第1話 いしのなかにいる!――そして神に拾われた
いしのなかにいる!
最期は一瞬だった。
魔神さえ倒し、「死」など自分たちには起こりえないと半ば確信していたあたしたちですらたった1つのミスでこのザマだ。
テレポートマスからの直葬便。不運としか言いようがなかった。
しかし不思議と後悔はない。世界を救った。修羅も倒した。
この世界でやることは全てやったと思う。悔しさよりも充実感があった。楽しかった、とすら思った。
まあゲームの中だし、ダンジョンと街を往復してただけの人生ではあったけど。
自分が0と1に分解されていくのを感じる。
「まぁ、しゃーないか」――自然と声に出ていた。
全てを手放し、消滅に向かう不思議な感覚に身を任せたそのとき、
「その声」が微かに聞こえた。
「わが眷属よ……」
「いやだからさぁ、あたしはあなたの信者でも眷属でもないの」
「あれだけ私の力を行使しといてそれはないでしょう」
せっかく良い感じに「死」を受け入れられていたのに、
気づけば謎空間としか言いようがない部屋で自称「神」と口論をしていた。
コイツは自称「空間神」
確かにあたしは生前、空間神の加護を受けていた。
受けていたけれども、
それは単に、この加護の性能があたしの職業とマッチしていただけで特に信仰した覚えはないし、眷属になる気は1ミリもない。
「ごめん、事情は分かった
眷属とか言ってすみませんでした」
意外と素直じゃん。
「空間神の加護を得るっていうからてっきり信仰してるのかと……」
「あとちょっとカッコつけようとしちゃって……
神になったら1回は言いたいセリフでしょアレ」
神って意外と中二病なんだね。
「えっと、まあ話せば長くなるんだけど、私はあなたの世界の空間神じゃなくてね……」
という訳でガチで長かった空間神(あたしは心の中でクーちゃんと呼んでる。以下クーちゃんね。)の話をざっくりまとめると、
あたしの世界にいた空間神のモデルとなったオリジナルのガチ空間神らしい。
「それでですね、私はあなたを別世界に転生させたいんです。
イセカイテンセイってやつ」
「えー、やだ。めんどい」
「転生できなかったら死ぬんですよ?
死んだら天国とかあの世に行けて死者と会えるとか思ってます?
それ迷信ですからね
無に還るだけです」
「知ってるよ。でもあたしはあのパーティーのメイドとして死にたいの!
また他人として生きるなんてもってのほか!」
「いやーそう言わずに。もっと柔軟に考えましょうよ
人生が1回しかないと思うから、その人生に執着しちゃうんですよ?
何回も生があるとしたらどうでしょう?
まず常識を疑うところからはじめてはどうですか」
くそむかつくな、コイツ
「むーりー!むりなものはむりですー!
ってかあたしの人生は終わってるんだから死後に変な思想を植え付けないで!
あたしはあたしとして死にたいの」
「なるほど。それだけ前世にこだわってるということは、本当に充実した前世だったんですね」
「勝手に転生前提で話さないでもらえる?それは今世なんですけど?」
「いやまぁぶっちゃけ言うとあなたを異世界に送るのは確定事項なので今更ゴネられてもどうしようもないというか」
「は?マジで?」
「じ、じゃあこうしましょう
ほんとは異世界『転生』させたかったんですけど、異世界『転移』でどうですか?
それならあなたはあなたのまま異世界へ行けますよ。」
「融通利くじゃん!それならまぁ行ってやってもいいかな」
「良かった!交渉成立ですね」
「では行く世界を決めましょう
なにか生前やり残したことはないですか?」
あたしは考えた。行くしかないなら腹を決めるしかない。
やり残したことがあるとすれば……
「メイドになる」
「え、メイド?」
「そう。メイド。あたしがやってたのはゲームのジョブとしてのメイドね
回復をやりながら軽い戦闘もこなせる便利屋みたいな
でも次はほんとのメイドになりたい」
人に仕える側って、ちょっと憧れてたんだよね。
「いいのですか?メイドとは主に仕えるもの。
前世の自由な冒険者稼業とは全く違うのですよ」
「そうかもねー
でもやるって決めたの」
「じゃあまあせっかくあなたの『武力』が活きる世界に送りましょう」
「最後に、何か質問はありますか?」
「細かい質問なんて無限にあるけど、とりあえず1つだけ」
「クーちゃんはなんであたしをそんなに異世界に送りたいの?」
「私のことをそう呼んでるのですね。好きになってください。
質問の答えは、あなたが数少ない私の信者だからです」
「いやだから信者じゃねーし」
「まぁ信者じゃないにしても、ゲームを通してご縁があったじゃないですか」
「あなたも私も虚構から生まれた存在です」
「神って虚構なの?」
「そうですよ。空想上の存在です
強度としては二進数で存在するあなたより虚弱かもしれません
しかし、わたしを認識する存在、信じる存在が多いほど力を増すことができます」
「そして私はあまり力をもっていません。
とある世界でキリストというヤローに知名度を独占されまして、
唯一神が支配的に……」
その後クーちゃんはそのキリストとかいうやつとそいつの神について罵詈雑言を言っていた。
正直何言ってるか分からんがクーちゃんが雑魚だということは分かった。
「なので別世界で知名度をあげようかと」
「急に現実的な話じゃん」
「縁があったあなたを具現化して預言者として降臨させようと思いまして、弱体化したとはいえそれくらいする力はあります」
「要はキリストくんの神のマネするってことね。そんな姿勢だから弱小神なんだよ」
「別に弱小でもいいんですがそろそろ存在自体がやばいので……」
「なるほどね。事情は分かった」
「ほかに質問は?」
「ないわけじゃないけど、聞くほどでもないかな」
「それはよかった。それではいってらっしゃい。わたしの眷属」
「あー、よく考えたらこれ神による受肉か
これで名実ともにガチで眷属じゃん
わかったよ、私の神さま。気が向いたら向こうで布教してあげる。じゃあね。」




