109話 現世大戦争⑨
雫ちゃんのそばには鈴翔くんがいて、李好は様子を見に行ってしまっている。辰弥くんが戻って来てくれた影響で、なんとか龍桜神社は保ってはいるものの、いつ邪神がここに来てもおかしくはない状況だった。
凪嬉も戻って来て、状況は最悪かもと呟きながら、祈っている雫ちゃんを見ていた。
「無事に天龍寺に着いたかな」
「無事に着いていることを願うしかないよ。それよりそろそろ教えてくれないかな?僕が死ぬはずだったのに、なぜ凪嬉と入れ替わったのか」
凪嬉に聞いてみると凪嬉は僕のほうを向いて、芽森には兄さんが必要だったからだよと言いつつ、もう一つ言われる。
「僕の存在を知っているのは想心だけだから、そばにいたかった。ただそれだけだよ。まああのときのお返しだよ」
あのときのお返し…僕が凪嬉としてやっていくと決めた日のお返しがこうなるだなんてと触れたくても触れられない。そうだとしても凪嬉は触れているような仕草をして、くしゃっと微笑む。
触れることはできなくなってしまっても、こうやって会えた喜びに感謝をしなければならない。
「凪嬉、僕は一度、天龍寺に行ってみようと思う」
「受け入れてはくれないと思うよ」
「わかってる。それでも行かないと大きなことが起きそうな気がして」
「同感。ただ兄さん。兄さんはまだ生きてるんだから、無茶はしないこと。それが守れないならここにいて」
心配性だなと思いながらも、気をつけると告げ、僕は一度天龍寺に行くことを決めた。
◆
兄さんは芽森と合流するべく行ってしまい、まあこれで居場所ばれちゃうのは仕方がない。それに早く芽森が来なければもう時期、邪神が現れてしまう。とにかくできることと言ったら、雫ちゃんのそばで待機をするしかなさそう。
ただ不思議なことに他の獣柱は邪人になったにも関わらず、鈴翔くんは邪人に乗っ取られなかったのか。何か意図があるのではないかと思っていた矢先、黒い影が鈴翔くんに向かっていた。
これはまずいと鈴翔くん逃げろと叫び、鈴翔くんと雫ちゃんがこちらを向いた。間に合ってくれと術を込めやったとしても、さっき倒した邪人とは別格で、すぐ消えることはない。
鈴翔くんが邪人に乗っ取られそうな瞬間に、鈴翔くんを吹き飛ばし、僕の体内へと侵入する。雫ちゃんが僕の名を呼び、来ようとしていたから来るなと発した。狙いはやっぱり獣柱。このままいけば鈴翔くんを襲ってしまうかもしれない。
「鈴っ翔くん!逃げっろ!」
鈴翔くんは動揺していたとしても、獣柱の役目だからといって、ここを離れるわけにはいかない。なぜならそこに雫ちゃんがいるからだ。雫ちゃんと逃げてほしいのに、二人はカステクラインを起動させ、制御ができず二人を襲うことになってしまう。
◆
懐かしいなと思いながら、廃墟となってしまった児童保護施設へと入った。昔は賑やかな場所だったのに、とある事件によって廃墟となってしまった場所。
成人してもここで働いてたっけなと、みんなの成長期が書かれてある柱に触れた。まだ取り壊していないのはわからないけど、またここに来れて嬉しいよ。生き残った子たちは、みんな幸せそうに暮らしていたから、思い残すことはない。
ただ唯一、残っているのはどアホの環が獣柱になってしまって、環を残して生まれ変わりたくないからな。それに俺がデステクライン使いにすぐなった理由。環はどう思ってるんだろうか。
あちこち見たが環の姿はなく、いるとしたらあそこかと鶏小屋へ行ってみると、そこで寝ていた。魂だから鶏に踏まれてもおかしくはないというのに、踏まずに餌を食べている。獣柱からかと一発やろうとしたところ、一斉に鳴き出すからうるせえよと言っても、鶏の声が俺の言葉を消した。
なんで環は鶏に好かれるんだよと思いながらも、鶏の声で目を覚ます環だ。あくびをしながら、智人どうしたと言われる。どうしたじゃねえよとぱこんと叩き、鶏たちが一斉に小屋から出てしまった。
「相変わらずだな」
「智人も。何しにきたのかはわかってるけど、やるならさっさと終わらせて。獣柱は忙しいからさ」
