79話 涼風は嵐を呼ぶ
大樹を逃したのは訳があった。ここで大樹が暴走すればこの土地は崩壊するに違いなかったから。某にしてきたことは許したつもりじゃないけど、凪嬉の性格からにして大樹より詳しい。
あの時点で気づけばよかったよとカステクラインを起動させる準備をしながら、風龍が強い風を出していく。それでもびくともしない凪嬉にも実際に龍がいるのはわかってた。
「大樹がいないから普通に話させてもらうよ。凪嬉、なんでそこまでやる必要がある?なんでこんなことをするの?」
「まさか、普通に喋れるだなんてね。まあいい。想心をこの地に来させたのは他でもない。邪魔だったからここに来させた」
「某にはそうには見えないよ。だってあの時実際いたんでしょ?芽森ちゃんが産まれた日。颯楽から聞いたよ」
「それが何?芽森は関係ない。僕の人生を狂わせたのは、想心だよ。ここからどん底へといってもらう。そのためには想心をデステクライン使いにさせなくちゃならない」
その言葉で僕が予想していたピースがはまり始めていく。
あの時……
某たちが中学の時で、想心が僕としてではなく、俺として過ごし始めた時期。ごく普通に過ごしていた日々、某は颯楽の家へと訪れていた。爽は芽森ちゃんと同い年でもあり、なぜか母さんと爽も颯楽の家にいたのを覚えてる。
気にせず颯楽の部屋で遊んでいたとき、リビングが騒がしくリビングに入ると、衝撃すぎる場面を見てしまった。
想心が芽森ちゃんの指を絡めており、赤い糸のような光がリビングに広がっていた。想心と芽森ちゃんは不思議そうにしていて、しばらくすると赤い糸は消えていく。爽はぽかんとしていた。
「母さん」
「…このことは黙っててちょうだい、颯楽。このことがばれたら、想心は」
「うん、わかってる。涼太郎、部屋に戻ろう」
うんと相槌を打ちながら颯楽の部屋へと戻ると、颯楽は力が抜けたように、ベッドにダイブする。
「颯楽、あの」
「わかってた。想心が僕の弟ではなくて、古い歴史に記されている寅萩家の息子であることを。だからだと思う。凪嬉がいなくなった理由は、想心を受け入れたことが原因なんだ。凪嬉はずっとあの歴史を守り続けてたから」
「じゃあいずれ想心はあの歴史の通りの人物になるってことなんだよね?」
そうかもしれないと寝返りを打ち天井を見つめる颯楽は、どうするべきか悩んでいた。僕は風龍使いの見習いとしてある程度の歴史は覚えてたから、見当はついていたから。
「それさ、大樹に話しておくべきじゃない?大樹は一応」
「このことは伏せておこう。大樹も弟の件で、結構悩んでるし、あまり負担をかけさせたくはない。ただ、万が一の時は、大樹に想心のこと頼むかもしれない」
「話せば大樹は想心を守ってくれると思うけど、本当にいいの?」
うんと起き上がる颯楽がよりによって凪嬉だっただなんて信じたくはなかったよ。数日後、その件に関してもう一度話そうと颯楽と話した時。
「えっ?そんな話したっけ?」
「この前、普通に話したの覚えてないの?」
某と颯楽は混乱に陥った。数秒、お互い顔を見せ合い、何も言わず思考を膨らませるとあっと某たちは声をもらし、同時に言う。
「凪嬉だ…」
颯楽と凪嬉が二人並ぶと見分けがつかないほど似ている。だから全然気づきもしなかった。某は颯楽に何があったのかを打ち明け、颯楽は驚いてはいたもののすぐ理解をしてくれる。
「想心が養子なのはわかっていたけれど、まさか想心と芽森の魂がその人たちの生まれ変わりだったら大事になる」
「どういうこと?」
「僕がちょくちょく、龍桜神社に訪れてるのは知ってるよね?僕はそこで稽古をしてもらってるのも意味があるのかもしれない。ただこれ以上伝えたら、おそらくだけど涼太郎の命に関わるから言うつもりはないよ」
「…わかった。このことは誰にも言わないよ。これからどうする?」
そこで某は颯楽に言われた通り過ごしてた。たとえ颯楽が凪嬉だとしても自然に接し、あのことを誰にも打ち明けることをしないことを。
そして某が高校卒業間際に父さんは亡くなった。爽は結構泣いていて、母さんもとても泣いていて、某は二人を支えていた時だった。
雨だというのになぜか心地いい風が吹き、二人が寝た後、深夜まだ雨が降っていながらも某は外へと出る。あれは一体なんだろうと空を見上げた瞬間、某は目を疑った。
某の周囲には雨が降らず、そこにいたのは黄緑色の龍がいる。これは夢なのかとつい傘を落としてしまった。
「我が名は風龍である。嵐から伝言を頼まれた」
「父さんが?」
「然様。松風神社で加護を受け、龍使いとなり時を待て。この先大きな災いが起きる。その災いを止められるのはある一族。寅萩家だ。よいか?たとえどんな災いが起きようとも、我々は龍桜家ではなく、寅萩家に従うことになる。今はわからずとも、いずれわかる時がくるだろう」
