86話 ムニャムニャ村②
果し状をもらってから一日が明け、結局答えが出なかった。それにまだ雫は起きてはおらず、本当に大丈夫かと少々心配になる。出雲さんが作ってくれた朝食を食べていると、チャイムが鳴った。
誰だろうと出雲さんは玄関のほうへと行き、俺はそのまま朝食を食べていたら、出雲さんが戻ってくる。そして俺はついフォークを落としてしまった。なぜなら出雲さんと一緒にリビングに来たのは、ブラックノ団服を着てるみけ太だったっから。
「おっおはよう。出雲さん、ちょっと散歩を」
「待て待てーん」
俺が逃げようとしたから出雲さんに腕を掴まれ、後ろを振り向きたくなかったから。俺はまだみけ太と向き合う気にはなれないし、前のように発作が起きるかもしれない。
「だからまだ早いって言ったんだけどね。ただもう時期大きな戦が起きるのは確かなこと。だから今向き合っておかないと、想心の偉大な力が発揮できないと思うよん。それでもまだ逃げたい?」
「やっぱり俺、帰るよ。急に来て悪かった。兄貴に言われて、行けって言われただけだから」
「想心の答えが出るまで、待ってあげて」
俺が出すまで出雲さんの手は離れないのはわかってるけど、俺の心が警告を出しているような感覚だった。駄目だ、俺はまだみけ太と向き合えないと目を瞑った時。
「大丈夫ですの。あるがそばにいますわ」
その声に俺は目を開けると、現世で着ていたパジャマとニット帽を被っている麗に俺はつい抱きしめてしまう。
「麗っ」
「やっとあるのこと思い出しれくれましたわね。現世で想心と遊んだ時間は少なかったけど、あるとこうして遊んでくれて嬉しいですわ」
「ごめん、気づいてあげられなくて」
「いいですの。想心、お願いですの。みけ太と向き合ってほしいですわ。大丈夫、あるもそばにいますの。だから」
麗は俺から離れて一番最初に会った時の笑顔を見せてくれる。その笑顔に俺や美命は救われてたんだよと、麗のほおに触れると、麗の両手が俺の手を握る。そして反対の手でみけ太の手を握り、俺の手とみけ太の手を合わせた。
「仲直りですの」
麗が間にいてくれなかったら、俺はまだみけ太と向き合えなかったのかもしれない。
「今まで本当にすまなかった」
みけ太は目を赤くして、今までの想いが合わせてる手にじわじわと流れ込む。もうみけ太を恐れなくていいんだという開放感が起きた。
「いいよ。みけ太、あの時怖がってごめん。俺とちゃんと向き合おうとしてくれたのによ。そのせいでみけ太がデステクライン使いになっちまうだなんて」
「いや。それでデステクライン使いになったわけじゃない。兄貴が亡くなっていたことにショックすぎて、それでなんかそうなっちまった」
みけ太は情けねえよなと苦笑いをしながら言っていて、そういや大樹の葬式にいなかったのは、そういうことだったんだと理解する。
「いや、あれは隠していたんじゃないよ、みけ太」
「え?」
「大樹の葬式の時、俺も同席させてもらってたんだ。その時おばちゃんが言ってたんだよ。みけ太が来なかった、いいや来れなかった理由があるんだよって。最初は俺が来るのをわかってたから、どこかに隠れてたのかと思ってたよ。だけど考えてみりゃあ、あまりのショックさで寝込んで、そのうちそのことを封印したんじゃないか?」
俺が伝えるとみけ太は動揺していて、麗があることを言い出した。
「パンドラの箱は誰もが持ってますの。思い出したくないものは封印し、忘れる。それを察ししたご両親はおそらく、それ以来ディーグのことを話さなかったんじゃありませんの?仕方ありませんわ。兄弟愛が強ければ強いほど、別れがくると亡くなったことを忘れたい気持ち」
「俺はなんでこんな大事なものを封印しちまったんだっ」
「その鍵はディーグですわね。仲直りできたようですし、あるはみけ太をディーグの元へ返しますわ。行きますわよ、みけ太」
まだ心が不安定でいるみけ太を連れて行く麗であり、大丈夫かなと心配になってしまう。よかったねとニコニコしている出雲さんであり、残りの朝食を食べることにした。
「あの、出雲さん」
「にゃひ?」
口にいっぱいパンを咥えている出雲さんでありながらも、さっきのお礼を伝える。
「さっきは俺を止めてくれてありがとうございました」
お礼を伝えるとごくんとパンを消費した出雲さんは、コーヒーを一口飲んで言った。