「なんで獣柱を引き受けた?断ることもできたんだろ?なのにどうして」
「あーそっちか。生まれ変わっても、つまらなそうな人生を送りそうだなって思ってさ。獣柱を引き受けた結果、こっちのほうが向いてるってわかった。ただそれだけだよ」
なんでそう言い切れるんだよと思わず環の胸ぐらを掴んでしまう。環はそれでもいつもの顔で平然としていた。
「そういうところ変わってない」
「変われるわけないだろ。一緒に育ってきて、来世では兄弟になろうって言い出したのはお前じゃねえかよ!俺はずっと、環のこと兄貴だと思って」
「そんな昔のこと守ろうとしていただなんて、智人は夢を持ちすぎだよ。期待外れになったとき、辛くなるのは智人だ。俺はもうそんなくだらない夢、忘れてたよ」
怒りが爆発しそうな勢いで、つい俺は環をぶん殴ってしまった。殴りたくもなかった。兄のように接してくれていた環にだけは。
こういうことするのは父親譲りかと呆れられながら、立ち上がる環であり、もう俺が知っている環じゃないと感じた。
俺が初めて児童保護施設で過ごすことになったとき、何もかも嫌になって、何度も自殺を図ろうとした。生きる意味さえわからなくなった俺の前に現れたのが環だ。
環は他の奴らと違って、ただ隣に座って何かを作業し始める。一人になりたい時も、大体は環が隣にいつの間にかいて、行こうとしたら着いてきた。変わったやつと思いながらも、環は俺が喋るまで黙って隣にいてくれたことに自然と打ち明けていたのをはっきりと覚えてる。
両親を失って生きる意味がわからなくなってしまったこと、みんなが楽しそうにしている姿を見ても興味が全く現れないこと。また悪夢のように何かを失うんじゃないかという恐怖。
そういうのを全て吐き出している時間、環は俺の目をしっかり見てくれて、うん、うんと頷いてくれた。俺が次第に辛くて、苦しくて、涙が止まらなかった時、環は俺に希望をくれた。
「みんなも深い傷を負って、ここにくる初日から数日は、智人のように心を閉ざしてる。智人が生きている意味を知りたいなら、一緒に探してやるから、智人はもう苦しまなくていいんだよ。俺や他の奴らも智人が話してくれるのをずっと待ってた。話してくれて、ありがとな。大丈夫。智人は一人じゃない。俺たちがいるから」
環の言葉で環にしがみつき、思いっきり泣いて、大好きな父さんと母さんが亡くなった痛みを吐き出す。環は大丈夫だよと俺の頭を撫でてくれていた。
そこから俺はずっと環にくっついていて、新しい子たちが来たときは、環がしてくれたように接してあげていた。それぞれ里親に引き取られた後でも、恩返しがしたいと思い、環とよく児童保護施設へ訪れていた。
そして悲劇が起きるだなんて思っちゃいなかったこと。何者かによって火災が起きてしまい、その場にいた俺と環はできるだけ子供たちを避難させていたが、建物が崩れると同時に環はあの世を去った。
みんなは環のことが大好きだったから、環を失ったショックは俺にも影響が出ていた。環が望んでいないことはわかっていたとしても、放火魔は捕まっていなく、そいつを探そうと決めた。
心の傷は人それぞれであっても、心の傷は癒えることはなく、放火魔を見つけた時。怒りと憎しみ、そして悲しみが混じり合った感情で、俺の苗字が針が入っていたから、針で殺した。
これでいいと自分に言い聞かせながら、その場を立ち去り、道端で悲鳴をもらうも、歩いていた。俺の光を奪った奴を殺しても、心が満たされず、通報されたから警察が来た瞬間、自害した。
もう終わったんだと目を開けた時は、なぜ俺の魂はまだ残っているのか意味わからなかった。手続きを済ませ、ライトグレーノ王国に着いたら、大量のネズミがいたとしても声を上げるとかはせず一匹のネズミを掴む。
なんでこんなところにネズミがうじゃうじゃいるんだよと思っていたら、ネズミの下敷きとなっている涼真がいた。
「ここでなにしてんの?」
「やっと来たー。智人を待ってたんだよ。あっ!初めまして、僕は絹鬼涼真」
「なんで俺の名前知ってんだよ」
