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陽㊱

 今になってようやく、乃愛が琴ちゃんを避けていた理由がわかった。

 今日来なかった理由も。

 みんなが気付いていると、乃愛自身も気付いていたんだ。だから、顔を合わせにくかった。

 久坂マネージャーについて聞かれるのが怖かったから。

 久坂マネージャーの子を身ごもり、そして――決して人道的には許されない決断をした自分を、隠せずにはいられなくなってしまうから。

 彼らに会えば俺が気付いてしまう事も予想していただろう。

 乃愛は今、どんな思いでいるのか。

 とにかくまずは、乃愛と会って話そう。給料云々は別にして、事実関係をはっきりさせなければならない。本当に赤ん坊の親が久坂マネージャーだったというのであれば、あの男を地の果てまでも追い駆けて償わせなければならないだろう。店が潰れたとか、給料が未払いだったとか、そんなのは何の言い訳にもならない。あの男には、乃愛に対して責任を負う義務があるのだから。

 それに――久坂マネージャーが有希さんやくーちゃんといった他の女の子にも手を出そうとしていた事を、乃愛は知っているのだろうか。知らないとすれば、大いに問題だ。乃愛が子どもの事を久坂マネージャーに詰め寄らないのは、久坂マネージャーはもちろん、その奥さんや子どもを慮ってのところもあるだろう。そんな必要はないんだ。あんな最低な男を気遣ったり、情けをかける必要なんて皆無だと言って聞かせなくては。

 なんでもいい。本人の電話番号でなくても、自宅の電話番号やメールアドレスでも車のナンバーでも、手がかりになりそうなものがあれば何でも思い出して貰おう。何一つ責任も取らず、傷も負わずにこのままのうのうと逃がしてたまるものか。

 俺は必死でクロスバイクのペダルと漕ぎ、アパートへと着いた。階段を駆けあがり、勢い込んで部屋のドアを開ける。


「乃愛っ!」


 しかし。

 俺を迎えたのは、がらんどうの部屋だった。

 乃愛の姿どころか、洋服や歯ブラシや化粧道具や食べかけのお菓子の袋やその他諸々の乃愛に関する全てはすっかり消え失せてしまっていた。

 炬燵の上に、一通の手紙だけを残して。



 陽君へ。

  今まで面倒見てくれてありがろう。

  きっともう、全部知ってしまったよね。

  それとも、もしかしたら知らないフリしてくれていただけなのかな?

  どっちにしても、陽君は本当にいいヤツだね。

  またいつか、会えたらいいなと思います。

                               乃愛


 その短い手紙が、乃愛の残した全てだった。

 部屋を飛び出し、大学や町中を駆けずり回っても、乃愛を見つける事は出来なかった。

 乃愛もまた、俺の前から消えてしまった。


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