「父さんの言葉なら信じる。風龍、ありがとう。突然と亡くなったから、理由はわからなかったけど、やっと理解ができた。父さんの死を無駄にはしない」
伝えると風龍は風となって消えてしまった。母さんは行かないでほしいという思いがあったとしても、某が生まれた意味は龍使いとして動くことなんだと、松風神社に行くことに。
松の木々が多くあり颯楽から歴史を多少教わっていたから、すぐ行動に移すことができた。
神社の中へ入り、手を洗ってその奥へと入る。本殿が見えるとそこには神主がいらっしゃって足を止めた。
「風龍から聞いている。覚悟はできているか?」
「はい!ご指導のほうよろしくお願いいたします!」
頭を下げついてこいと神主に呼ばれ、ついていくことに。放課後は体を鍛えるために剣道を教わり、休みの日は風龍の試練を受けていた。
まだ鍛えていなかった某は、すぐに吹き飛ばされることが多くても、体力を徐々につけていたことで、吹き飛ばされることはなくなる。
「やはり嵐が言っていた通りの息子だ。体力がなければ龍を扱えることはできんというのに、数日で風龍と連携をとれるようになるとは、見事なものだ」
某は結構な時間がかかると思っていたけれど、風龍は某に懐いてくれた。そこからは風龍使いとして生活をし、そして某たちが大学に進学する前日にあることが起きる。
その日は嵐でも降るかのような風が吹いていて、とてつもなく嫌な感じがしていた。颯楽と会う予定をしていて、待ち合わせの場所へ行くも、颯楽がなかなか来ない。
どうしたんだろうかと連絡をとってみるも、音信不通で不安が大きく膨れ上がった。もしかしたら凪嬉とばったり会って、来られないのだとしたらと、昔作った秘密基地へと急ぐ。
なにもなければといいと思いながら森林へと入り、秘密基地へ行ってみると白装束を着た人と颯楽がいた。ぽたっぽたっと雨が降り始めていき、その雨が強く地面を打ちつけていく。
颯楽の腕から赤いのが落ちていて、出血しているのだと知った。某が動こうとしたら颯楽が止める。
「動かないで。凪嬉、どういうこと?こんなことして父さんが喜ぶわけがない!」
「これでいい」
「凪嬉!」
白装束が凪嬉だとわかっていたとしても某は動けることができなかった。なぜなら某の前にいるのが凪嬉だったからだ。それでも颯楽との約束は守るため、凪嬉に寄り添っていたんだ。凪嬉はあの日、どれくらい泣いたのかわかってる。
颯楽は凪嬉がやろうとしていることをさせないために入れ変わったんだ。
大学に入学して凪嬉は死に取り憑かれるように数式を解いていたね。気づいていたのに、某は大切な友人の命を止めることはできなかった。研究を見るたびに、風龍が言うんだ。
「奴はもう時期死ぬ」
「どうすればいい。某が止めに入っても、あの瞳を見てしまえば、どうすることも。それに大樹が止めたとしても、きっと消されるのがオチだと思う」
風龍とそういう会話をして、間もなく某は操られた大樹によって殺された。目が覚めた時は正直驚いたことがある。一般の人は蝋燭の道を辿って、天の世界へと入るけれど、某は違った。
なぜなら某が風龍使いでもあったから、心地よい風が吹き、美しい草原の場所で寝ていたから。
「ここは…?」
「起きたか、涼太郎」
「風龍、ここはどこ?」
「ここか。ここは風龍の棲家。本来ならば天の世界に通じる通路を通ってもらうのが掟。だが龍使いの者は、それぞれ一度、魂がここにやって来る。ついて来い。会わせたいお方がいる」
誰だろうと思いながら風龍について行くと小さな社があった。すると中から綺麗な女性が出てくる。その人は某を見た瞬間に飛びついてきた。
「やっとっやっと会えた」
「えっと…?」
混乱をしているとその女性は、某から離れ打ち明けられる。
「覚えてないのはわかってるの。それでも感じてしまって。あなたの魂が私にとって特別の魂だったから、最後まで生きてほしかった」
「某の前世の人ってことですか?」
「うん。風龍使いとしてありとあらゆる民の感情を風に飛ばし続けた人よ」
「感情を?」
「えぇ。人の感情は態度ですぐわかる時もあるけれど、風龍使いは別格。うちに秘めている感情を表に出させる力を引き出せる」
女性はそう言っているも某にはピンとこなかった。某は今まで人の感情を無視し続けてきた結果、ここに来ちゃったようなもの。
女性は大丈夫というような瞳だとしても、某は目から一粒、一粒と雫を垂らしていく。まだ生きたかったという思いと、大きな後悔があったから。
凪嬉とちゃんと向き合っていればこうはならなかったんじゃないか、爽の兄として、爽のそばに寄り添って、悩み相談や遊びに行ったり、勉強を教えてあげたかった。
「今はスッキリするまで、泣きなさい」
その言葉で某は溢れていた感情が涙となって出てきて、女性は優しく某を包み某の頭を撫でながら子守唄のように歌い出す。
