覇者の述懐と幕間に開く威容
照明が明るくなるにつれ、場内には穏やかな会話のざわめきが広がり、先ほどまでの重苦しい悲しみは、静かな温もりへと取って代わられた。三階席では、一恵が自分を慰めてくれた見知らぬ女性に寄り添っていた。その頬には涙の跡が乾き始めていたが、心はいくぶん軽くなっているようだった。
ホールの向かい側では、正の子供たちが父親の箸から差し出された鴨の煮付けを嬉しそうに頬張っていた。彼らの無垢な心には、先ほどこの部屋を満たしていた悲哀を理解することはできなかった。
ガランは椅子に深く腰掛け、その場の空気を味わっていた。「春の始まりにはもってこいだな」彼は正彦の方を向いた。「どうだ、あんたは大丈夫か?」
正彦は夢から覚めたように瞬きをした。「……ああ、はい。オダ様、私は大丈夫です」
「あの戦争は、それほど酷かったのか」
「ええ……」正彦は声を落とし、首を振った。「死者の数は凄まじいものでした。両国の働き盛りの男たちの半分が……消えたのです。すべては、些細な宗教的対立のために。近隣の国々が手を貸さなければ、すべてが崩壊していてもおかしくありませんでした」
「……お察しするよ」ガランの声には、心からの同情がこもっていた。
「ありがとうございます」
長い沈黙の後、給仕が料理を運んできた。鴨の醤油煮と、鯛の塩焼きの香ばしい匂いが辺りに漂う。
「よし、食べよう(タベマショー)!」ガランが声を張り上げた。
正彦はそっと両手を合わせた。「……いただきます」
ガランは迷うことなく鴨の切り身を突き刺し、豊潤で柔らかい肉の味を堪能した。一方の正彦は、より静かに、まずは熱燗を一口啜ってから、こんがりと焼けた鯛の身を解した。食事が進むにつれ、正彦の心に好奇心が芽生え始めた。
「オダ様、もし差し支えなければお聞きしたいのですが」彼は切り出した。「あなたも、戦争でそのような喪失を経験されたことがおありなのですか?」
「いや、あまりないな」ガランは口に米を運んだまま答えた。「だが、戦場に行かなかったわけじゃない。俺が優れた指導者だったからこそ、俺の率いた軍は一度として敗北を喫しなかったというだけだ」
正彦は食べる手を止め、その瞳に微かな畏怖を浮かべた。「……左様ですか。では、あなたが征服した土地の人々はどうなったのですか?」
「いい暮らしをしてるさ」ガランは肩をすくめた。「戦時中に極悪非道な真似でもしていない限り、全員に市民権と恩赦を与えたからな」
正彦の不安は消え、代わりに控えめな敬意が宿った。「それは驚くべきことです、オダ様。将軍様も、あなたのような慈悲深いお方を必要とされるでしょう。もしあなたが大名であったなら、その領地はさぞかし繁栄したことでしょうな」
「よせ。俺はそんな清廉な人間じゃない」ガランは鼻で笑った。「故郷を守るために、何千という人間を屠ってきたことには変わりないんだ」
「ですが、それでも。権力を持つ者で、あなたほどの自制心を示せる者は滅多にいません」
「ああ、それはよく言われるよ」ガランはまた一口食べた。「……その言葉がずっと俺の背中を追いかけてくるのは、正直言って薄気味悪いくらいだ」
正彦は小さく笑った。「……では、それが真実なのでしょうな。あなたの良さを見抜いているのは、私だけではないようです」
「ふん、あんたの言葉を信じておくとしよう」
それからは、心地よいリズムだけが二人を包んだ。箸が触れ合う音と、時折聞こえる汁を啜る音。そして再び、アナウンサーの声が空気を切り裂いた。その神語は澄み渡り、凛として響く。
「ご来場の皆様、お食事中失礼いたします。これより次の演目へと移らせていただきます。間もなく、鴉の姫君の魅惑の歌声が、皆様を『常峰の風』へと誘います。彼女の歌が、皆様のひとときにさらなる彩りを添えることを願っております」
会話のざわめきが消え、劇場の照明が黄昏時の淡い光へと落とされた。緞帳が再びゆっくりと開くと、観客から一斉に驚きの声が上がった。先ほどまでの桜の木は消え去り、そこには威容を誇る山のモニュメントが鎮座していた。
大理石を加工して作られた様式美溢れる峰々が舞台にそびえ立ち、黄金の光に照らされている。左の峰にはフードを被った一人の烏天狗が静かに瞑想して座り、その黒光りする嘴と翼が美しく輝いている。右の峰には、赤肌の巨大な大天狗が放浪の武人の如く立ち、その手には長い鉄木の杖が握られていた。
背景には、舞台全体を覆い尽くすほどの巨大な金屏風が広がり、そこには息を呑むような陽光溢れる風景が描かれていた。雲一つない空には巨大な紅い太陽が君臨し、果てしなく続く連山を温かく照らしている。麓には河が黄金色の麦畑と稲穂の間を縫って流れ、活気に満ちた港町へと注ぎ込んでいた。
観衆は細部まで作り込まれたその光景に感嘆し、あちこちを指差しながら囁き合っている。
「……ほう」ガランは独りごちた。「本当に背景を入れ替えたのか」
「何か仰いましたか、オダ様?」正彦が振り返った。
「いや、何でもない。ただ、これだけの装置をわずか十分で入れ替えたことに感心しただけだ」
「確かに見事なものですな」正彦も同意し、モニュメントに視線を戻した。「……一体どうやっているのやら」
ガランはニヤリと笑った。「……種明かしが知りたいか?」
「ええ、ぜひ」
ガランは一枚の黄金の皇金を取り出した。「いいか、よく見てろ」
彼は漁師たちに見せたあの手品を、再び繰り返した。
正彦の目が大きく見開かれた。「……おお! 実に見事だ。……ということは、舞台の仕掛けも、あなたのその手品の壮大な版というわけですな」
「そういうことだ」ガランは頷いた。「腎臓一つ分くらいの皇金を差し出す覚悟があるなら、あんたにだってできるぞ」
正彦は苦笑しながら、かぶりを振った。「いいえ、結構です。私の人生は、そのような魔法がなくとも十分に満ち足りていますから」
「はは、それもそうだな」
『覇者の述懐と幕間に開く威容』をお読みいただきありがとうございます。
今回披露された『さくら さくら』の新たな調べ、皆様の心にはどのように響きましたでしょうか? 感想などをいただけると執筆の励みになります。
ですが、劇場の熱狂はまだ始まったばかりです。次章では、鴉の姫君による、さらにスケールアップした演出のステージをお届けします。
次の曲が描くのは、「かつて自分がいた場所への、焦がれるような郷愁」。しかし、長い旅路の果てにようやく辿り着いた故郷は、自分が知っていた頃とは別の姿に変わり果てていた……。そんな、美しくも胸を締め付けるような情景を、圧倒的な映像美を彷彿とさせる筆致で描き出します。
変貌した故郷、そしてガランの心に去来する想い。その行く末が気になった方は、ぜひブックマークや評価での応援をお願いいたします。皆様の応援こそが、この物語を紡ぎ続けるための何よりの力です!




