94話 秋に照らせ、春は汀⑤
照秋から情報をもらって、艿花が奪われたと報告をもらった時、すぐ顔に浮かんだのは義父さんだった。艿花はなぜか獄の世界にいたから、このまま照秋たちと一緒にいるのだろうとは思っていた。
落ち着かず、かといって僕が探すにしても見つけられる確率は低い。それにここ最近は蓮が帰って来ない日も多く、それと関係をしているんじゃないのかと感じた。
「汀春、落ち着け」
「落ち着いてるけど、ざわざわするんだ。リディ、蓮と一緒にいる時、違和感はなかった?」
「全く。いつも通りだったからな」
僕といる時も違和感はなかったから、蓮の帰りを待つしかないのかもしれない。リディとそれから数人、団員を連れて依頼をしに向かっている時のことだ。
依頼通りの死屍が出現し、それぞれ戦闘準備をして攻撃を開始した。これも照秋が作った死屍なんだろうと思いながら、倒していく。すると死屍の声が聞こえた。
〝タスケテ〟
死屍が助けを求めているのは一体と考えていたら、よりによって地震が起きてしまい、そのまま僕は死屍の下敷きとなってしまう。
痛くないと恐る恐る目を開けたら、そこにいたのは幼き頃の冰春だった。冰春は蹲って何度も助けを呼んでいた。幼き頃の冰春のそばにいき、触れた瞬間景色が変わる。
ここは龍桜家の家と見ていたら、産声が聞こえた。産声が聞こえる方角へ行ってみると、母さんが双子の赤子を抱いている。母さんは愛おしそうに双子を見ていて、くーたんも嬉しそうに近くへと寄った。
「僕の弟たち?」
「そうよ。玖朗の弟たち。玖朗、約束してくれるかな?」
「約束?」
「そう。この子たちはね、お父さんの子じゃないから、きっと玖朗のように育ててはくれない。だから玖朗、たとえ本当の弟たちじゃなくても、守ってあげてほしいの」
「うん。絶対に守ってあげる。だから母様…」
わかってるわと母さんは微笑んでいたとしても、少し悲しそうな瞳をしていた。物心つくまでは僕と冰春は一緒にいたらしいが、ある日のこと。
冰春から妙なオーラがあることで僕はずっと泣いていて、母さんは僕をあやし、恐れていたことが起きたようだった。それを知った義父さんは、冰春を抱き行こうとするも母さんは止めに入る。
「やめてあげて」
「二人を引き離すのが、二人の幸せだ」
義父さんはそう言って僕たちを引き離した。そして僕は義父さんに言われ、あんな生活を送っていたけれど、冰春の生活を見ることになる。
冰春は朝食を食べた後、昼間は普通に生活をしていたけれど、夜は義父さんに厳しく指導を受けていた。時に情緒不安定になって、黒いオーラが出る。義父さんはそれが出ないように、厳しくやっているも、それが段々と抑えきれなくなるほどだった。
それでも義父さんは冰春を救おうと努力をしていただなんて。抑えきれなくなったことで義父さんはお札を貼った部屋に冰春を閉じ込めた。
「風呂、手洗い以外は部屋から出るな」
と強く冰春に言い、冰春は小さくはいと告げた。昼間の冰春は大丈夫だったとしても、陽が沈むと冰春は苦しみだし、暴走する。まるで別人のように暴れ出し、ここから出してと叫んでいた。
力を貸してやろうかと黒い物体が現れ手を貸したとしても、お札の効果もあって黒い物体は冰春の体内へと戻っていく。それが毎日続いていたから、くーたんも入ることが許されなかったんだと知る。
そして僕たちが十六の歳になった時。冰春をこれ以上苦しめたくないと、ののちゃんのご両親が冰春を殺めた。最後、冰春はののちゃんに言った言葉の前にこう言った。
「助けて…くれて…ありがとう。汀春に会いたかったな」
微笑んで冰春は亡くなった。そして義父さんは部屋に入ることはせず、部屋の外で泣いていた。
そこで場面が終わりリディが大丈夫かと聞いていたとしても、僕の心は限界を達していた。勘違いをしていたことも、冰春を苦しめた黒い物体も、何もかも許せなくて、僕のカステクラインが暴走する。それを察ししたリディたちは僕から距離を離した。
これは死屍の力だとしても、蓮、いいや冰春が何者かの下で動いていることが、一番に許せなかった。これ以上冰春を苦しめないでよと、僕のカステクラインがデステクラインに切り替わった瞬間、蓮がやって来る。
