第五章:神域に息づく凡夫の営み
村の美容街を通りかかったガランは、冷笑を浮かべた。ベルベットを敷き詰めた宮殿のような店で、天使たちが自らの羽を整えさせるために多額の報酬を受け取っている一方で、地元の天狗たちは質素な木の屋台に並び、同じサービスを受けるために金を払っている。
極楽においてさえ、魂の価値には厳然たる格差があるというわけだ。
妖精やドラゴンのための宿泊施設を一通り視察した後、ガランは会場に到着して時間を確認した。午後三時四十二分。まだ一つくらいはチケット売り場が開いているはずだ。
入り口に目を向けたが、そこに係員の姿はなかった。代わりに、柱から吊るされた大きな看板が目に飛び込んできた――「完売」。
(ちっ、これだ)ガランは腕を組んだ。(プランBで行くか。転売屋ってのはどこにでもいるもんだ)彼はわざとらしく、ひどく困り果てたような表情を作ってみせた。
「ああ、なんてこった……チケットが売り切れだなんて!どうやって中に入ればいいんだ?」
少し離れたところで、いかにも怪しげな地元の男が、同じくらい素性の知れぬ二人の護衛に突き飛ばされるようにして前に出た。男は木箱を胸に抱えてよろめき、しぶしぶといった足取りでガランの方へ近づいてきた。
「ウパス……ウンダノン」 男がボソボソと呟いた。ひどい訛りのせいで、それは客への問いかけではなく、ガランに許可を与えるような妙な響きになっていた。
ガランは足を止め、眉をピクリと動かした。彼の頭の中では、その支離滅裂なフレーズが即座に正しい神語へと書き換えられた――「ウパス、エンダノン(お買い得ですよ)」。
(サタンのケツにかけて、こいつはひどいな)ガランは毒づいた。(こんなセリフで俺をカモろうっていうのか)彼は念波を伸ばし、一瞬にしてこの男の素性と窮状のすべてを読み取った。
「いくらだ?」ガランは日本語で、低く凄みのある声で尋ねた。
男はたじろぎ、周囲を神経質に見回した。「……何のことですかい、旦那?」
「いくらだと聞いてる。二倍か? 三倍か?」ガランは男が抱える箱に顎をしゃくった。「さあ、どうする?」
男の腕に力がこもる。「……チ、チケットのことですか?」
「そうだ。手短にしろ」
男は箱を開けた。「……一番安いので二百皇金、一番高い特等席は千三百です」
ガランの念波が、その価格が定価の三割増しに過ぎないことを確認した。予想外の安さに拍子抜けしたが、表情には出さない。「……少し高いんじゃないか?普通の人間がどうやってこんなもん買えるんだ」
「し、知らねえよ……」男の体が震え始めた。「俺はただ、開演前に全部売り払えって言われてるだけで……じゃなきゃ、家に帰しちゃくれねえんだ」
ガランはニヤリと笑った。「……いいことを教えてやろう。俺がこいつを全部タダで引き受けてやる。その代わり、評議会には通報しない。どうだ、いい取引だろう?」
男は絶望に顔を歪ませ、うなだれた。「そんな……旦那、そんなことしたら俺はボスに殺されちまう……。頼みます、勘弁してください……」
「いや、殺されやしないさ」
「……え?」
ガランが指をパチンと鳴らした。その瞬間、彼の念波は目に見えぬ蜘蛛の巣のように広がり、この男が借金をしているあらゆる人間を特定した。小さな村から日本中の賑やかな都市に至るまで。
彼の力は貸し主たちの記憶からこの男の借金を消去し、帳簿を焼き捨てるよう命じた。返済能力のない人間に金を貸し付けるような歪んだ連中への、彼なりの無茶苦茶な「財政管理」である。
「お前のボスの記憶からも、お前が金を借りている全員の頭からも、借金のことは綺麗さっぱり消し飛んだ」ガランは言った。「下っ端の連中もお前の顔を忘れている。安心して家族の元へ帰れ」
彼は震える男の肩を強く叩いた。「……自由の身だ、高橋。これからは酒と博打はほどほどにしておけよ、分かったか?」
高橋は凍りついた。借金という重圧が、一瞬にして霧散したことを魂で理解したのだ。彼は箱を落とし、鼓動を速めた。「……お、俺……俺は……自由だ!借金がなくなったんだ!」
彼は地面に膝をつき、深く頭を下げた。「ありがとうございます、神様! 約束します、誓います……これからは真っ当な人間として生きていきます!」
高橋は跳ね起きると、叫びながら走り去った。「直樹! 千代子! 今帰るぞ!」
周囲の者たちは呆然とし、ひそひそと囁き合った。ガランはそれを見送ると、薄笑いを浮かべて落ちていた箱を拾い上げた。少し離れたところで、高橋を監視していた元護衛たちが、ガランの介入による軽い混乱の中で顔を見合わせている。
「……あいつ、どうしたんだ?」一人が尋ねる。 「さあな。家族との待ち合わせに遅れそうだったんじゃないか?」 「……ところで、俺たちここで何してたんだっけ?」
「クソッ」二番目の護衛が慌てふためいた。「ボスにサボってると思われないうちに、戻るぞ!」 「あ、ああ! 行こう!」
二人はパニック状態で駆け去った。ガランは低く笑った。
箱を開けたガランは、自分用の最高の一等席を確保し、もう一枚を誰かに与えるために取り出した。そして箱を閉じると、それを高く掲げた。 「皆の衆!
