歩先にいる弥々に追いつく。

 隣に並ぶ。

 そして大きく大きくため息をついてから、弥々の望む答えを出す。

「分からないわよ。もう何が何やら、意味が分からないことばっかり」

「そうだね。私もそう」

「未来視が出来るようになって。友莉ちゃんが危ない目に遭うことが分かって。櫛咲くんを生徒会に引き入れて。弥々と櫛咲くんの仲のこともあって。挙句光瀬くんに告白もされちゃった」

「光瀬先輩のことは完全にノーマークだったよ。知ってたら邪魔したのに」

「邪魔したんだ?」

「した、かもしれない」

「分からないな。今の私が櫛咲くんのこと好きかどうか、なんて」

「そっか」

「実感はあるのよ。以前付き合ってたような、ね」

「そっか」

「私、弥々の邪魔をするつもりはない」

「知ってる。確かに邪魔されたくはない」

「でしょう?」

「でも、隠し事されたまま静観されるのはもっと嫌」

「そう?」

「うん」

「でも、全部を言い合える関係は、要らないんでしょう」

 先ほどの弥々の言葉で綾が揚げ足を取ろうとする。

 が、そんな攻撃が今更通じるはずもない。

「うん、要らない」

「じゃあ、どうして欲しい?」

「どうもして欲しくないよ。綾お姉ちゃん」

「なら私がなにしたっていいじゃない」

 

「よくないよ。私、ただいつも通りでいたいだけだよ」

 

「そっか……そうだね。私も、そうかも」

 綾が弥々と繋いだ手を一旦離し、更に近づけて腕を組む。

「わわッ?」

「ふふっ。弥々、かわいい」

 腕を組むだけでなく、顔も弥々にぴったりとくっつける。

 普段では見せないような仕草で甘える綾に弥々も驚く。

「ねぇ、じゃあ、一つだけ言わせて、弥々」

「なぁに、綾お姉ちゃん」

 

「過去も未来も関係ない。私たちは今に生きているんだから、あったかもしれない時間に惑わされちゃ駄目よ。今目の前にいる人との時間が私たちにとっては全部なんだから」

 

 そんな綾には似合わない、いっそ恥ずかしいまでの台詞を弥々はしっかりと受け止める。

「うん、今が大事だよ。櫛夜先輩のことも友莉先輩のことも、綾お姉ちゃんのことも、ね?」

「えぇ、そうね……」

 弥々に体重を預ける綾に対抗するように、弥々からも力を加える。

 そうやって二人、互いに寄り添いあって歩き出す。

「ふふふッ」

「どうしたの?」

 突然声に出して笑い出した弥々。

「綾お姉ちゃん、だーいすき」

 妹からの明確な好意を、綾は有難く頂戴する。

「弥々のこと、だーいすき」

「櫛夜先輩のことは、まぁゆっくり考えようか」

「そうねぇ。考えるようなこともないけれど」

「まずは目の前の侑李先輩のこと、どうにかしないとだね」

「うん、そうね」

「綾お姉ちゃんは……」

「ん? なぁに?」

「やっぱいいや。光瀬先輩のことも、ちゃんと考えておいてね」

「言われなくても、ちゃんと答えるわよ」

 

 そうやって帰路に着く姉妹の瞳に映るは。

 ほんの数分前まで淡く映っていた、その景色の色。

 それは淡いパステルカラーなどではなく。

 より鮮やかで。

 より濃く。

 より強く。

 暖かな色に満ち溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