98話 結論からの決別②
想心の心の準備ができるまで、僕は本当の姿でシロノ国にいた。僕を救おうとして汀春が封印された場所へと行く。何度もここに来てた。何かあるたびにいつも。艿花ちゃんとロゼちゃんの舞で祓えていたと思っていたけれど、僕から離れた邪神は、汀春の心に侵入するだなんて信じたくはなかった。
汀春が倒れた床に触れ、あの時、僕がもっと力があればこうなることもなかったのかな。ねえ、汀春。封印を解いて現世切符で行かせて正解だったと思うかな。あのまま封印されていたほうがよかったかなと思っていると、足音が聞こえ立ち上がる。
そこには滅多にここには来ないばあ様と人化した龍が現れた。ばあ様は冷酷な瞳で僕をみて、その瞳がいつも怖いと思ってしまうほど、ばあ様の瞳は苦手だ。
僕の近くに来てばあ様は、汀春が倒れていた床を眺め、言われる。
「なぜ、汀春の封印を解き、現世へと旅立たせた?」
「…あの時点で邪神様は僕の元へ必ず戻ってくると思ってたので汀春の封印を解いたんです」
「約千年弱、眠りについていた汀春は、ようやく生まれ変わり、心を想いやる子として成長したのは認める。だが所詮、あの子は龍桜家ではなく、寅萩家を選んだ。その意味はわかっているの?」
鋭い目で言われはいと答えると、ばあ様は龍を連れて龍宮へと帰られた。じゃあなんで天の世界に来させたのと思っていても、汀春のカステクラインが先に選んだから、おそらく天の世界に来させる必要があったのかもしれない。
もしなにもなければ想心は思穏くんと一緒に、父さんのもとでいろいろ学んでいたんだろうな。
あぁ、うざい。
なんで、なんで汀春の隣にはいつも僕じゃなくて紅葉川家の人間なの。どうしてよとイライラしていたら聞こえる。
〝手伝ってやろうか?〟
まだ時は来てないと邪神に言い聞かせながら、僕はあそこから離れ、時が来るのを待った。
◆
「そこまで!」
はあはあと息を切らしながら、思っていた以上に錬魔法と心魔法を扱うのに一苦労をし、うまくできたかと聞かれたら、できたと自分に言い聞かせたい。
お疲れ様とライゼ先生からタオルをいただき、それで汗を拭った。
後日、結果がわかるからそれまではこっちでやっておかなければならないことをしようと思う。
「想心くんが最初にこの世界に来た頃より、魔力も増していて、僕的には高評価をあげたいぐらいだよ」
「ありがとうございます。これが受かれば、現世に行けるんですよね?」
「もちろん。会いたかった人にも直接会いに行ける」
ここに神社が存在していたら、合格祈願をしに訪れてたなと思いながら、空を見上げる。アンジ、ちゃんと食べてるかなと見ていたら、なにしてるんじゃあとバックハグをもらうハメになった。
「おい、莱愛」
「よいではないかって、いつの間におるのじゃ、ハウヴァ!」
「いいじゃありませんの!想心ははいねの寮長ですのよ!」
莱愛は俺から離れて俺の腕を掴んでいるハウヴァに対し、ガミガミ言っていて、銀はなぜか微笑んでいた。そこは突っ込めよと言いたくても、俺に用があって来たんだろう。
そしたら松風先輩や戻って来たらしいプーリーも近くに来て、みんなが楽しそうにしている姿に、俺は救われたと思う。これを見れるのは最後かもしれないな。ねずみが咳払いしながら、ハウヴァを引き離してくれて、ありがとなと言いながら、銀のところに行く。
「なにかあった?」
「以前、自分がリディーを奪ったこと覚えているか?」
「あーそう言えば、リディーが芝居をしていたあれか。それがどうかした?」
「リディーに言われていたことがあっただろう。リストがどうのこうのって」
確かに雫の質問に答えていたなと覚えてると伝えたら、銀にあることを言われる。
「あのリストは邪神によって魂を一度支配されたリストだった。おそらく、今までとは違うことが起きると思って、調査していたら、最悪な事態だった」
「最悪な事態って?まさか」
「最初は言葉が出ないほどで、信じたくはなかったよ。グレイティアが邪人だったってことを」
その言葉に俺は想像したくもないことを思い浮かべてしまった。いやいや、そんなのあり得るわけないと思っても、校長の奥さんも、もしかしてと悪いと走る。
校長、嘘だと言ってほしいと願いながら、校長室へ入るもいなく、だとしたらとあの通路どうやって行くんだっけと探していたら見つけた。なにも起きないでくれと地下の階段を降りて行き、心臓がドクンドクンと脈を打つ。