泣き止むまで撫でてくれた女性はスッキリしたかなと微笑み、某のほおに触れる。
「うちに秘めた思いは決して、封印はしないでほしい。秘めた思いが憎しみに変わってしまうこともある。だから伝えたい人がそばにいるならば、その思いを伝えて。これから先の道は、必ず」
「ありがとうございます」
感謝を述べたとしても、泣きすぎたせいで変な声になってしまったけれど、某は自然と笑えた。そこからは風龍と共に天の世界で生活をし、時が来るまで階級を上げ、先生として過ごしてた。
現在……
凪嬉がまた某たちから消える前に、なんとしてでもこれだけは伝えなくちゃならない。
「某ね、ずっとうちに秘めていた思いがあったんだ」
「僕はそんな思いで心が変わるとかはないよ」
「それでも構わない。言葉にするのはとても勇気がいるけどさ」
風龍が今まで出さなかった風を呼び起こしていく。
「入学式前日、颯楽が凪嬉になった日。実はね気づいていたんだ。ずっと前から凪嬉は颯楽として過ごしていたこと」
「それがなに?」
「颯楽が言ってた。大事な弟を危険な場所にいさせたくないって。凪嬉が颯楽として過ごしていた日、なんで颯楽が現れなかったと思う?」
「そんなの知るわけない。普通にどこかにいたんじゃ」
違うと大声で叫び、風龍が生み出す風が嵐へと変わり始めていた。
「ずっと凪嬉のそばにいたんだよ!」
凪嬉が颯楽として過ごしている時間、颯楽は凪嬉に見つからないように影で見守っていたこと。颯楽がたまに言っていたことを、代理として伝えてあげる。
「颯楽が影で見てる時、颯楽は笑って、楽しそうでよかったって」
「あれは演技だ!」
「演技じゃない。某と会ってる時も、想心と過ごしている時間も、本当は」
言おうとした瞬間に、凪嬉が叫び出してしまい、そこに邪人らしき者が凪嬉に近づこうとしていた。これはまずいと動こうとした時のことだ。
眩い光が放ち眩しくて目をつぶってしまう。凪嬉が心配で光が消えたのを感じ目を開けるも、凪嬉の姿はなかった。
「凪嬉……。風龍、風弱めて」
「承知」
とにかく想心たちと合流したほうがよさそうと思い、某は想心がいる場所へ戻ることに。
◆
想心の両親がいなくなって、僕はこれからどう動けばいいのだろうかと瓦礫になってしまった場所で座り込んでいた。リラ団長は泣き疲れてしまったルルラちゃんのそばにいて、優くんはすでにいなく、悠くんがまだ残っている。
グレイ団長は意識を失ってしまった関係で、牡丹副団長が引き取りいないのが幸いだったのかもしれない。あそこで自我を持っていたら、優くんの魂が奪われていた可能性だってあったはず。
それにしてもグレイ団長を選んだきっかけが、想心と繋がっていただなんて衝撃すぎた。ただおかしい部分がある。なぜならグレイ団長は元カステクライン使いであり、前のダークグレーノ団長は男性だったと聞いた。グレイが本物のダークグレーノ団長じゃないとしたら…僕は考えたくもないことを思い出してしまう。
「リラ団長!」
「どうした?」
「グレイが団長になったのは最近なんじゃありませんか?」
「言われてみれば、グレイは最近起きた戦でデステクライン使いになった。それがどうかしたの?」
信じたくないけれど、早く想心のところに行かなくちゃ、想心は確実にデステクライン使いになる。
「まだ行けないのはわかってます。僕を天の世界へ連れてってください。想心が危ない」
「想心さんが危ないってどういうことですか?」
「グレイがあの子なら、想心が悲しむからだよ。以前というか美命ちゃんが入院している時期に、小児科で想心に懐いていた子がいたんだ。その子は転院しちゃって連絡もしなかったから」
「じゃあダークグレーノ団長は一体…?」
僕はあっちにいる人の情報はあまり知っていなくても、リラ団長は青ざめて僕たちに教えてくれた。
「柘榴夏海ちゃんかもしれない。あの子はホノオノ国で馴染めなくて、ミズノ国に移籍したと聞いてる。もしその子なら厄介よ。セブラが戻って来るまで待ちたいけれど、悠、一人で戻れるならこのこと伝えに行ってあげて。思穏は行くにしても、追われる身になる可能性があるから」
「はい、母さん。このこと伝えるので、思穏さんは小生の代わりにるこのこと頼みます」
「お願いね」
悠くんはすぐいなくなってしまい、まだ胸がざわざわするも我慢するしかない。だとすればあの一件、ねずみちゃん一家は夏海ちゃんによって、支配されそうになっていたってことだよね。
グレイ団長はねずみちゃんの弟と契約しようとしていたって、セブラから聞いた。
セブラ、早く戻ってきてくれないかなと思いながら、ルルラちゃんが起きるまで待つことに。
その一方セブラは、デステクライン使いに戻ってはカステクライン使いに戻るも、終わってしまったため、再びデステクライン使いに戻るため、玖朗に攻撃を受けていたのだった。




