107話 現世大戦争⑦
芽森ちゃんはここにいないとなれば、おそらくあの場所へと行ったのだろうと思っているも、簡単には行かせてはくれそうにない。なぜなら松風爽の龍に止められているからだ。
やはり僕はここに来るのではなく、あそこの寺で待っていればよかったな。ただ芽森ちゃんは必ず龍桜神社に戻るようにしてある。だから龍桜神社から離れ、ここへ来た。
本来ならば松風家はこちら側につく者だったらしいが、龍桜家を裏切る行為をしたら、罰する必要がある。辰弥は今頃、寅萩家の次男とやりあっていそうで、一度辰弥の龍が雷を出していたが効果は薄いだろう。
松風爽は次第に疲労が出ているのか、少しずつ風が弱まりつつある。このままいけば命に関わることだからやめさせようと告げた。
「これ以上力を使えば、君の命が危険となる。それに見た感じ、君はまだ未熟だ」
「言われなくてもわかってんだよ!俺は辰弥と同じレベルじゃないけど、大切な人を守るために、ここにいる!」
気持ちが強ければ強いほど、その力は発揮する。以前、雷龍を従わせている子を見たときは素晴らしかった。だが結局、力の暴走によって死してしまった。もしも生きていたら、きっと力になってくれていただろうに。いや、僕たちを嫌うだろう。
なぜならその子は紅葉川家長女、紅葉川莉穏。欲しくてたまらなかったけれど、龍桜家に逆らったから罰を与えた。あれは傑作だったなと、行けと龍に指示を与え、白龍は芽森ちゃんのところへと行ってもらう。
「追いかけなくていいの?白龍が芽森ちゃんを見つければ、終了だよ」
「そうだとしても、俺は芽森を守ってくれる人たちを信じるって決めてんだよ。それに感じるんだ。兄貴の魂がそばにいることを!」
さすがは風流使いでもあると、松風爽の隣にはもう一柱の風流が現れ、そして松風涼太郎も現れる。現世にいる松風爽と黄泉の国にいる松風涼太郎。松風涼太郎は怒りを露わにするように強風となり始めた。
「兄貴」
「油断はしないこと。言っておきますが、某を殺したのはあなたですよね?術式を唱えて、大樹に罪をきさせた。その罪がどれほど重いのか」
「知られたくはなかった。あの研究は全て龍桜家が関わっている。それを知られたら大きな傷が生まれるからね。二人を排除しておきたかった」
颯楽が全て知り尽くそうとしていたのも悪いけれど、それを知ってしまったら、おそらく自ら命を落としていたのかもしれない。龍桜家の秘密がなんなのかを。
松風涼太郎は弟の爽に力を貸し、僕に攻撃をしようとも、僕の龍たちが止めに入った。
◆
父さんに殺された場所へと行き、最悪な場面が蘇ろうとも、構わなかった。山奥にある豪邸な屋敷は廃墟となっていて、誰も住んではいない。建物も随分と古くなったなと壁に触れる。
父さんは今、ハウヴァさんと一緒に戦っていて、天の世界を守秘していた。母さんはもちろん青の団長として、盾乃とミズノ王国を守っている。
さすがにここにはいないよねと探索をしていたら、僕が使用していた部屋に鈴翔がいた。鳩たちは驚いて空いている窓から逃げていく。
「やっぱりここにいたんだね」
「なんとなくここにいれば、剣汰が来てくれると思ってたから。一つ頼みたいことがある」
「断るよ。直接鈴翔が言えばいい。そのほうが盾乃は受け入れてくれる」
鈴翔はそれでも盾乃に言わない理由は、わかっていた。盾乃が鈴翔の妹の魂であり、生まれ変わって僕の妹となったから。鈴翔が鳩柱に選ばれてすぐに鈴翔の想いを受け妹さんは生まれ変わりをした。
そして鈴翔はずっと妹さんの魂を見て、本当は父さんに怒り、憎しみが存在していることを。父さんを無魂にするために動いていたことも知ってる。
「てっきり今まで通り、あの人を嫌ってたと思ってたよ。なんで許せる?」
「憎しみや怒りを持ち続けていてたら、心が支配されるって教えてくれたのは鈴翔だよ。だから僕は父さんを許すことができた」
告げたとしても鈴翔の怒りと憎しみは消えるわけじゃない。ここに父さんがいたらおそらく鈴翔に魂を奪われるかもしれない。
