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観衆の情念と鎮魂の『さくら さくら』其の二

歌の最後の一音が消え入るのと同時に、ガランは接続を断った。暗い記憶の海は退き、劇場の暖かな薄明かりと、あちこちから漏れる静かな啜り泣きの音が戻ってきた。


隣の正彦に目をやると、彼は舞台を凝視していた。いつもの冷静さは、この瞬間の重みに取って代わられていた。彼は、自らは直接知ることのなかった悲劇を、誠実な目撃者として受け止めていた。


三味線の音が止んだ。舞台中央に新たなスポットライトが咲き、金糸を織り込んだ白の十二単を纏った歌い手の姿を照らし出す。三味線の音色に代わり、慈母のように甘やかな歌声が響き渡った。


 さくら さくら  

 弥生の空は

 見渡す限り


ガランが念波を通じてその意味を汲み取る中、歌は続いていく。


 霞か 雲か

 匂いぞ出ずる

 いざや いざや

 見に行かん


再び三味線が響き始め、他の奏者たちも光の中に浮かび上がった。重厚な鼓動を刻む太鼓の奏者、そして鋭い音色で旋律を際立たせる、巫女装束の拍子木奏者。


歌声が一度消えると、今度は尺八の音色が主役に躍り出た。長く、ゆったりとしたその調べは、観客の剥き出しになった悲しみを優しく包み込む癒やしの香油のように響く。


ガランは感情の波が観客を洗っていく様を眺めていた。ある者は完全に心を乱し、共有された喪失感に涙を流している。またある者は、深く瞑目して思索に耽っていた。


視線を上げると、医師の正が目に入った。彼は深く考え込んでおり、その傍らで妻が眠る娘に授乳していた。その眼差しは慈愛に満ち、同時に潤んでいる。


二つ隣の区画では、一恵が肩を震わせて泣いており、見知らぬ女性がそっと彼女の手を握って慰めていた。ガランが念波を向けると、彼女が戦争で弟を失っていたことが伝わってきた。


歌い手の声が戻り、四つの楽器の旋律と完璧に溶け合っていく。


 さくら さくら

 全てに落ちる

 枝を残して

 儚く 揺れて

 哀れを忘れ

 今はここに

 歌を聴く


曲が再び繰り返されると、今度は最前列の観客たちが唱和し始めた。主催者に雇われた合唱隊だと、ガランは微かな可笑しみと共に気づいた。彼らは観客の悲しみを、共有されたコーラスへと導く役割を担っている。やがて、客席のあちこちから、歌詞を知らぬ者たちも精一杯に歌声を重ね始めた。


 さくら さくら

 弥生風には

 村を染めゆく

 その手に 家に

 温みを受けて

 いざ見ん いざ見ん

 守られむ


歌い手の長く尾を引く残響と、奏者たちの華やかな締めくくりと共に、演奏は幕を閉じた。一瞬の静寂の後、ホールは割れんばかりの喝采、拍手、そして指笛に包まれた。


共に歌った人々は、先ほどまでの重苦しい悲しみから解き放たれたように、晴れやかな表情を見せていた。歌い手は拍手が収まるのを待ち、語り始めた。


「皆様、ありがとうございます。今日、私たちはただ春を迎えるためだけでなく、もうここにいない大切な人々を想い、歌いました。彼らがいない寂しさは、今も私たちの心に深く刻まれています。けれど、たとえ悲しみの中にあったとしても、彼らは私たちが前を向き、笑って、共に温もりを分かち合って生きることを願っているはずです。愛しき魂たちに安らぎを、そして皆様に、明日を歩む強さがありますように。心より、感謝を込めて」


奏者たちが再び深く頭を下げると、観客は歓喜の声を上げた。カーテンが閉じられ、劇場の明かりが灯る。


「天照大御神様による新曲の初披露、素晴らしいステージでございました。空寵劇場一同、奏者の皆様の今後のさらなるご活躍をお祈り申し上げます。さて、これより十分間の休憩に入ります。次の演目の準備とともに、皆様にはお食事をお楽しみいただければ幸いです。もしお食事が届かない場合も、厨房スタッフが鋭意準備中ですので、次の幕間に優先的にお届けいたします。それでは、引き続き午後のひとときをお楽しみください」


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