第2話 魔石と銃の時代
魔法使いは力を失って久しい。
魔法とは、精霊と対話し奇跡を成すものである。
火、水、風――三大元素の精霊の能力を使役し、世界を動かしていた。
魔法使いでなければ人ではない――
そう言われた時代すらあった。
だがそれも、今は昔の話。
精霊の力を誰でも扱える「魔石」の登場で、すべてが変わった。
要は――精霊との対話を“プロトコル化”したもの。
魔法は「道具」になり、やがて「科学」に取り込まれた。
そして世界は、より単純で残酷なものへと変わる。
誰でも、誰かを簡単に殺せる時代。
明暦845年〜928年は戦争の時代だった。
その戦火のもととなったのが、火の魔石を利用した「銃」の登場だ。
魔法は発動に時間がかかる。
どれだけ熟練した魔法使いでも、数秒は必要だ。
だが銃は違う。
引き金を引くだけで、魔石が瞬時に小爆発を起こし、弾丸を撃ち出す。
速さで勝てるはずがなかった。
その上、どんなに熟達した魔法使いでも、その射程はせいぜい10クラッセ。
(クーちゃん注:1クラッセ=約1.5m)
銃は熟練者であれば100クラッセ先の的も当てられる。
勝負になるわけがない。
そしてその銃口は、真っ先に魔法使いへ向けられた。
特権階級だった魔法使いと、非魔法使いの戦争。
第1次フェーベル戦争。
魔石の発明者、ハイヴェール・イングラムは晩年こう言ったという。
「好奇心は猫をも殺す。あれは作るべきではなかった」
その後も戦争は続き、やがて世界は落ち着いた。
だが魔法使いの地位だけは、二度と戻らなかった。
「……はぁ」
魔法史概論のノートをまとめながら、私はため息をつく。
ハイヴェール・マリングレース。
魔石の発明者の血を引く家系。
魔法使いでありながら、魔法使いを没落させた家。
それが、私の家だ。
「まぁ気にしない気にしない。別に先生も悪気があった訳じゃないと思うよ」
隣でリンネが笑う。
「あなたの先祖、教科書に載ってるんだから仕方ないよねぇ」
彼女は私のメイドであり、クラスメイトでもある。
一年前、突然我が家に押しかけてきた少女。
「メイドにしてください」と。
今では身辺警護も兼ねて、こうして一緒に学校に通っている。
紅茶の腕は一流。
戦闘能力も――同じく一流。
彼女の腰には拳銃が下がっている。
「イングラム」
私の先祖の名を冠した銃だ。
この国において銃は、「解放と革命」の象徴。
誰もが持つ。
持たない方がおかしい、そんな世界。
女性向けの銃ブランドが存在し、
高級な銃を持つことが女性としてのステータスになるほど、
アクセサリーとして定着している。
……でも私は、持てない。
理由は分からない。
家の歴史か、罪悪感か、それとも――ただの意地か。
私が銃を持たないことをよく思わない人はたくさんいた。
両親もことあるごとに銃を持たないかと言っている。
そりゃそうだ、うちの家はこれで食ってるんだもんね。
「まだ魔法使いが特権階級だと思ってるんでしょ?」
昔、そう言われたことを思い出す。
私は魔法を使えない。魔法使いとはシャーマンのような存在だ。
精霊との対話を行うため、定期的な祈祷等を行う必要がある。
そして私にはもう精霊は見えない。
現代的な生活にどっぷりの私に愛想を尽かしたのだろう。
科学が魔法を代替した現代、魔法使いが魔法能力を失うことはよくある話である。
つまり自分は非魔法使いと変わらない、と幼いころの私は考えていたが……
周囲の人間は私のことをそうは見ていない。友人の言葉でそれを思い知った。
「やぁマリン」
思案に耽っていた私に声をかけてきたのはカレンシア・パルフィールド。
うちの会社の魔石開発部主任で、この学校の講師でもある。
魔石を作るためには高度な魔法制御能力、
つまり精霊との高度な対話能力が必要不可欠だ。
工業に転用されることが多い魔石作成は科学・工業の知識も必要である。
魔法と科学、この2つの両立は至難の業だ。
しかし社会として魔石の生産に需要がある以上、
それをやっている者ももちろんいる。
彼女がその第一人者であり、私の幼馴染でもある。
「まぁ、いつものことですよ。答えのない問いが頭の中をぐるぐる回っているんです」
「そういうときは自分の考えを紙に書き出してみるといい。案外アイデアが整理できたりするものさ」
「ありがとう。ところで、先生?」
「先生はやめてくれ。いつもどおりパルフィでいい」
「嫌ですよ。ここは学校だし、先生にふさわしい呼び方をしないと」
「まじめだなぁ、お前は」
軽く会話を交わした、その瞬間。
「お二人とも伏せて!」
リンネの声が響いた。
次の瞬間。
爆音。
視界が白く弾け――
意識が、途切れた。




