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第二章:貴族一行、最期の休息

数十年以上前。アウグスタ・ウィンデリコルムとアクアエ・スリスを繋ぐ街道の半ばで、双子月が荒野を不気味なほど静謐な輝きで照らしていた。それは、ガランの人生のすべてが変わったあの夜に見上げたものと同じ、銀色の光だった。


数マイル離れた切り立った崖の端で、ガランは木に背を預け、目を閉じていた。眠っていたわけではない。


念波マインドキャストを通じて、彼の意識は暗い森の広がりを越え、古びた街道へと伸びていた。そこで蹄の響きと馬車の車輪がきしむ音が、静寂を破っていた。


屠殺とさつを待つ子羊どもだ。彼は、飼う価値もないほど質の悪い毛をまとった羊を捜していた。彼の世界では、腐敗しか生み出さない獣は「間引き」の対象として印をつけられる。


「止まれ!」ラテン語(羅語)を話す若い案内役ナビゲーターの声が、冷たい空気を切り裂いた。「目的地に到着したぞ!」


船団ならぬ馬車の一団が、崩れかけた古い砦の壁の内側で停止した。貴族の馬車が厩舎の間に止まり、一行が馬から降りる。空気は湿った木と苔の匂いで重く沈んでいた。


疲れ切った案内役のマルクスが、荷下ろしの指示を出す。二人の護衛が馬車の屋根に登り、携帯用の《神の宝物庫ディヴァイン・ヴォールト》に手を伸ばして物資を下ろしていった。


「なあ、マルクス」護衛の一人が干し草の束を放り投げながら声をかけた。「本当に、これ以上は進めないのか?」


マルクスは地図を見つめ、ため息をついた。「次の都市まではまだ二十五マイルある。今休んでおけば、明日何が起きても対応できるだろう」


「違いない」別の護衛が口を挟む。「いい夢を見ろよ、マルクス。吸血鬼ヴァンパイアに噛まれないようにな」彼は地面に飛び降りた。


「地獄に落ちろ」マルクスは顔をしかめて毒づいた。


(必死に生きている案内役……そして、命令に従っているだけの護衛か。端役はたやくどもだな。もっとも、あの娼館の一件では何らかの役割を果たしていたのかもしれんが)


ガランは冷徹に観察した。


野営地が活気づく。護衛たちが刈り込み用の刃で荒れた中庭を掃き清め、別の者たちが「魔導清掃袋マジック・バッグ」を起動する。袋からは貪欲な魔力の触手が伸び、瓦礫を次々と飲み込んでいった。


傲慢さと怠惰さを絵に描いたような貴族が、馬車の近くの椅子に腰を下ろした。「手を動かせ、ガイウス!」彼は怒鳴り散らした。「貴様のような役立たずを連れてきたことを後悔させるな、この豚め!」


見習いの少年、ガイウスは、魔導式のインスタント・テントの重さに四苦八苦していた。彼がテントをガシャンと音を立てて落とすと、護衛たちから嘲笑が漏れる。


「こんなの……持ち上がらないよ……」彼は額の汗を拭い、喘いだ。


ガランの意識が集中する。数マイルの距離を超えて、少年の肉体的な疲労と、貴族の罵声による精神的な圧迫が伝わってきた。


(……あいつが標的か) ガランの心の中に、冷たく硬い判決が下される。 (重い罪状だ。だが、あの少年のほうに興味を惹かれるな)


「ルシッラ! アウレリア!」貴族が叫ぶ。「私のテントを張れ!」


二人の侍女が急いで命令に従う。年長で経験豊富なアウレリアが、重い方の荷を担いだ。「せーの!」


二人がタイミングを合わせて荷を放り投げると、縫い目に沿ってルーン文字が輝き、テントが一瞬で展開された。数秒のうちに、頑丈な骨組みを持つシェルターが完成する。


(二人の若い侍女……年上の方は、間違いなく彼女だな)