「はぁはぁ、汀春。それ…はなに?」
「冰春、どこ行ってたの?」
「冰春じゃないよ。僕は蓮だ」
別の姿になっていたとしても、あの時の約束はもう、守れそうにないやとデステクラインを起動させる。
「デステクライン!水、姿鏡!」
鏡が誕生し冰春である証拠を突き出した。リディたちは驚いていて、どういうことだと混乱をしている。僕がデステクライン使いになったことで、冰春はカステクラインを起動させようとも、冰春の手首を掴んだ。
「冰春、正直に答えて。どこに行ってた?」
「…答えられない」
「そっか。大体は見当がついてる」
冰春を連れて行こうとしたら、義父さんが現れ、僕に拘束魔法をかけようとするも弾く。
「汀春、真実を知ったなら、冰春を置いて獄の世界へといけ。時期に獣柱が動き出す。動き出したらまた冰春と会えなくなるぞ」
「艿花を連れ去って何をするのかは知らないけど、あいつを探さなくちゃならない。冰春を苦しめた奴を。そいつはシロノ国にいる。そうなんじゃないの?」
「それは違う。とにかく身を隠せ」
冰春を置いていけるわけがないと自然と黒虎が現れ、義父さんたちに唸り出す。
「冰春は僕と一緒にいてもらう。じゃなきゃ僕の心が完全に邪人に奪われるから」
デステクライン使いになった時点で邪人が体内から現れるのはわかっていた。今は保てているも、いつ支配されるかわからない。
「汀春、わかったよ。義父さん、すぐ戻るから待ってて。リディ、団を頼むね」
リディが僕たちを呼んでいたとしても、冰春の力で違う場所へと切り替わった。その瞬間、力が抜けたように僕は目を閉じることになった。
◆
僕がいない間に何が起きたのかわからないけれど、汀春のカステクラインがデステクラインと切り替わった以上、天の世界にいさせるわけにはいかない。
正体を明かさず過ごせば見逃してやると言われたから、過ごしていたけれど、汀春に気づかれた時から運命は決まってた。僕は獣柱の犬として仕事をしながら、汀春のそばにいた。
汀春に気づかれず過ごせたらよかったのにと、寝ている汀春に暗示をかける。ごめんね、汀春。僕のことは完全に忘れて、艿花だけを救ってあげてほしい。僕は最後までそばにいるからと暗示をかけていると、背後に玖朗が現れる。
「汀春に何をしてるんだ?」
「僕の正体を知ったから、暗示をかけてる。このままいけば汀春は邪人によって支配されちゃうから」
「冰春はそれでいいのか。本当はそばにいたいんじゃ」
「いたいよ。現世では一緒に過ごせなかったけど、今の時間を大切にしたかった。ただ役目を渡された以上、やらなくちゃならない。玖朗、後のこと頼んでもいい?」
「…わかった。役目さっさと終わらせて、戻って来い」
もちろんと玖朗に告げ、目を覚ます前に、僕は汀春からいなくなることにした。
◆
目を開けるとそばにはくーたんがいて、さっきまで何をしていたんだっけと思い出そうとしても思い出せなかった。
「くーたん、僕は何をしてたの?」
「いや。疲れて寝てただけだ。早く帰ろう。照秋と汀春の父さんが待ってるから」
そうだねと起き上がって立ち上がり、くーたんと一緒に家へ帰ることに。
帰ると照秋は無事で良かったと、わんわん泣いて、父さんは大丈夫かと心配な目で見ていた。全く覚えていないから、どんな感情を出せばいいのだろうかと、ぎこちなくただいまと伝える。
「汀春、おかえり。怪我がなくてよかった。お腹空いてるでしょ?今、父さん特製のご飯用意するから待ってて」
照秋は嬉しそうに台所へと行き、くーたんはおかえりとなぜかハグされた。そうだったとそのままにしたら、俺もまぜろと父さんも抱きつこうとしたら、くーたんが止めに入る。
なんでだよとガミガミ言ってる父さんであり、なぜか笑いが出てしまった。僕が笑ったことでなぜかみんなはほっとする。
「そう言えば冬人兄さんは?」
「体調崩して寝てるよ。夕飯時は起きてくると思う」
体調崩すだなんて珍しい。ここでは風邪をひくとかはあまりないはずなんだけどな。
夕飯時、冬人兄さんが部屋から出てきて、久しぶりの感覚で夕飯を食べることになった。現世であったことを父さんに話したり、秋彦さんが父さんの愚痴を言って、父さんにいじられている秋彦さんを見たりで、現世で過ごしていたらこんな感じだったのかなって思った。