チケットが余っている! タダで譲ってやるぞ!」
群衆が押し寄せ、悲鳴のような懇願が響く。ガランの念波が広がり、人々の記憶を精査して「最もふさわしい魂」を探り当てる。数秒後、一人の女性を見つけた。
名は矢野一恵。三十歳。大和国の明日香村で生まれ、今は近くの島で暮らしている。彼女は群衆の端で、古びてはいるが手入れされた桜柄の着物を着て、黒髪をお団子にまとめ、内気そうに立っていた。
貧しい生活の中でも、彼女は保育所や孤児院で子供たちの世話に一生を捧げる強さを持っていた。彼女の密かな願いは、ただ自分に寄り添ってくれる優しい男性を見つけることだった。
(……少しは寂しさを紛らわせてやるとするか)ガランは決めた。
「そこの、桜柄の着物の女! こっちへ来い!」
一恵はおどおどしながら近づいてきた。その瞳には不安が宿っている。ガランは片手を上げ、指をパチンと鳴らした。群衆が静まり返る中、彼の念波が再び島を駆け巡り、ふさわしい伴侶を捜索した。見つけた――西山誠。妻を亡くした罪悪感に苛まれながら、幼い息子を一人で育てる男。
ガランは誠の意識にそっと「考え」を植え付けた――『あの保育所へ行け』。
「一恵」ガランは優しく語りかけた。「いいか。誠という名の父親が、息子を預けに保育所へやってくる。その子を自分の子のように慈しんでやれ。そして父親が迎えに来たら……言葉を交わし、時間を共にするんだ。息子は母親を、彼は妻を必要としている。この『神』の頼みを聞いて、二人の欠けた場所を埋めてはくれないか?」
一恵は彼を見つめ、手を胸元で握りしめた。「……神様、私……私にそんな大役が務まるでしょうか」
「……分かっている、重荷だろう」ガランは彼女の肩に手を置いた。「だが、お前の優しさがどれほど多くの喜びを二人に与えられるか、考えてみてくれ。些細な親切がどれほどの重みを持つか、お前が一番よく知っているはずだ」
ガランは念波を使い、彼女の記憶の中の最も幸せな光景を呼び起こした。子供たちの描いた絵、分け合ったお茶、そして笑い声。一日の終わりに「また明日ね!」と手を振り、家路につくあの瞬間。
「……分かりました」彼女は涙をこぼしながら囁いた。「精一杯、あの人たちの幸せを願ってみます」
「よし。さあ、このチケットを持って試合を楽しんでこい。いいな?」
彼女は深く頭を下げた。「……ありがとうございます、神様」
一恵はチケットを受け取り、以前よりも背筋を伸ばして群衆の中へと消えていった。周囲から感銘を受けたような歓声が上がる。ガランは目を細め、次の候補者を探した。
仲田正。五十四歳。医師。家族とベンチに座っている彼の髪には、長年の献身的な奉仕によって白いものが混じっている。
彼は外国の医学書を翻訳して無償で知識を広め、常により良い治療法を模索し続ける聡明な男だった。今は無理やり休暇を取らされているが、その頭の中は、どうすればより多くの命を救えるかという思索で占められている。
「おい! そこの紫のジャケットの医者! 次はお前だ!」
正は驚いて顔を上げた。そして、ゆっくりと近づいてくる。
「正、お前の献身は計り知れぬ命を救ってきた」ガランは言った。「今ここで、日本の医学に黄金時代をもたらす鍵を授けよう」
ガランは空中に一冊の革装丁の本を召喚した。題名は『見えざる世界への探求』。
「我々の周りに存在する、極小の生物に関する研究だ」彼は説明した。「新しい医学理論だ。古い本だが、革命的な内容だ。お前のさらなる飛躍のための、新たな出発点になるだろう」
正の目が大きく見開かれた。「……神様、身に余る光栄です。ですが、このような貴重なものを私一人が独占するわけには……せめて写本を……」
「いいや。この本はまだ、凡夫が目にしていいものではない」ガランは本を差し出した。「今これを大衆に示せば、医学界は混乱に陥るだろう。だがお前なら、これを正しく扱い、時が来た時に世界へ明かすことができるはずだ」
正はうやうやしく本を受け取った。「……命に代えても研究し、さらなる救済のために尽力いたします。感謝いたします」
「……あっぱれだ。だが、たまには息を抜けよ。また一ヶ月の強制休暇を食らいたくなければな」 正は照れくさそうに首のあたりを掻き、笑った。
ガランは彼を力強く抱きしめると、さらに三枚の特等席のチケットを手渡した。「……それと、家族と一緒に試合を楽しんでこい。それくらいの報いはあっていいはずだ」
正は再び深く頭を下げ、家族の元へと戻っていった。ガランは時間を確認した。午後三時五十八分。
「皆の衆!」彼は声を張り上げた。
群衆が静まり返る。ガランは深く一礼した。
「……試合への関心、感謝する。忍耐強く待ってくれた礼に、残りのチケットをすべて空へ放つ! 手に入れた者の勝ちだ、存分に奪い合え!」