校長と声をかけながら奥さんがいるところに到着すると、校長はいらっしゃった。
「どうしたんだい?」
「このカステクラインは、奥さんのものじゃないですよね?」
すっと壊れたカステクラインを返し、気づいてしまったようだねと、校長がそのカステクラインを持つと、修復しあの部屋へと戻る。
「真実を話そう。妻はあの日、汀春が封印されたところを目撃したのだよ。龍宮の者に怒り、憎しみを抱き、邪人となってしまった。私たちは感情が暴走すると邪人となると言い伝えがあってね。だから決して己の感情を暴走させないようにと、日々努力をしていたつもりだった」
なぜ玖朗はそのことをセブラに話さなかったんだろうかと疑問が浮かぶも、邪神を完全に倒さない限り、校長の奥さんは助からないということ。
「奥さんを治す方法は一つですね。邪神を倒すこと」
「本当に治るのかわからないが、妻をどうか救ってやってほしい」
深々と頭を下げる校長であり、大丈夫ですと奥さんのほうをみる。汀春さんじゃないけど、俺が今度こそ邪神を倒して、平和を齎らす。それが俺の役目だとわかったから。
それから一週間後、二段魔導士取得の合否の知らせが届き、アンジはいないがリディーたちを集め、開けるぞと言いながら開けた。緊張すると開いたら、見事合格と書かれてあり、俺たちは喜びを分かち合う。
そこにアンジ様が帰って来られましたと執事に言われ、俺たちは玄関へと出向いた。みんなどうしたのときょとんとしていて、アンジに合否の紙を見せてあげる。するとびっくりしても、満面な笑みでおめでとうと言ってくれる。
「アンジがいなくてちょっと心細かったけど、なんとかできたよ」
「僕を避けてたくせに」
ぷうとほおを膨らませるアンジであって、よいではないかと俺とアンジの肩を抱き、今夜は宴だとリディーが発した。そしてそれがすぐにいろんな人に伝わり、屋敷には馴染みのある人たちが集まって、乾杯する。
ファウとねずみがいて、剣太と盾乃は団長と一緒に、銀とハウヴァに莱愛が混ざって話している。焔副団長と璃子さんは、りんご芸をなぜか披露していて、松風先輩はライゼ先生とテンファで、カードゲームをしてる。
航さんはお酒モードになっていて、おねえの声ではなくおっさんの声で、舟渡先輩と砂山先輩を困らせていた。氷漬けにされていた紺瑠璃の団員たちもすごい変わってると言いながら、楽しんでくれている。
「想心、アンジ、少し夜風に当たりながら話さないか?」
わかったとみんなはおそらくそのまま寝そうだなと思いながら、俺たちは夜風に当たりながらリディーに聞かれる。
「アンジはともかく、想心。時は来たのだな?」
「あぁ。まだ実感はしてないけど、おそらく」
「…僕はまだ認めたくはないよ。まだ僕と一緒にいてよ」
「それはごめん、アンジ。俺にはやらなくちゃならないことがあるから」
また一人にするのとアンジに言われ、なんだこの感覚とリディーもアンジの異変に気づく。
「はあ、また僕からいなくなるだなんて最低だよ、汀春」
「急にどうした?俺は想心でお前の兄じゃないって言ってんだろ」
「違う!前にも言ったけど、僕たちは一心同体なんだよ!だから僕から離れちゃダメで」
「アンジ、いい加減にしろ。何度もそう言って、自分勝手すぎるだろ!自分が良ければそれでいいだなんて、俺は失望するよ」
アンジが苦しみ出して、なんでそう言うのと涙目で言われても、同情は絶対にしない。リディーは俺が思っていることを悟って、みんながこっちに来ないようにと一面を氷にした。これくらいならリディー自身で解除ができるから大丈夫だろう。
アンジは情緒不安定になり、あの時のようなアンジになると確信が持てた。獣柱がいなくて、俺とリディーだけで対処できるかというとない。
「想心はこれからも、この先も、僕と一緒にいてもらうんだ!なにがなんでも!カステクライン!氷、オコジョの氷霰!」
オコジョが現れ、氷霰を作り攻撃してきて、俺もカステクラインを起動させた。
「カステクライン!炎、百獣の咆哮!」
百獣の王、ライオンが現れ炎を纏い、オコジョを消した。次から次へと魔法を当てていき、俺は取得した心魔法を心の中で唱える。
カステクライン!心、アンジの叫び!