「後は艿花がいれば完璧だったな。それで照秋と艿花は」
「ちょっと僕でいじらないでくださいよ」
「艿花も照秋のこと好きだったらしいぞ」
本当ですかと間に受けている照秋であり、艿花は確かシロノ団に連れて行かれたんだっけと思い返す。やっぱり何も思い出せないのがなと、ご飯を口に入れた。
それに冰春と母さんもここにいればもっと楽しいだろうなと考えていたら、そういえば僕って元々デステクライン使いだったっけと、デステクラインを見つめる。濃藍の葉桜であり、ずっと照秋と一緒にいたんだっけと悩んでいたら、どうした汀春と父さんに声がかかる。
「いや、僕って父さんたちと一緒に、最初からデステクライン使いだったんだっけって思っちゃって」
そう告げると父さんたちは何かを知っているようで、くーたんが教えてくれた。
「元々はカステクラインだったんだが、艿花が奪われたことで汀春、暴走したんだよ。それによってカステクラインからデステクラインになった。で僕も暴走したことがあって獄の世界に住んでるってことだよ」
「そうなんだ。えっじゃあ冰春はどこにいるの?」
「さあ。俺たちも探してはいるんだが、見つけられなくて悪いな」
父さんがそう言っているなら、そうなんだろうな。冰春に会えたら、どれだけ嬉しいのだろうか。その夜、なかなか寝れなくて、夜風にあたっていた。
なんか靄がかかっているようで、肝心なことがなんなのか、考えていると、寝れないのかと隣に照秋が座る。
「うん。冰春のこと考えてて、寝れなくなっちゃった」
「神様は意地悪だよな」
そう言って寝っ転がりながら空を見る照秋であって、僕も寝っ転がり星をみた。
「冰春様がどんな人なのか知らないけど、兄弟が引き裂かれるのってなんかやだな。僕はさ、一人っ子だから兄弟のこと考えないからいいけど、汀春が苦しんでるのをみたくない。だから僕のこの目の力でなんとか探し出してみせるよ」
「ありがとね、照秋。照秋や冬人兄さんに、父さんたちがついてくれてるだけで、僕は恵まれてるって感じがする。そこに冰春がいたらって何度も思うことがあって…」
そう感じていたらそうだと起き上がり、僕はもう一人いるんだとデステクラインを起動する。
「デステクライン!連絡、水の小鳥!」
デステクライン使いになってしまったから、連絡は難しいかもしれない。どうかなって思ったら、はいと声が聴こえる。
「蓮…ごめん」
『気にしてないから大丈夫だよ。やっと父さんと会えた感じかな?』
「もちろん。記憶が曖昧だけど、天の世界にいた時、蓮とずっと一緒に過ごしてたから大丈夫かなって思って。
大丈夫ならいいんだ。この先、どう動けばいいのか、まだ決めてはないけど、必ず会いに行くから」
『待ってるよ。そろそろ寝るね』
急にかけちゃってごめん、おやすみと伝えて、通話は終了した。蓮って誰だって少々機嫌を損ねている照秋であって、曖昧だけど天の世界にいた時のことを照秋に話した。
「なるほどね。花畑蓮って子が冰春に似てるんだ。まあいずれ会えるんじゃないかな。春様が天の世界へといけたように、汀春もいけるようになるから」
「頑張ってみるよ。明日から魔法がどれくらいできるか、試さないと」
記憶がない分、何ができて何ができないのか把握しておく必要があり、僕たちは寝ることにした。
それから数日、下町の人たちとも交流を深めつつある中で、ちらほらとシロノ団を見かけては捕まえようとすると逃げられる日々。艿花がどこにいるのか知りたくても、知っている人はいなかった。
だとすればすでに龍宮のところに連れて行かれた可能性があるってことになる。歩いていたら父さんが何かを見つけたようで、行ってしまい、なんだろうと追いかけてみることにした。
確かこの辺りに父さんが入ってたよねと探していると、父さんの白虎がいる。父さんはこの近くにいるんだと探そうとしたら白虎が止めに入ってきた。
どうしたと白虎に触れていたら、大きな爆発が起きてそれがとても近かった。まさかと白虎を置いてその先へと行ってみたら、走って来たよりもっと心臓がドクンと脈を打つ。なぜならそこに冰春がいたから。
「冰春…?何その格好…。父さん?」