「いいよ、いいよん。うちに秘めている想いは、永遠と封印しておくのもいいけど、いずれその想いが相手に伝えられなくなった時、後悔してほしくない。ここに滞在するみんなは、今もなおうちに秘めている想いがある。それを伝えられずにいる人たちもいるんだよ。だからせめて旅立つ前に仲直りしてほしくて」
「旅立つってもしかして現世へ旅立つという意味ですか?」
「もちろんだよ。ねるはさ、千年前の人間になるわけだけど、ものすごーく後悔してることがあってね。ねるの友達は初代の獣柱だった。それで龍ノ姫とロゼ姫が龍宮に旅立つ瞬間に、ねるの友達は殺されたの」
言葉に出せなかった。なぜなら出雲さんの瞳は怒りと悲しみが混じり合った感情が伝わってくる。
「酷い有様だった。ねるの友達はお姫様たちを護ろうとしたけれど、できなかったの」
「もしかして死屍にやられたんですか?」
「そんなんじゃないよ。天の世界と獄の世界を管理している神様に殺された。もちろん全ての獣柱。アンジはそれを見たことで、汀春と一緒に神様に挑んだの。その結果、汀春は封印されるわ、アンジは記憶を抹消されるわで大変だった」
「つまり獣柱の役目って」
俺が言おうとしたところ雫が起きてしまったようで、しっと合図をもらった。このことを言えば雫の心が大きく変わってくると判断したんだろう。
「おはようございます、出雲さん。想心もおはよう。ぐっすり寝れたから頭スッキリ」
「おはよう、スッキリできたようでなにより。さてさて、姫ちゃんが朝食食べ終えたら、詳しく話すよん」
雫も席に座って朝食を頬張り、さっき俺が言おうとしたことが本当ならば、美命もその運命を辿ることになるのかもしれない。獣柱の部下とは言え、おそらくシロノ団員は現世に戻れないのかもな。
こうなった以上、俺はとにかくシロノ団員も助けられるよう手を打つ必要がある。どうやって助ければいいんだと考えていたら、いきなり出雲さんが立ち上がった。
「出雲さん?」
「来る。想心、姫ちゃん。ちょっとごめん。デステクライン!闇、狸の変術!」
俺と雫が魔法にかかりなんと狸の置物になったから、身体が全く動かない。出雲さんはせっせと似たような狸の置物を置き、そこに俺と雫も紛れる。
そもそも出雲さんは結局、デステクライン使いの人だったのかと、疑問になってしまった。
すると強引に扉が壊され、今まで感じたこともない魔力に押しつぶされそうになる。
「やっぱり来た。何用?」
出雲さんの家に入ってきた人物は、全身が黒いというか闇に覆われている物体だった。死屍なのかと思っていたようだが違うらしい。
「ソウゴハドコダ?」
「ここには来てない。来てたら教える。それともなに?想心の両親から命令が下された?」
「イエナイ。ソウゴノタマシイノニオイガスル」
「だからいないってば。さっきシロノ団に連行されたよ」
「タスケニイカナクチャ。ウソダッタラ、オマエノタマシイヲクラウ」
お好きにどうぞと言い放つ出雲さんであり、黒い物体は一瞬でいなくなってしまった。ふうと一息をつく出雲さんで、さっきのがいなくなったから、出雲さんの呪文が解かれる。
「さっきのなんすか?」
「獄の世界にいる凶暴猛獣といったところかな。そいつを使って指導することもしばしばあるの。あれが動き出したということは、もうすぐやる気なのかもしれない」
「私、見たことがあるかも。想心には黒い物体に見えてたかもしれないけど、なんというか可愛いキャラをしてるの。だからそんなに怖くないから、あぁやって闇を覆ってるの」
「どんなキャラなんだよ」
時期にわかるよと言い出す出雲さんは笑っていて、雫も思い出したのか笑っていた。俺だけ何も知らないだなんて、なんかモヤモヤするなと思っていると、ベルが鳴る。
雫が朝食を食べ終えた時、ベルが鳴って、朝から客多くないかと、壊れた扉はまだ直っていなくとも、出雲さんがはーいと出る。
「ねえ想心」
「ん?」
「本当にこのまま隠れてていいのかな。アンジに何も言わなくて、出ちゃったこと」
「気にすることはねえよ。それにアンジは大丈夫だって信じてるから」
僕が大丈夫だってとアンジが出雲さんを引きずって現れた。
「ガルガルンがシロノ団を襲われたから、来ちゃったよ。まだ想心がこっち側だと思ってさ」
出雲さんを放り投げるアンジであり、雫が出雲さんの傷を手当てする。アンジはそれでも俺たちが怖がらないようにと微笑んでいた。
「さっ帰ろう」
「断る」