するとアンジが想っている内の声が聞こえようとした瞬間、遮断されたような感覚を浴びる。待て待て、そんなわけないとアンジをよく見た。
俺はてっきりあのまま引き継がれていたんだとばかり思っていた。俺の中に邪神がいないとなればと、中断しようともアンジが止まるわけなかった。
これをリディーに伝えたいが、リディーは状況を理解して動くようだ。このまま邪神を出せれば一番いいのかも不明だが、アンジを止めるには、汀春さんが生み出した萩魔法なのかもしれない。だとすれば植物魔法を取得する必要がある。
とにかくアンジを止めないとこのままだったら邪神に飲み込まれてしまうリスクがあった。
リディーと一緒にアンジを止めようとしていたところ、セブラとそしてみよりさんがやって来る。二人が来たことでピタリと動きは止まるが、胸がざわざわし始めていた。
「アンジ、もうやめて!私たちは望んでいないのよ!」
「母様…父様…僕はなんでいつもひとりぼっちなの…?僕、なにも悪いことしてないのに、みんなが攻撃してくるんだ。辛い、痛い、苦しいよ。この想いはいつとれるのかな。汀春も僕と一緒にいたくないらしい。僕はう」
もう喋らなくていいと我慢の限界を超えた。その言葉をみよりさんに言うな。その言葉は、子供の刃であり、母親を刺すようなもの。アンジは今も幼き頃のことを思い出して俺たちに訴えているんだ。咄嗟に俺の足は動いた。
想心とセブラたちが叫んでいたとしても、アンジを抱きしめ、もう喋らなくていいと伝えると、アンジは抱えてきた想いを流す。
みよりさんもアンジのそばに寄ろうとしたけれど、セブラが止めていて来ると確信した。それでもアンジが泣き止むまで、このままにする。
アンジをこれ以上、苦しめないでやってくれと思った直後だった。アンジはピタッと涙を止め、何かを見ている。それがなんなのかすぐにわかり、アンジから離れないでいるつもりだった。
ただアンジは俺を突き飛ばして、行ってしまい、思穏逃げろと叫んだ。思穏は防御したとしても、割れてしまい、そして最悪な事態が起きる。
思穏が持つカステクラインが真っ二つに壊されてしまい、思穏が消えてしまった。アンジははっと正気を取り戻したが、俺の心が完全に壊れた。
◆
想心の叫びによって、予想外なことが起き、あれほど来るなと伝えといた思穏が来るだなんてな。この状況かなりやばいぞと、アンジがごめんと謝る。
「ごめん、ごめんっごめんなさいっ。また暴走しちゃったっ。こんなことするつもりなかったのにっ」
「冰春、下がってろ。耐えられない闇がミズノ王国を包むかもしれない。冰春…」
アンジは情緒不安定で、どうしようと一点張りで、リディーは状況を読み、対処をしてくれるだろう。
「みより、準備はいいか?」
「うん。今はカステクライン使いの春もいるから、絶対にミズノ王国を守る」
リディーはアンジを避難させて行き、俺とみよりは暴走しないように結界を貼る。どれくらい時間を持つかはわからないが、獣柱がすぐ来そうだな。その前に撤退はしたいところだ。
想心、闇に呑み込まれるなとただただ見ていることしかできなかった。
◆
思穏くん、急にいなくなっちゃったけど、大丈夫かなと美命ちゃんのそばにいたら、廊下がやけにうるさかった。なんだろうと扉を開けたら、痛っと叫ぶ声に思わず、ごめんなさいと謝る。そこには伊雪さんがいて、顔面が少々赤くなっていた。
「まあ急いでいたこっちが悪いから謝らなくていい。雫、隠れるよ。もう時期、獣柱がこっちに来る。あの子のそばにいたいだろうけど、団長命令だから行くよ」
そう言われて、伊雪さんが私の腕を掴み美命ちゃんがいる部屋から遠ざかっていく。なんだろう、この感覚。嫌な感覚があって、私はつい足を止めたことで、伊雪さんはどうしたという表情でこちらを見ていた。
感じる、想心の心が暴走してる。
「伊雪さん、まさか想心がデステクライン使いになってしまったんですか?」
「…今、団長たちが見に行ってるけど、おそらくそうだよ」