「眠らせてるだけだから安心してほしい。これ以上関わったら父さんの身が持たないと思ったから。汀春兄様、父さんと仲良くね」
「待って、冰春。どうして冰春は、シロノ団なの?」
「選ばれたからだよ。悲しまないで、汀春兄様。僕はずっとそばにいるから」
答えになってないと叫んだとしても、冰春は行ってしまい、父さん起きてとやっても、父さんはしばらく起きなかった。少しして照秋と秋彦さんがやって来て、事情を説明する。
「そうか。とにかく春を家まで運ぶか。汀春、大丈夫じゃない顔をしてる。理由はともあれ一度家に戻ろう」
父さんを運ぶ秋彦さんであり、照秋が行こうと言ったから、重い足を前に進めた。秋彦さんが冬人兄さんに話している間、僕は部屋で蹲っていた。
冰春がなんでシロノ団に選ばれたわけが全く想像がつかなくて、まさか義父さんがまた縛りつけているのと感じてしまう。あそこのリストには記されていなかったのに、意味がわからないよと布団に潜っていたら、布団を取り上げる照秋だった。
「いろいろ考えすぎるのはあまりよくないよ。考えすぎて変な方向へと進むことになっちゃうから。気分転換に外で散歩とかどう?」
「そんな気分じゃない」
そんなこと言わずにさと照秋に無理やり起こされて、外の空気を吸いに行くことになる。
「今から冰春様のこと考えるの禁止ね」
「なんでよ」
「いいからいいから。じゃあ楽しいこと考えようよ。生まれ変わったら何になりたいか。僕はそうだな、時代も変わっていくだろうから、興味が湧いた仕事をしてみたいな。僕はずっと寅萩家に仕えていたから、来世では興味が湧いた仕事をして、たまには旅もしてみたい。汀春は決まった?」
「僕はそうだな」
考えてもみなかった。こうやってまた照秋や現世では会えなかった父さんにも会えたから。だからと僕は願う。
「普通の家族に生まれ変わりたいかな。何も縛られず、普通に過ごしたい。あっちではいろいろとありすぎたけど、後半は照秋が救ってくれたから嫌なこと考えなくなった」
「それはよかった。じゃあどっちが先に来世に行くか、勝負してみない?」
「え?勝負って言っても、お互い来世の切符があるとしても、どの時代の来世になるかわからないんだよ」
「そりゃあ知ってるよ。僕と汀春は五つ違うけどさ、来世では同い年で生まれて、また巡り会えたら奇跡じゃない?」
照秋の言葉に一理あった。魂の記憶は一度リセットされるけれど、魂同士は覚えている。もしそうなら冰春もって冰春を考えないようにするために、照秋が言ってくれたんだった。冰春もとは言わずに、照秋に伝える。
「そうだね。来世の照秋はどんな人になるのか興味が湧くよ」
「僕もだよ。汀春は変わらないような気もしてきた。いやあ春様は絶対、来世でも子離れできそうにない親になってそうだな。だってさ、あっちでは一緒に過ごせなかった分、今がある。ただそれは長くは続かないのはわかってるから春様は、汀春がやりたいことを見守ってるんじゃないかな」
確かにこっちに来てすぐ二、三日は僕にべったりだったけれど、それ以来父さんは秋彦さんや冬人兄さんと行動することが増えつつ、僕を見守ってくれてたんだ。
時に間違っているところは怒らず、ここはこうだよって教えてくれて。
「僕がやりたいことか。それなら」
足を止めたことで照秋も足を止め、僕をまっすぐみてくる。冰春のことは考えないと言われたけれど、照秋に打ち明けた。
「僕がやりたいことはただ一つ。冰春とそれから父さんと母さん、四人で一日でもいいから一緒に過ごしたい」
やり残していることはただそれだけ。願いが叶うなら家族として過ごしたいという気持ちがとても強かった。そしたら照秋は微笑んで、僕の手を握り、照秋は言ってくれる。
「その願いは絶対、叶う。僕はそう思ってるから大丈夫だよ。艿花ちゃんを救ったらの話になっちゃうけどね」
確かにそうだねと僕たちは笑い合い、全てが終えたら僕たちはおそらく新しい人生を送るために、この記憶とはおさらばとなるんだろうな。だから艿花を救う時、きっと冰春もいるだろうから、冰春も救って過ごす。もちろん母さんもいるからなんとかなるよねと、そこからは艿花をどう救うか二人で話し合っていた。