「僕は一度もあの人を許したわけじゃない。大事な妹の魂を二度も殺された感覚。妹も盾乃ちゃんと同じ歳に命を落とした。ずっと、ずっと盾乃ちゃんの幸せを望んでいたのに、なぜ長くは生きられない?そして僕と同じ歳で命を落とした剣汰は、同じ気持ちでいてくれるって思ってたよ」
僕が鍛治職人になりたての頃、初めて鈴翔と会ったとき、同じ歳だからということで、世代は違くとも意気投合をしていた。
「鈴翔にも妹がいたんだね」
「うん。僕はまだこっちでやりたいことがあるから、妹は先に現世切符で新しい命として生まれ変わったよ」
「寂しくはない?」
「全然。僕は妹の幸せを望んでるし、いつかまた会えそうな気がするから」
きっと会えるよと言いながら、初めて剣を作ったのが鈴翔だった。鈴翔はずっと僕が作りあげた剣を腰に付けてくれている。そして僕は気づいてしまった。鈴翔と盾乃が楽しそうに喋っている姿に、魂同士の光が強くなっていたことを。
盾乃がいない時間帯に、ちょうど鈴翔と会って、聞き出すことに。
「鈴翔、気になることがあって」
「わかってる。剣汰が知りたいことぐらい。剣汰に近づいたのは、盾乃ちゃんに会いたかったから。大事な妹の魂が戻ってきてしまった時は、ショックだったよ」
「…そうだったんだね。ごめん、守りきれなくて」
「別にいいよ。死はいつどこで起きるかわからないまま過ごしているようなものだし、それに天罰が下ると信じてるから」
最初は僕も同感をしていた。父さんがいなくなればよかったと。そして鈴翔が獣柱だということを知った時、父さんを必ず無魂にするんだと確信した。それでいいんだと思っていても、僕の心に霧がかかっているような感覚で、変な感じをしていた。
なんでだろうと思っていた時に、想心と出会い、逃げずに立ち向かう勇気をくれたから、父さんと向き合うこともできたし、邪人がいたせいだということも知れたから。
鈴翔の気持ちを尊重することができなくて、カステクラインを起動させる準備をすると、鈴翔もカステクラインを起動させた。
「カステクライン!錬、鉄の氷柱!」
「カステクライン!光、鳩の電波!」
冷たい鉄の柱が鈴翔に攻撃を与え、その一方鈴翔が唱えた鳩の電波で攻撃を受ける。いつかは鈴翔を止めなければならないと思っていた。ただやはり僕には勝てっこない相手でもある。
父さんが来てしまったら終わりと認識していいよね。もし父さんが邪人にまた支配されてしまったら、想像したくない絵が生まれてしまう。それだけは絶対に避けたいと、鈴翔に魔法を当て続けていたら、アンちゃんが現れた。
アンちゃんはいつもと違う雰囲気であり、鈴翔も驚いてる。
「へえ、ここが剣汰くんが育っていた場所なんだね」
「アンちゃんなんでここにいるの?」
「鈴翔くんにちょっと用事があってね。鈴翔くん、君の鳩柱の役目はなにかな?」
「蛇柱の言葉を他の獣柱に知らせる役目」
そうだねとアンちゃんは鈴翔の近くへと行き、この感覚父さんが邪人に支配されていたのと似てると思わず鈴翔を庇った。アンちゃんは僕が作った剣で、僕の腹部を刺す。
「やっぱり鈴翔くんを庇った。鈴翔くんは内に秘めてある怒りと憎しみがあるから、それを引き出そうと思ってたのに」
「剣汰!」
「きちゃっだめ……」
抜かれた瞬間、邪人になる予感がしても、僕は悔しさがあるよ。僕が作った剣でこんなことするアンちゃんが哀しすぎた。鈴翔逃げてと思いながら、意識が遠のいていく。
◆
冰春さんが剣汰にする行動が、僕の心を支配されようとも、なんとか冰春さんから剣汰を救わなければと、剣汰が作ってくれた剣に光を込めて、冰春さんに接近しようともそこに邪人が現れる。
そしてみるみると剣汰は邪人と同様な姿へとなってしまった。冰春さんが剣を抜き、萩魔法を唱えるしかない。
「冰春さん!」
「鈴翔くん、ごめん。外にいる鳩たちは殺したから、もう飛ばせる鳩は一羽もいない。今頃他のみんなも邪人となってくれているから、鈴翔くんも邪人になってくれたら、剣汰くんを元に戻すよ」