「デステクライン使いになったきっかけは、思穏くんになにかあったんじゃ」
言ってみると伊雪さんはだんまりとしてしまい、伊雪さんを振り払い、すぐさま想心のもとへと急いだ。そこには抱えきれないほどの怒り、悲しみのふたつの感情が強かった。
セブラになにしてると叱られるも、想心の暴走を止められるのは私じゃなくて美命ちゃんだ。美命ちゃんはのの菜さんの生まれ変わりだから。
私がまだ幼い頃、あまり記憶にはないけれど、優しいお婆さんがいた。その人こそ、汀春さんの奥さんでよく昔話を聞かせてくれてたのを思い出す。
「昔ねえ、あるところに龍神様と虎神様がいたんだよ。ただね、その神様はいつも仲が悪かった」
「どうして?」
「それは龍神様はお空に住んでいて、虎神様は地に住んでいたからなんだよ。龍神様は自分の縄張りを邪魔されたくはなかった。ただ虎神様はお空に興味を抱いていて、龍神様を困らせていたんだよ。それもあってこの世界はふたつの世界へと変わり果てたと聞いてね。その時ふと思ったのさ」
それはどういう意味とのの菜さんに聞いたら、のの菜さんは寂しそうであっても、いつかは会えると信じて覚悟をしていたことを。
「それはだね、龍神様の静かに暮らしたいという要望と、虎神様のお空に興味が湧いているという願いを聞き入れてくれたんじゃないかってね。じゃなきゃこの光景は見られないよ」
私はなんでこんな大事なことを忘れていたのだろうかと思ってたよ。のの菜さんは私に全てを教えてくれた後、現世切符を使用して旅立った。
やっぱり想心と美命ちゃんは偶然に現世で会ってたんじゃない。必然的に出会い、そして想いを寄せあっていたんだ。
「雫!よせ!」
セブラに言われようとも、たとえここで獣柱が現れようとも関係ない。私はただ、ただ、想心と美命ちゃんを引き離しちゃ駄目なんだという想いが結界を破り、想心の闇が一気に出てしまうも、想心に近づき、のの菜さんに教わっていた魔法を唱える。
「カステクライン!桜、葉桜の舞!」
葉桜となった桜並木が現れ、地面に落ちている葉桜が舞い踊り始めた。踊り始めることで淡いピンクの光が放つ。この魔法は本来、芽森ちゃんが使用することになってる魔法だけど、芽森ちゃんはまだ現世で精一杯生きてる。
だから私は代理人として役目を本来やらなければならなかった。
想心はその光を浴びて、正気を取り戻したのか、雫ありがとうと言いながら倒れそうなところ、セブラが支えに入る。そこにこっちにいる獣柱が揃って現れ、それにセブラと想心を守るように、ディーグとみけ太が現れた。
「情報はすでに入ってる。想心はそちらに任せるが、ロゼ姫は俺たちと来てもらおうか。それと咲様と冰春は…しばらく預けておく」
鶏谷さんが言うとセブラは想心を抱えながら、それを狙っていたんじゃないのかと怒りまじりで聞くと、牛倉さんが言い出す。
「いいや。俺たちは想心がデステクライン使いになるのを恐れていたわけではない。カステクライン使いとして育てるよう、冰春に伝えていただけだ」
「まあとにかく、良いではないか。言い忘れていたが、美命は回収させてもらったよ。手間の焼ける子だ」
それを聞いてセブラはディーグに想心を預け、今すぐにでもセブラが手を出そうとしていたところ、アンジが涙目になりながら場に入ってきた。
「父っさん。怒りを鎮めてっ。僕は大丈夫だから、想心を連れて帰って」
アンジの手が震えていながら、思穏くんのデステクラインをセブラに渡す、その顔が私たちには大丈夫じゃないという顔をしている。これ以上、アンジの心に傷が増えたら、それ以上なことが起きるとセブラの手を握った。
「私がアンジのそばにいるから、獣柱さんの気が変わらないうちに逃げて。そんな顔しないでよ、セブラ。ううん、春さん。のの菜さんからの伝言。隠れ家を作ってくれてありがとうだって」
その言葉でセブラは思穏くんの壊れてしまったカステクラインをぎゅっと握り、いくぞと言ってセブラたちは帰っていく。セブラたちがいなくなった途端、アンジの表情は勝利した顔のようにみえた。