「それはー……なんだっけ?手続き終わったら、思い出せそうだから、城に行こ」
余計にわからないのだがと思いながらも、変わっている涼真と一緒に行動することになった。涼真に色々と教えてもらいながら数日が経ったある日。一通の手紙が届いて、中身を拝見したら、環が獣柱に選ばれた通知だった。
「なぁ涼真。これってどういう意味?」
「どれどれ…。やっぱり智人の兄弟も選ばれちゃった感じか。本当に最悪。獣柱は龍ノ姫を護るための柱たち。僕の幼馴染も獣柱に選ばれちゃったみたい」
「もう二度と会えないってことか…」
「ううん。会える方法はある。ただ今の僕たちの力だと会いには行けない。まずは力をつけなくちゃね」
涼真に言われてまだその時はお互い見習い魔導士でもあったから、力をつけ涼真は団長に、俺は副団長まで昇りつめた。玖朗たちがやろうとしていることに、賛否はあったけれど、涼真がやるって決めたから俺は涼真のサポートとして動くことに。
涼真とシロノ王国に侵入した時、目的はもちろん美命ちゃんを救うことが第一であっても、環がどんな人生を送っているのか興味があった。涼真と別々に行動をし、環の部屋かと覗いたら、これはないわと思ってしまった。
これは環の部屋じゃないのはわかっていても、玖朗がこれをみたら確実に獣柱を追いかけそうなイメージがあり、部屋に置かれてある物、写真は全てズタズタにしておいたな。
環は俺とやり合うつもりはないような顔立ちで、カステクラインを起動させていない。俺も環とやり合うつもりはないからと思っていたところ、アンジが現れた。
「環さん」
「冰春、なんでここにいるんだ?龍ノ姫のそばにいなくていいのか?」
「すぐ向かいます。ただ再確認したくて来ました。環さんの獣柱の役目はなんですか?」
「龍ノ姫が闇に堕ちそうにならないように、導く役目。これを聞いたってことは冰春じゃないな?」
環は何かを確信したようでカステクラインを起動させる準備をしたから、俺もデステクラインを起動させる準備をする。アンジはふっと笑い、次第に大笑いをした。
「環さんの他にも僕を見抜いている獣柱はいた。そう、冰春は深い眠りについてもらった。すでに獣柱の半数以上は僕のしもべとして動いてくれている」
「俺を邪人に変えれば、残りはりよっしーってわけか。じゃあここで冰春の体内から消えてもらう!カステクライン!光、鶏の金切声!」
それ俺も影響出るじゃねえかよと思いながらも、俺は防御魔法を唱えつつ、アンジに攻撃を与える。
「デステクライン!闇、針鼠の針!」
針鼠が複数現れ、アンジに向かって針が飛んでいくも、邪人を複数出して、アンジに当たることはなかった。だからついでに死屍を出現させ、邪人を止めてもらう。むやみに邪人に近づくのは危険だと想心のご両親から教わっていた。
アンジはやるねと言いながら、更に邪人を増やして行こうとするから、止めようとするも止めることはできず、アンジは行ってしまう。
環は少々、焦っている様子で邪人を早く倒して行かせたほうがいいよな。ただ俺はまだカステクラインになったわけじゃないから、萩魔法は唱えることはできない。
環を援するしかなさそうだなと思い、動こうとした時のことだ。環が俺の名を叫んでいて、後ろを振り向く寸前、環が俺を庇う。
その影響で環の様子がおかしくなっていき、そしてみるみると環は邪人の姿へと変わってしまった。
◆
智人が襲われる寸前、俺は智人を庇い、侵入された。耐えきれない状況で、智人が今でも怒りを出そうとしている。りよっしー、悪い。獣柱のみんなもそうだけど、やっぱり家族を失いたくないから庇っちゃった。
俺は物心つく前から児童保護施設にいて、本当の両親の存在を知らないまま育てられていた。もちろん里親候補となる人と巡り会えたとしても、いい巡りにはならず、時が過ぎた頃、智人が児童保護施設へとやって来た。
みんなは新しい仲間が増えたことで、最初は遊ぼうよと誘ってみるも、智人はうんともすんともせず、興味をなくしたみんなは、智人が自分から話してくれるまで待ってあげることに。ただ俺は智人のことが放っておけなくて、ずっと寄り添ってた。
