87話 ムニャムニャ村③
ムニャムニャ村の一番広い大広場でやることになり、周囲には村民たちが眠そうな表情で俺たちを見ていた。美命が審判となり、雫と出雲さんはセッティングしたらしい席で優雅にティータイムをしている。
美命の始めという合図で俺と思穏は同時にカステクラインを起動させた。
「カステクライン!水、カワウソの牙!」
「カステクライン!透、紅葉の落ち葉!」
汀と複数のカワウソが思穏に噛みつこうとしたが、思穏が生み出す紅葉の落ち葉でやられそうなところ、汀たちは運よく回避し、俺の元へと戻ってくる。
あんまり詳しいことは知らないが、透は紅葉が関係しているから、紅葉の言葉が呪文なのかは不明だ。俺は結構いろんな魔法は取得できてはいるが、カステクライン使いになりたての思穏は、透のみのはず。だから違う魔法を唱えようとした時だ。
「カステクライン!炎、炎の残石流星群!」
嘘だろと回避したくても夏海レベルの残石が落下しようとしていて、避けきれないだろと思いながらも、次の呪文を唱える。
「カステクライン!かもめの羽根!」
かもめの羽根が複数現れ防御ができ、残石が直接当たらないように落ちていく。やっぱり才能ありすぎるんだろと、考える暇もなく、思穏は次の呪文を唱えようとしていて、今度は俺がと先に唱えた。
「カステクライン!雷、バッファローの雷鳴!」
「カステクライン!植物、サイの泥土!」
俺が出した魔法ですぐ切り替えて相性が悪い魔法を出してきた。頭の回転は俺より思穏の方が上手だ。それになんでこんな多くの魔法を取得できているんだろうか。
今気になっていても仕方がないから、次から次へと魔法を当てていくも、俺と思穏は負けず嫌いだ。
これはさすがに終わる気がしないような感じがするも、次の魔法をお互い出し続ける。
◆
想ちゃんと思穏くんが私のことが好きだということはあっちにいた頃、すぐ気づいてた。それなのに私はすぐ亡くなる人間だから、想いは二人に告げなかった。
もちろん、天の世界に辿り着いた時は混乱があったんだよ。なぜなら着いたその先は、想ちゃんにそっくりの人の肖像画が大きく飾られてあった。それを見ていたら、私の上司である鹿柱である鹿崎星蘭が現れる。
「君は麗しい名の持ち主、美しい命と書いて、美命。現世の世界は退屈だったろう」
「ここは天国ですか?」
艶があるロング髪の鹿崎星蘭は、両手をあげて自慢げに言った。
「あぁそうとも!しかも美命は穢れのない麗しい魂。つまり、下人より価値があるということだよ」
この人、人を見下すタイプの人で引いていたら、見た前と目を輝かせて、私に教えてくれる。
「この方は現世にいる葉桜想心の前世の人だ。この人は私の憧れでーーーーーーーー」
暑苦しい汀春さんの長話を聞かされて、わかったから手続きしてくださいと思っていたら、何をやってるんですかと、眼鏡をかけた女性が鹿崎星蘭を叩く。そしたら叩いたことで鹿崎星蘭は壁に衝突した。
「全く、これは失礼いたしました。梅咲美命さんですね。私は鹿崎星蘭の部下、鹿馬花凛です。あの人は放っておいて大丈夫ですよ行きましょうか」
はいと鹿馬さんについて行き、手続きを終えたら最初はよかった。いろんなことを教わって、いろんなことを知れて、ただ想ちゃんと思穏くんがこっちにくる数週間前。聞いてしまった。
「美命ちゃんを利用するんですか?」
「そうとも。美命ちゃんがこちら側にいるってわかれば、すぐ想心は来る。どうせ、セブラ辺りがこっちに来させるだろう」
「そうだとしても、以前のようになる確率は」
そこから想ちゃんと思穏くんが危険だと理解した。ただ私は何もできなかった。急に仕事が増えていき、想ちゃんと思穏くんを守ることができなかった。
私は想ちゃんを奪うための道具にすぎないと理解した私は、すぐ行動を移した。鹿崎星蘭が連れ戻した、龍桜咲さんに事情を説明をし、龍桜咲さんを逃して、私は反逆者となった。
