港の喧騒
乗客たちが急き立てられるようにして波止場へと流れていく。その無秩序な群衆の重みを受け、足元の舷梯がガタガタと音を立てた。
使い古された厚板の端で、ガランは立ち止まってゆっくりと息を吸い込んだ。まず届いたのは、鋭く清涼な潮の香りだ。次いで熱気が、そして前方の市場から漂う重苦しくまとわりつくような匂い――揚げ菓子の油と焼けた肉の香ばしさが、物理的な重みとなって喉の奥に沈殿した。
彼が目を上げると、空はその真実を露わにしていた。
青空を背景に、二層の色彩が意志を持った細い糸のようにたなびいている。一つは女神の真の姿であり、もう一つはこの国を覆い隠すように施された「修正」の層だ。どちらの色彩も風に流されることを拒み、それを見る術を知る者にだけ、その存在を主張していた。
「……なるほど。そういうことか」
彼は独りごちた。周囲の観光客たちは、それぞれの理解の及ぶ範囲で空を見上げている。旅慣れた革鎧に身を包み、魔力付与された分厚いゴーグルを調整していたドワーフの一団が、空を睨みつけながら低い濁声で毒づいた。
「随分と鼻につく真似をしてくれる。警告か、あるいは誰かの見せびらかしか」
ガランは答えなかった。「見せびらかし」という行為には、それを見せるに値する観衆の存在が不可欠だ。だがこの光景から感じるのは、むしろ無関心に近い。自分の領域を侵せる者などここには一人もいないと決めつけている、女神の傲慢な設計思想だ。
ガランは彼らの脇を通り抜け、念波を周囲に走らせた。
聞きたくはなかったが、それでも他者の思考の断片が彼に触れてくる。品物の値段。些細な苛立ち。今日という一日をどうにか帳尻合わせしようとする、人々の静かな計算の音。
彼は歩調を緩め、蒸しあがった生地の香りに誘われるように列へ並んだ。空腹というよりは、単に気を紛らわせるための気晴らしだった。
順番が来ると、何千人もの観光客を相手にしてきたであろう、疲れと鋭さを宿した瞳の女店主が、定型的な神語で声をかけてきた。それはビジネスのために学ばれた、硬く、生活感のない響きだった。
ガランは少し間を置き、周囲の喧騒からその土地のリズムを読み取ると、地元の言葉で注文を返した。帝国をいくつも解体してきた精神によって、そのアクセントは完璧に調整されている。
「魚を二つ。鶏を一つ」
女店主の笑みが一瞬だけ凍りついた。見知らぬ異邦人の声に、自分たちの魂の響きを不意に見出した時特有の、純粋な驚きだった。
「……ああ」彼女は囁くように言い、肩の力を抜いた。「もちろんですとも、旦那」
ガランが手を差し出す。思考一つで、彼の手のひらの上の空間がゆらりと歪んだ。光すら反射しない、静かな黄金色の現実の裂け目。
そこから取り出したものを渡すと、取引という重みが彼に心地よい実感を残した。
「森で人殺しがあったというのは本当か?」ガランは尋ねた。
重苦しい沈黙が流れた。女店主の視線が通りへと向けられ、近くの商館の影を確認してから、再び彼へと戻された。
「……いいえ、旦那」彼女の声のトーンが落ちる。「うちはただの饅頭売りです。詳しいことは内陸の木こりたちなら知っているかもしれませんが……聞かないほうが身のためですよ。幻影の戦士を捜しに行く連中は、大抵、本当にそれを見つけてしまうんですから」
ガランは紙に包まれた饅頭を受け取った。「なるほど。ありがとう」
彼はその場を離れ、手首を軽くひねって残りの饅頭を空中に放り投げた。それらは地面に落ちることはなかった。地に触れる前に、彼の宝物庫の歪みの中へと吸い込まれ、消え去った。
港の端に向かって歩きながら、魚の饅頭を一口かじる。鋭い味が、旅の道中でこびりついた精神の霧を切り裂いていく。
前方の港湾施設がまばらになり、明るい空とは対照的な、静かで深い闇を湛えた森の境界線が見えてきた。
もしこの場所に、いまだ女神に抗う何かが残っているとすれば、それはあの森の中に潜んでいるはずだ。
ガランは饅頭を食べ終えると、手を払って汚れを落とした。木々を見つめ、その距離を測る。それは歩数で測るような、単純な距離ではなかった。
世界は驚くほど強情だ。だが、それは彼とて同じことだった。