「帰ろうよ。ね?怖いものなんてないんだもん。それにほら、三段魔導士の試験も近いから」
「だから断るって言ってんだろ?」
この状況、一歩間違えればアンジの魔法にかかるリスクがある。それに、わかったよと引くわけにはいかない。アンジがこんな早く来るわけは、おそらく獣柱が話をしてくれたとしても、アンジは待てなかったんだろう。
「強引でも連れて帰らなくちゃならないのかな。いつもだったら言うこと聞いてくれてたのに、どうして?僕は嫌われることでもしたのかな?」
「そんなんじゃない。俺はただ」
一瞬で俺の近くに来て耳元で嘘つきと、何が起きたのかさっぱりだった。カステクラインは起動していないはずなのに、アンジの攻撃を受ける。
「想心!」
「雫はまだロゼに渡してないんだ。さっさと雫はロゼに渡せば、想心を傷つけることもしなかったのに」
雫、早く逃げろと叫びたかったが、声を出す威力がなかった。アンジを敵に回すとこんな威力を出すのかよ。意識が朦朧としてしまいそうで、雫に手を伸ばそうとした時のことだ。
「カステクライン!光、女神の歌声!」
光の女神が現れその歌声を聴いたことで、傷がみるみると癒えていった。俺の目の前に現れたのは、美命とそして
「カステクライン!透、紅葉の川!」
思穏の言葉を聞いて、俺は思穏の背中に飛びつきたくなるほど嬉しかった。思穏もやっとカステクライン使いになったんだな。思穏が出した紅葉の川だが弾かれてしまう。
「想心は僕のものだよ。邪魔しないでもらえるかな?」
「想ちゃんはものじゃない!それにあなたのお兄さんでもないんだよ!」
「うるさい!うるさい!たとえ魂が生まれ変わろうとも、僕と想心は一心同体なんだよ!」
いつものアンジに戻すにはどうしたらいいと、立ち上がって行こうとしたら、アンジの背後にごついおっさんが立っていた。そしてそのおっさんは軽々とアンジを気絶させてたのだ。
「すまんのう。目を離したらいなくなってた。わしは牛倉義臣と言ってな、普段は姫の護衛をしておるんだが、アンジが暴走した関係で、アンジを見張っている」
「姫って芽森のことか?」
「さよう。トランプとやらをやろうとした時に呼ばれて、まだできていないから、さっさと答え出してくれんか?」
「…わかってる。だから目を覚ましたら、伝えてくれ。俺は逃げたんじゃない、アンジとの向き合い方を考えたいから、もう少し待っててほしいと」
承知したと牛倉義臣はアンジを担いで、すぐいなくなり、俺はまだ意識を失っている出雲さんのそばに寄る。
「出雲さん…」
俺が声をかけたら、ぐっと背伸びをして起き上がった。
「油断したー。二人とも怪我はって大丈夫そうだねん。果たし状渡したのに、すぐ来るだなんて、君もアンジのように待てない子なのかな」
出雲さんがそういうと思穏は赤っ恥になって、なぜか美命の後ろに隠れてしまう。
「まあ結果オーライだった。君たちが来なかったら、今頃ねるはアンジに殺されて、二人はシロノ団に捕まってたと思う。ありがとねん」
「いえ。想ちゃんと雫ちゃんが無事でよかったよ。それでなんですけど、なぜデステクラインとカステクラインを両方持つ出雲さんはこんなところにいらっしゃるんですか?」
「隠れやすいと言ったらここでしょ。両方に襲われる身はもう慣れちゃってるんだけどね。それに鳩柱くんと牛柱に気づかれちゃったから、また身を隠さなきゃならないかな」
俺と雫はどういうことだと疑問を抱いていたら、美命の後ろに隠れていた思穏が説明をしてくれた。
「魂の状態でデステクラインがカステクライン、カステクラインからデステクラインになるのは教わってるよね?なんかね、聞いた話によるとハーフソウルの状態の人なら、両方持つことができるらしい。ただし一度、カステクライン使いはデステクライン使いになる必要があるらしいよ」
「君はよく勉強してるね。そうなのん。ねるの場合は、最初デステクライン使いだったから、カステクライン使いになっても、なんかね、心がモヤモヤするってなって、再びグレーゾーンになったら、二種類になぜかなってたの」
「なるほど」
「ただし、そうなった人はクロノ団とシロノ団に覆われるから、大変」
大笑いする出雲さんであって、この人と一緒にいたら、奪い合いが激しくなりそうだなと思ってしまった。早くアンジのところに戻るにしても、まずはと思穏と決着しなければならないよな。
「思穏、あのさ」
「決めた?」
「おう。早く終わらせてアンジのこと考えたくてさ」