後悔はしてないよ。だって、こうやって想ちゃんと思穏くんが楽しそうに戦ってる姿を見て、嬉しいから。
「座らないの?」
「雫ちゃん。うん。今は二人の姿を見ていたいから。想ちゃん、私のこと何か言ってた?」
「あまり聞いたことはなかったけど、美命ちゃんの話になると目が変わる。愛おしそうな、優しい目をしてたよ」
「まだ想ちゃんは、想ってくれてたんだね」
うんと相槌を打つ雫ちゃんで、私は逃げてばかりだったなって改めて感じる。小さい頃から大好きだった想ちゃん、そして想ちゃんが紹介してくれた思穏くんも大好きになった。今なら言える。終わったら伝えようって決めた瞬間に寒気を感じた。
「美命ちゃん逃げて!」
出雲さんの声で逃げたくても、私の胸には刃が刺さる。
「やっと見つけたよ。麗しき美命」
「鹿っ崎…さん」
「私から逃げることはできないよと伝えたではありませんか。さあ帰りましょう」
「いやっだっ」
刃が抜かれ魔力が入っていたのは知ってる。いやだ、いやだっ。雫ちゃんが混乱して固まってる。早く逃げてと伝え意識が遠のくにつれ、想ちゃんと思穏くんがこっちに来る。早く雫ちゃんと逃げてと視界が遮断された。
◆
思穏とこうやって楽しくやっていたら、出雲さんの叫び声に俺たちはそっちに目を向けた。俺たちは数秒固まる。なぜなら美命の背後にいるロン毛男に刺されている姿を見て、美命を救わなくちゃと俺と思穏が行こうにも足が止まった。
なぜなら美命の姿がみるみると鹿らしい動物へと変わっていくからだ。
「あと数秒で私の可愛い鹿となる。初めからこうしておけばよかった」
「貴様、美命に何をした!」
怒りまじりでそいつに魔法を唱えようとしていたら、待って想心と思穏に止められてしまう。なんで止めるんだよと思穏の顔を見ると、思穏も怒りを出していることが肌で感じた。
「美命ちゃんが言ってた。苦手な上司の部下になっちゃったって。鹿柱の鹿崎星蘭で、人を見下すことが大好きな人らしい。美命ちゃんはそういうタイプの人大っ嫌いだから、逃げたんですよ」
思穏が言ったら自覚しているのか、言葉に響いて倒れ込んだ。今のうちにと出雲さんが鹿になってしまった美命を引き離してくれる。
今日はやたらと柱に会うことが多いが、他の柱の人たちと違って、こいつは許せない。
「失敬。美命は連れて帰るよう命じられているのだよ。だから逃げようとも、もう私から逃げることはできまい。美命」
美命が起き上がり鹿崎星蘭のところへ行こうとしていて、雫が行っちゃだめと止める。だが美命は雫を軽く押し、鹿咲星蘭へ行こうとしたら、雫が美命を抱きしめる。
その瞬間、淡い光が放ち数秒後、雫の服装は雫模様の袴へと変わり、美命は元の姿へと戻った。
悔しそうにハンカチを口に咥えて見ている鹿崎星蘭であり、もう一度と剣を取り出して、美命に刺そうとする。そしてさっきの黒い物体が間に入った。
「ソウゴ、ミツケタ。ソウゴガカナシムノキライ!」
大きな鉄棒を取り出し鹿崎星蘭を追い払う。その隙に俺は美命を抱っこして、出雲さんがこっちと案内をしてもらう。雫が今、覚醒したってことでいいんだよなと思いながらも出雲さんは脱出用の車でムニャムニャ村から脱出する。
「柱なのにあんなやり方はなくねえか」
「うん。自分が偉いからなんでもやりたいようにするのはあまりにも酷すぎる。それより美命ちゃん、大丈夫かな」
「私も思いがけずやっちゃったけど、元の姿に戻ってくれてよかった。追っ手が来るかもしれないよね…。思穏くん、セブラに事情説明しに行ってくれる?」
雫がお願いをすると思穏はぎこちない笑みを出して実はと言おうとしたところ、急ブレーキがかかった。どうしたんすかと前を見ると鬼の仮面を被ったセブラがいたのだ。
「あれは引いてもいい?」
「いやだめでしょ。俺が話してくるから、美命のこと頼む」
「僕が行くよ。セブラに内緒で来ちゃったから」
