陽㉗
部屋に帰ると二十二時を過ぎていた。一旦はテレビを点けたものの、クリスマス特番の映画やドラマ、しょうもないバラエティといったものばかりでうんざりし、すぐに消してしまった。
荷物を投げ出し、ベッドに腰を落とす。
吉沢陽、二十一歳のクリスマスは結局アルバイトで終わってしまった。
恋人と二人きりで過ごすロマンチックな夜ばかりがクリスマスではないと、わかってはいてもやはり空しさが込み上げる。年頃の健全な男である以上、特別な日に一緒に過ごす異性の一人ぐらいいてもいいんじゃないか、と思う。
去年のクリスマスはとにかく仕事が忙しくて、日中に琴ちゃんや有希さんが子どもを連れて遊びに来てくれた事もあって、ただただ振り返る間もなく一日が過ぎて行ってしまった。もしかしたら今年も顔を出してくれるかもしれないなんて期待したけれど、やっぱり来てくれなかったな。
有希さんに貰ったボールペンはあれからずっと、肌身離さず持ち歩いている。大学でも男からは「どうしてピンク」と失笑を買ったけど、女の子達はむしろ「可愛い」と褒めてくれた。有希さんは意地悪のつもりだったのか、ただ可愛いと思っただけなのか、どっちのつもりでベビーピンクを選んだんだろう。
携帯を手にして、有希さんとのメッセージ履歴を立ち上げる。俺と有希さんの間を飛び交う数少ないメッセージは、飾り気のない平坦な文章ばかりだ。それでも俺にとっては有希さんとの繋がりを示す数少ない宝物だった。
読み返すだけで、有希さんの顔が、声が、ほんの少し鮮やかな色彩で蘇ってくる。
そういえば、もうしばらく連絡も取ってないな。どうしているだろうか? お母さんや悠斗君と一緒に、楽しいクリスマスを過ごせているだろうか?
もったいなかったな。クリスマスを口実に会うきっかけを作れたかもしれないのに。有希さんにプレゼントを上げると言ったら断られるかもしれないけど、悠斗君にだったら喜んでくれるかもしれない。ああ、今更ながら良いアイディアだった。明日以降じゃもう遅いだろうか。クリスマスプレゼントはせめて二十五日までか。
『メリークリスマス』
ふと思いついて、メッセージを書き込んだ。しかし送信ボタンを押せず、画面を見つめる。
送ったら迷惑だろうか。返事をくれるだろうか。
反応が無かった事を考えると逡巡してしまう。送ってしまえば最後、返事が来るまで何時間でも何日でも待ち続ける事になってしまうと知っているから。何か通知が来たという度に画面を立ち上げては、有希さんではないと落胆を繰り返すようになるのだ。
でも今日は、クリスマスだ。この日を逃せば、次の機会はしばらくない。せいぜい元旦の日に「あけましておめでとう」と送るぐらいだろう。「今年もよろしく」と付け加えるのかどうかは別として……。
えい、と勢いで送信ボタンを押して、俺はそのまま携帯を蒲団の上に投げ出した。送ってしまった、もうどうにでもなれ、というやけっぱちな思いでいっぱいだった。
と、そこで――ピンポーン、とインターホンが鳴った。
時計を見ればもう二十三時近い。一体誰だ? まさか、有希さん? いや、そんなはずはない。こんな時間に来るとすれば大学の連中か。それにしても、クリスマスのこの時間って……。
俺は恐る恐るドアの覗き穴から外を伺った。
ドアの前には、乃愛の姿があった。




