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屈辱の記憶と荒れ狂う烈火

森は静まり返り、ルシッラの微かなすすり泣きだけが響いていた。しばらくして、ガランはガイウスの肩を叩き、悲しみに暮れる少女を指差した。ガランが顔に手を当てたり、肩をさするような身振り手振りを交えると、ガイウスの瞳に理解の色が浮かんだ。


ガイウスは立ち上がり、光の杖をガランに預けてルシッラの元へ歩み寄った。彼女の隣に座ると、一つ深呼吸をして、そっと彼女の背に腕を回した。ルシッラは彼に寄りかかり、押し殺した泣き声を彼の肩に埋めた。


「よし、ガイウス」ガランが静かに言った。 「……何?」 「次は、お前の番だ」


ガイウスは遠くを見つめ、肩をすくめた。「話すようなことなんて、たいしてないよ。僕は、一緒に旅をしてるあの貴族の『落とし子』ってだけさ」


ルシッラが驚いて顔を上げた。「……本当なの? 私はずっと、正式な息子さんだと思ってたわ」


「いいや」ガイウスは苦々しく笑った。「事実を認めれば、あいつの面汚しになるからな。あいつは他の子供たちには一度も手を上げなかった。標的は、僕と母さんだけだったんだ」


「……何があったの?」ガランが尋ねる。


ガイウスは拳を握りしめた。「あいつにとって、僕はただの過ちだった。邪魔者でしかなかったんだ。僕はあいつの『本当の家族』の影で生きてきた。あいつらには家庭教師がつき、贅沢な食事が振る舞われた。一方で僕は、厩舎や厨房の『手伝い』に回された……。少しでも失敗すれば、すぐに鞭が飛んできたよ。母さんは……いつも僕を庇おうとしてくれた」


彼は視線を逸らし、声を震わせた。「母さんは夜な夜な泣いて、痣を隠そうとしていた……。そんな生活が母さんを蝕み、やがて何も残らなくなった。僕が八歳の時、母さんは自ら命を絶ったよ」


拳に力がこもり、爪が手のひらに食い込む。「葬儀の時、あいつが初めて笑うのを見た。死んでさえ、母さんはあいつに利用されるだけの道具だったんだ……。自分をよく見せるための小道具に過ぎなかった。その後、あいつは僕を自分の屋敷の奴隷にした。僕はどうにか生き延びた。そして十三になった時、家を出たんだ」


彼はそれからの数年間、路上で生きてきたこと、やがて魔導師アルカニストとしての才能に目覚めたこと、そして皮肉にも幼少期の自分を苦しめた張本人に雇われることになった経緯を語った。「奴隷から魔導師か」彼は悲しげに笑った。「今や、かつて自分を壊そうとした男に仕えているんだからな」


ガランはゆっくりと頷いた。「酷い皮肉だな。だが、世界というやつは、ああいう男にこそ報いを与えるものだ」ガランは言葉を選びながら続けた。「つまり……権力を持つ人間が『誰も見ていない』と気づいた時、彼らは裏で取引を始める。他人の不幸を糧にして利益を得る方法を見つけ出すんだ。……ただの品物やサービスの売買じゃないものをな」


ガイウスの表情が強張った。「……あいつ、人間を売っているのか」


「知っていたのか」ガランの声は冷徹で、静かだった。「ああ、その通りだ。単なる労働力としてだけじゃない。尊厳を奪い、魂まで売り飛ばすような場所へな。そしてその金で沈黙を買い、兵を買い、人間を買う」


「……ああ、よくある話だな」ガイウスは絶望したように呟いた。


ルシッラは恐怖に目を見開き、震えていた。「待って、ガイウス……どうしてそんなことを知っているの?」


「知らない方がおかしいさ」ガイウスが答える。「ワイナリーの北西に集落がある。あいつらが人間を閉じ込めている場所だ。僕は三歳の時、そこで手伝いをさせられた。何人かを逃がそうとしたけど……誰かに裏切られた」彼は歯を食いしばった。「母さんと他の捕虜たちの前で、背中が血まみれになるまで鞭で打たれたよ。でも、一秒たりとも後悔なんてしてない。……絶対にだ」


「ガイウス……」ルシッラが彼の手にそっと自分の手を重ねた。


彼は無理に笑みを作った。「いいんだ。もう自分の中で決着はついている。……だいたいはね」


「そんなこと、あっていいはずがないわ……」ルシッラの唇が震える。「私やアウレリア先生に、何かできることがあればよかったのに」


ガランの瞳に、鋭く危険な光が宿った。「……ああ、まだできることはあるぞ」


「……どういう意味?」


「すべては今夜、終わる」


「……計画を聞かせてくれ」ガイウスの声に、突如として鋭い集中力が宿った。


「神聖評議会は、帝国を蝕む害虫を根こそぎ駆除するつもりだ」ガランが説明する。「俺の標的は、お前の父親だ」


「そんなことできないわ!」ルシッラがよろめきながら叫んだ。


「神々の命だ」ガランは肩をすくめた。「俺がこの仕事を引き受けただけでも幸運だと思え。普通の暗殺者なら、目撃者を生かしておくような慈悲は持ち合わせていない」


「でも……話し合いで解決できないの?」


「十年間話し合って、何も変わらなかったんだ」ガランは不敵に笑った。「そろそろ、世界を良くするために変革が必要だと思わないか?」


ルシッラは力なくうなだれた。


「殺すつもりなら」ガイウスが瞳を燃やして言った。「その外套マントは何だ? 武器はどこにある?」


「この外套は気に入ってるんだ。妻に誂えてもらった特注品でな。あと、俺は素手で戦う主義だ」ガランは自分の手のひらを見せた。


「……なら、やってくれ」ガイウスが立ち上がった。


「待って、お父様なのよ!」ルシッラがパニックに陥る。


「いいや」ガイウスの声は凍りついていた。「あいつは怪物だ。怪物らしく狩られるのがお似合いさ」


ガランが一度、パンと手を叩いた。「よし。話がまとまったところで……いよいよ開演といこうか!」彼は立ち上がり、砦の方へと歩き出した。

『野郎ども、準備はいいか?』団員たちに思念を送る。


『……二十分前から終わってますよ、あるじ』全員から、呆れ果てた返信が同時に届いた。


ガランは低く笑った。『おっと、悪かったな。待たせてしまって』


『ちょっと待って、まず手を洗わせて!』アエリアの思念が割り込む。


ガランは決まり悪そうに後頭部を掻いた。ガイウスとルシッラは、彼が何をしているのか分からず戸惑った表情で顔を見合わせている。


「あともう少しだ」ガランが呼びかける。「辛抱しろよ」


『オッケー! 準備完了!』アエリアが思念を飛ばす。


「よし。三、二、一で始めるぞ」ガランが声を張り上げた。「アエリア! フラヴィア!」


彼は右手を掲げ、指をパチンと鳴らした。

第二章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ガランが歩む断罪の道、そしてその果てにある真実を見届けたい方は、ぜひブックマークでの応援をお願いいたします。

皆様の一票が、この『救世主の年代記』を刻み続けるための、何よりの励みとなります。次章もどうぞお楽しみに。

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