本当に大丈夫かと少々心配になるも、様子を伺っていたら、セブラもこっちに来て助手席に座り、思穏は俺の隣に座った。
「久しぶりだねん、セブラ」
「世話かけたな」
「いいよん。どのみちねるは想心の味方になるから安心してねん」
「どうだか。とにかく出雲、後ろから追いかけてきてるから逃げてくれ」
あいあいさーとエンジンマックスで車が走り、気になっていたから後ろを向くと、俺たちを助けてくれた黒い物体が追いかけて来ていた。
せっかく自分の気持ちに切りをつけようと思っていたのになと、そのまま美命の寝顔を見る。
「あのさ、思穏。決着はついてないけど、果たし状をくれた意味ってさ、俺をデステクライン使いにするためあんなことしたんだろ?」
それはそのと両手の人差し指でつんつんしていて、視線はセブラを向けていた。なるほどなとなんとなくわかり体をセブラのほうに向ける。
「俺は多分、さっきのでグレーゾーンからはみ出たと思う。あってる?」
セブラは数秒黙ってたけど、半分正解とセブラは言った。
「おそらくだがあっちも嫌なやり方で、想心をデステクライン使いにさせたいんじゃないかって気がするんだ」
「なんでだよ」
「そろそろ話してあげてもいいんじゃないん?姫ちゃんも覚醒したんだしさ」
「まだ話すつもりはない。ただな、一つ言えるのは、なんでアンジがあぁなってしまったのか教えてやるよ」
◆
目を開けたら僕はまた暴走しちゃったんだと上半身を起こす。外の様子を見ている牛倉さんがいて、ごめんなさいと謝罪をした。牛倉さんに大丈夫かと聞かれはいと答える。
想心を傷つけてしまったんじゃないかって体を縮こませようとしたら、ぶにゅっと顔を掴むベビー王様がいらっしゃった。
「元に戻ったようだな」
「申し訳ございません」
「よい。不安になるのはずっと見てきていたからわかっている。だが想心はお前の兄ではない。それはわかっているだろう?」
はいと伝えたらベビー王様から痛いデコピンをいただくことに。いたたたたとおでこを摩り、ベビー王様に言われる。
「今は想心の想いを受け止めて、ここで待っていろ。いずれ国に戻る。その時、想心の言葉を聞いてあげろ。よいな?」
「はい。ありがとうございます。想心が考えたい気持ちは伝わっていたので。牛倉さん、李好さんは?」
「わしがこっちにいる間は、姫のそばにおるが、ベビー陛下。伝えてよいか?」
「また暴走しては困るが、想心の想い人について話しておく必要がある」
想心の想い人は確か梅咲美命ちゃんだよね。それに美命ちゃんは鹿柱の鹿崎さんの部下として動いてる。それとなんの関係があるのだろうかと思っていると、牛倉さんに言われた。
「わしらは想心をデステクライン使いにさせぬよう動いているが、鹿崎は違う。おそらくじゃが美命を利用して、デステクライン使いにさせるかもしれんと李好から聞いておった」
「それが想心の前で起きた時、どうなると思う?」
「想心は暴れます。じゃあ戻ったほうがいいのではないでしょうか?」
それは大丈夫と自信満々に答えるベビー王様であり、なぜだろうと思っていたら、そうかと思い出した。
「雫が覚醒したら、美命ちゃんは元に戻る。だとしたら雫はもう」
二人は頷いて、このまま覚醒したら、芽森ちゃんの覚醒も完璧になるということ。まさかそれを狙って芽森ちゃんを奪うことになったら、両方の世界が崩壊する。
「それじゃあ、雫を迎えに行くよう、指示が出てる?」
「いや、まだのようだが、もう時期命は下されるだろう」
予定より早まる可能性が高いなら、僕は僕のできる限りのことをするだけかもしれない。
「わかりました。僕は僕のできることをして待ってます」
「どちらにせよ、冰春、お前は」
「わかってます。僕はいずれ想心を敵にしてでも、今は想心と一緒にいたい。そのこと、李好さんにお伝えください」
牛倉さんは悲しそうな瞳をしても、李好さんに報告しに行ってもらい、僕はベビー王様を抱っこして、やれることをしに行った。




