episode33
「モデルってどういう事ですか?」
若葉は"まさか喜多川先生が視線の正体...?"と考えながら疑問を口にした。
「いやぁ。今、個展を開く準備をしていてね。学園祭の時に君を見かけて君の事を描きたいと感じたんだよ。でも、女子生徒だと思って探していたから見つからなくて...。最近になって男子生徒である佐倉君。君だと知ったんだ。」
美術の授業は2年からの選択授業のため、若葉はあまり喜多川のことは知らなかった。
「佐倉君!喜多川先生に描いてもらうなんて凄い事だよ!」
「...そうなの?」
「新進気鋭のイケメン画家で有名なんだよ!でも人物画なんて珍しいんじゃないかな?」
クラスメイトがそう言うと、喜多川は「そうだね」と言った。
「たしかに僕はほとんど風景画を描く事が多いんだけど...佐倉君を見た時、インスピレーションが働いたんだ。...どうかな?」
若葉本心としては断りたかった。しかし、周りの女子生徒達がもう話が決まったかのように、「喜多川先生の描く佐倉君、キレイなんだろうなぁ...」「喜多川先生の個展に佐倉のが出るなんてクラスメイトとして鼻が高い!」などと口々に話し出したお陰で断りにくくなってしまった。
「...あまりオレだってバレるようなのは嫌なんですけど...」
「!大丈夫!是非とも君にお願いしたいんだ...!!」
喜多川や周囲からの期待の籠った目に若葉は「ハァ...」とため息をつき、「わかりました。」と了承の返事をした。
「!ありがとう!それじゃあ、打ち合わせをしたいんだけれど...」
「今日の放課後以外なら今のところいつでも大丈夫です。」
「わかった。じゃあ、週末に僕のアトリエに来てもらう事は可能かな?」
「...先生のアトリエ、ですか?」
「うん。デザイン画はもう何枚か描いてあるんだけど、あまり人の出入りの多い所には持ち出したくなくてね...」
アトリエとは言え、教師の家に生徒が1人で行くというのは抵抗がある。若葉はやはり断ろうとしたが、喜多川に手を取られ、紙を手渡された。1枚の紙にはアトリエの物であろう地図が。それともう1枚、何か文字が書かれた紙が。そこには「君が男と付き合っている事は知っている。学校中に広められたくなければ...わかるね?」と脅迫めいた文が書かれていた。若葉は顔をサッと青くさせて紙を急いで畳むと、「アトリエですね。わかりました。」と小さく返事をした。
「ありがとう。君ならいい返事をくれると思っていたよ。」
「それじゃあ、僕はこれで。」と言い残し喜多川は去って行った。