「さて、ベッドを中に運びましょうか」とアウレリア。


だが、ルシッラは自分のテントと格闘しているガイウスを気にかけ、視線を送っていた。


「助けてあげなさい」 アウレリアが命じた。ベッドの運び入れくらい自分一人でこなせることを、彼女は知っていた。


ルシッラはうなずき、恥ずかしそうな笑みを浮かべて見習いの少年に近づいた。彼が愚痴をこぼしているのが聞こえる。


「これ、どうやるんだ? 投げればいいのか?」 「いいえ、それは――」 ガイウスが弾かれたように振り向く。「わあっ! 驚かせないでよ!」

「ごめんなさい!」ルシッラは口元を抑えた。「手伝いたかっただけなの」


「いいよ、別に」ガイウスの表情が和らぐ。「で、なんて言ったんだ?」 「ポールの両端を軽く叩いてから、離れればいいの。でも、今回は私が手伝うわ」


二人がかりで起動すると、テントは夜の闇の中に完璧な形となって現れた。ルシッラはガイウスに向き直る。


「終わったから、私は先生のところに戻るわね」彼女の声は控えめだった。


「残りのテントも僕が運んでくるよ」ガイウスが心からの笑顔を見せた。「本当に助かった。ありがとう」


ルシッラは首をかしげ、視線を落とした。「……たいしたことじゃないわ」


二人を見守りながら、ガランは冷ややかな憐憫れんびんを感じていた。彼女は若く、その心は無垢な思慕と義務感で満たされている。


(二人の怪物を主人に持っていながら、この娘の手は汚れていないか) ガランは彼女の純粋な意図を読み取った。


数ヤード先から、二つの大きな寝具を肩に担いで貴族のテントへ向かっていたアウレリアが、二人に声をかけた。厳格だが、温かみのある声だった。


「よくやったわ、二人とも。でもルシッラ、感謝の言葉にはちゃんと礼儀正しく返事をするのよ。自分の感情に流されて作法を忘れてはいけません」


ルシッラの顔が跳ね上がった。「あ!」 頬に深い朱が差し、彼女は震えながら地面を見つめた。ガイウスはただ決まり悪そうに笑っている。


「ええと……彼女を助けに行ったほうがいいよ」彼はマルクスのほうを親指で指し、言葉を濁した。「僕はあっちに戻るから」


ルシッラはぎこちなく、何度も頷いた。「……ええ、そうね」


二人が別れた後、ルシッラはこらえきれずに笑みをこぼした。


ガランはそれに気づき、頑なだった自分の唇にも笑みが浮かぶのを感じた。

(あいつらの恋路を邪魔したくはないが……俺の計画が、二人の仲をあまりかき乱さないことを願うばかりだな)


意識をキャンプの中心へと移すと、料理番のトゥリウスが火にかけた鍋の様子を見ていた。


その兄で監視役のデキムスが、ニヤニヤしながら身を乗り出した。「おい、トゥリウス。あそこの『恋する乙女』を見てみろよ」彼は茶化した。


「放っておいてやれ、デキムス」トゥリウスはため息をついた。 「いいじゃないか。あの子を見てると、昔の『誰かさん』を思い出さないか?」


「それも、お前には関係のないことだ」トゥリウスが唸るように言う。 「ちぇっ、つまらねえ奴だな」

「面白いことがしたいなら、さっさと豚肉でも取ってこい」 「おっ、話がわかるじゃないか!」


(料理番と監視役か……)ガランはその価値を測った。(本国にこういう連中がもっといればいいのだがな)


デキムスは馬車へと大股で歩き出した。「どいたどいた、お嬢ちゃんたち! 料理長様がお出ましだぞ!」


「やった! お腹ぺこぺこだよ!」ガイウスが叫ぶ。 「そう急ぐな、坊主。まだベッドを運ぶ仕事が残ってるぞ」年長の衛兵隊長が釘を刺す。 「えーっ、マジで?

もう疲れたよ」


その間にも、デキムスは神の宝物庫から凍った大きな肉の塊を取り出した。


それを見たガイウスは元気を取り戻し、ベッドの荷下ろしに駆け寄った。「よし! さっさと片付けよう!」


子供が衛兵のテントに入っていくのを見て、貴族は高笑いした。「ははっ! どうやらそんなに疲れてはいなかったようだな!」


ガランは、彼らの思考の中に渦巻く期待を味わった。長い旅の後の温かい食事、他愛のない兄弟の会話、そして休息への安堵感。彼らは、自分たちの安楽を支える富がどれほど血塗られた土台の上に築かれているかも知らず、平穏な日常を生きている。


(無知は免罪符にはならない)ガランは冷徹に計算した。(だが、情状酌量の余地はある)


野営地に笑い声が響き渡る。忍び寄る闇を押し返すような、温かく親密な音。


彼らはそう信じていた。


ガランはその喜びが夜の空気の中に消えていくのを聞き届け、手元の帳簿を閉じた。無垢な者には印を。罪深き者には秤を。


審判の時は、すぐそこまで来ていた。


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