次第に、俺に興味を抱き始めたのかチラチラと俺を見ていても、智人が話してくれるまで、待つこと数日。
「あっえっと…」
最初はなにを話せばいいのかわからなかったらしい智人で、作業していたものをやめ、智人をしっかり見て言う。
「俺は鶏谷環、よろしく」
「針尾智人」
「よろしくな、智人」
「環はなんで他の子たちと違って俺のそばに?誰かに言われたとか?」
「違うよ。俺が智人のそばにいたかったから、そうしただけ。智人、無理に辛い思い出とかは言わなくていい。自分が言いたい時に、俺たちに話して。みんなも智人と遊びたがってるから、まずはみんなと遊ばないか?」
提案を持ちけると智人が喋っていたことで、みんなが扉の前で様子を見ていた。智人はぎこちない笑みを浮かべながらも、待っててくれてありがとうと感謝を述べ、いろんな遊びをした。
小さい子たちは遊び疲れて寝てしまい、智人も久しぶりに遊んだからなのかバテている。小さい子たちを部屋で寝かしつけ終えた後、智人が打ち明けてくれた。
智人が話している間はなるべく中断はさせず、吐き出したいことを全て吐き出してくれて、次第に智人は涙を流す。話し終えた智人は涙を拭い、俺はあることを伝えた。
「みんなも深い傷を負って、ここにくる初日から数日は、智人のように心を閉ざしてる。智人が生きている意味を知りたいなら、一緒に探してやるから、智人はもう苦しまなくていいんだよ。俺や他の奴らも智人が話してくれるのをずっと待ってた。話してくれて、ありがとな。大丈夫。智人は一人じゃない。俺たちがいるから」
智人は俺にしがみつき、さっきより倍以上に泣いて、大丈夫だよと頭を撫でてあげた。そこからは俺についてくるかのように離れず、ずっと一緒だと思っていたが、それぞれ里親が決まり、離れ離れになろうとも、連絡を取り合いながら生活をしていた。
そしてあの日、放火魔に家が燃やされ、俺と智人はその場にいたから、逃げ遅れてしまった子と一緒に避難しようとするも、建物が崩壊すると確信が持てたことで、智人に俺が抱っこしていた子を渡した瞬間、俺は火の海の中に閉じ込められ、いつの間にか別の世界に来たかのような感覚だった。
ここはと見ていたら、りよっしーが来てここがどこなのか知り、そして俺は元々鶏柱の末裔でもあるから、ここに辿り着く運命だったらしい。
最初はシロノ団として動いていたが、獣柱の力が現れたことで、しぶしぶ鶏柱を引き受けることに。
それなのに、結局俺は家族を捨てられなかったなと、智人がなにをすればいいのか状況が読めない様子で、智人ならできると信じながら俺は邪人によって体を奪われた。
◆
環が邪人になってしまい、まさかこうなることになるとは思いもしなかったことだ。俺一人で環を止められるのかと、躊躇してしまう。環を救うにしても、傷をつけてしまっても大丈夫なのだろうか。考えている暇はねえと深呼吸をして、デステクラインを起動させた。
「デステクライン!闇、針鼠の針」
効果が薄いのはわかっていたとしてもやり、環と何度も叫ぶ。呼んだとしても邪人になってしまった環は、俺に襲いかかってくる。
植物を見る限り、植物が枯れ始めていて、かなり酷い状況だなと思えた。邪人がいるからなのかは不明であっても、万が一に備えて想心のご両親からあるものをもらっていた。それは萩の首かけ。やるしかないと取り出しをしたら、環が咆哮をし、俺目掛けて攻撃してくる。
なんとか持ち堪えなければとやり合っていたら、いつの間にか萩の首かけが環が持ってしまい、しまったと思った瞬間。萩の花が多く溢れて包み込まれていく。なにがどうなっているんだと思っていると、正気を取り戻す環。
「智人、頼みがあるっ。今すぐ想心のところへ行け!嫌な予感がするっ」
環と近づこうとするも、一時的なものらしく、頼んだぞと言われ、環は俺を襲うのではなくどこかへと行ってしまった。環はなにを感じたのか俺にはよくわからないが、俺はそのまま想心が向かった場所へと移動することに。