「そうだね。長居してたら、また出雲さんに迷惑かけたくないだろうし、始めよっか。美命ちゃん、準備お願いしてもいい?」
もちろんと嬉しそうに微笑む美命は、出雲さんの家を後にし、準備をするようだ。笑いを抑えたらしい出雲さんは見物させてもらうよと雫と一緒に出てしまう。
もしかすると二人きりで話すタイミングを作ってくれたんだと確信して、今の想いを思穏にぶつけた。
「思穏があの時、どんな気持ちだったのか、聞きたいんだ。もちろん、今更思い出したくもない過去を掘り起こしたくない気持ちはあるだろうけど…その…」
言おうと思っていた言葉が思うように言葉にできず、迷っていたら、ごめんと謝られる。
「ごめん、想心」
「いや、いいんだ。言いたく、ないよな」
やっぱり思穏はいじめられていた過去をあまり思い出したくないとわかった。だからと違う言葉をかけようとした時、思穏は後悔しているような笑みを浮かべて言った言葉。
「そうじゃないよ。もっと想心に相談をしておけば、もう少し長生きできたのかなって思ったんだよ。僕が早まった行動をしたことで、想心を巻き込んでしまった。謝っても謝りきれないほど、僕は大きな罪を犯したのは事実だよ。あの時ね」
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想心とこの世界に来る直前前……
その日、想心と一緒に帰らず、下校をしていた時、後ろからいじめグループが来ているのを知っていた。それでも僕は気にせず下校していたのは、そこにセブラがいたから。振り向いたら絶対に何かが起きると悟り、なるべく人気の多い場所を選んで帰った。
人気が多い場所は連中も襲いかかってくる様子はなく、なんとか抜け出せそうと思っていた時だった。
母さんが幼い子を連れて歩いている姿に目を疑ってしまう。それにそこには父さんもいて、訳がわからなかった。姉と僕、二人しかいないはずなのに、頭が追いつかなかった。
気になりすぎて、連中のことは気にせず尾行をしてたら、両親はその子の笑みを見て微笑んでいた。
心がガラスだったらおそらく僕の心は粉々になっていたと思う。両親に応えられるよう日々頑張っていた僕は、結局無力だったのかと。ちょうどその時、連中の一人がお世辞で可哀想になぁと揶揄ってきた。
ケラケラ笑い出す連中であり、僕はそのまま連行されて、意識がなくなるほどボコボコにされる。それでも僕は抵抗する威力さえなかった。
帰ったとしても僕の居場所はないんだと、どうせならこのままいなくなりたいと思ってしまった。気がつけば夜になっていて、全身激痛になりながらも、体を起こす。
帰ったらまた怒鳴られるのが目に見えていて、ゆっくり学校へと向かった。途中で知らない人に大丈夫かと声をかけられても、小さく大丈夫ですと答えて学校に到着する。まだほんの少し、門が開いていたから入って警備員に見つからないように屋上へと入った。
きっと帰ってもあの子のことは教えてはくれそうにないよねと、夜空を見上げ溢れそうな涙を堪える。僕はなんのために生きてきたんだろうかと。僕は生まれてくるべき子じゃなかったのと、つい夜空に問う。
何も答えない夜空は小さな光がポツポツと光っているだけで、その小さな光を掴みたかった。その小さな光を掴めば何か起きるんじゃないかって。
結局答えは出なくて、スマホを取り出し、ぽちぽちと文章を打つ。これを送信すれば必ず想心は来てくれる。想心が来てくれたらきっと話せる。そう思って、送信をし想心が来るのを待った。
数分後、想心は僕の姿を見て、すごい驚いてたのを覚えてるよ。
◆
思穏の言葉を聞いて目が赤くなりそうな勢いになりながら、思穏にハグをした。思穏が両親の言葉に応えられるよう日々頑張ってたのは知ってたけど、まさか思穏の心を抉るような場面を見せられたら俺だって気持ちが不安定になる。
「普通に話してくれればよかったじゃねえか」
「へへ。したかったけど、セブラが待てなかったみたいだから」
「今度会ったら一発殴らせろって言っとけ」
「うん。伝えておくね」
準備できたってって雫が来て、何抱きついてんのと変な意味で雫は頬を染めていた。ちげえわとすぐ離れて、思穏は笑ってたな。
「よし行くか」
「うん。負けないよ」
「俺もだ」
思穏とこうして話せる日は、これからも起きるのだと思っていた。あの日が来るまで……。