断りますと告げたら、残念と冰春さんは行ってしまい、この状況かなりやばいです、李好さんと思いながら、萩魔法を唱える。
「カステクライン!植物、萩の思案!」
なんとかして剣汰を救い、李好さんの元へ行かなくちゃならないと、やっていたら白金銀とハウヴァが来た。最悪な事態で、白金銀は僕を見ては剣汰の姿をみて、死屍を出し、剣汰じゃない邪人に襲いかかっている。
「剣汰から話は伺っていた。自分を憎いのはわかっている。盾乃にしてきたことも、剣汰にしてきたことも、償う義務がある。鈴翔、剣汰と友達になってくれて感謝する」
「僕は剣汰を利用するために動いてた。だから友達なんかじゃない。剣汰があなたの無魂を回収できればよかった」
「いつでも自分を無魂にすることはできたはず。それをしなかったのは、盾乃の想いがあるからだろ?」
白金銀に言われ、言いたくはないけれど、当たっている。盾乃ちゃんは、過去のことは水に流し、父親と過ごせてよかったと。もし邪人という存在がなかったら、僕も妹も今頃はしわくちゃの老人になっていたのかもしれない。
だとしても僕は一ミリたりとも白金銀が許せなかった。大事な妹の魂の末路がこんな終わり方をするだなんて許せない。
怒りがありつつもまずは剣汰を元に戻してからだと、再度カステクラインを起動させようとしたら、白金銀にあるものを託される。
それは萩で作られた首かけであり、白金銀もハウヴァも手にしていた。
「効果はあるんですか?」
「やってみなくちゃわからないが、先ほど邪人になってしまった伊雪が元に戻った。いけるな?」
「あなたに命令されたくはないです」
そう言いながら僕たちは剣汰を救うため、まずはハウヴァが試しにやってくれる。邪人になってしまった剣汰はハウヴァが近づくと、頭を抱えながら、攻撃を与えようとしていて、やっぱり萩が苦手なんだと知る。
ハウヴァは銀にサポートされながら、剣汰にかけようとするも剣汰が引きちぎってしまった。
疑問が一つある。なぜ冰春さんは僕たち獣柱を邪人に変えているのか。このままいけば李好さんが危ないような気がすると感じながら、白金銀が息子、剣汰に首かけをしようとした時のことだ。
そこに前のロゼ姫が現れて、よかったと僕のところへとやってくる。
「鈴翔くん、ここはあたしが引き受けるから、鈴翔くんは李好さんの元へ急いで」
「だけど」
「お願い。このままいけば伝播できる鈴翔くんが邪人になってしまったら嘘の情報が流れてしまう。それは一番に避けたい。銀とハウヴァがいるから、大丈夫」
前のロゼ姫=夏海さんはまだ残っている力を出し始めて、冰春さんが李好さんのところに来る前に、なんとかしなければならない。本当は止めてやりたいものの、お言葉に甘えて、李好さんがいるところへ急いだ。
李好さんがいるところに行ってみると、李好さんは龍桜神社で邪人を追い払っていた。李好さんと声をかけながら、状況を報告する。
「冰春さんが、邪人を操ってるようです」
「やはりそうだったか。龍ノ王と濡羽玖朗が封印していたものが、抑えきれなくなっている。あともう少しで邪神が現れてもおかしくはないよ。それにみんなが邪人になっているのに、鈴翔はきてくれた」
「やるおつもりですか?みんなが邪人になってしまっても」
「覚悟はできてるよ。その前に鈴翔。ロゼ姫がここにいるから、守ってあげてほしい。それが最後の役目。いいね?」
本当は僕もやるつもりだった。ただ李好さんはそれを望んでいないことはみんながわかってる。僕は深々と頭を下げて、そして僕は鳩の姿となり、ロゼ姫のところへと向かった。
確かこの辺だったようなと飛び回り、そこには白装束の格好をした颯楽さんと凪嬉さんの姿がある。てことはこの辺りかとそのまま進んでいくと、祈りのポーズをしているロゼ姫がいらっしゃる。
ロゼ姫様と声をかけると僕の方に向けるロゼ姫であり、よかったと抱きつかれた。ちょっと恥ずかしいと思いながら、おそらく状況がわかっている様子だ。
「他のみんなが」
「李好さんからお聞きしています。ロゼ姫」
「雫でいい。私はここにいる。龍桜神社から離れれば邪神が現れるんでしょ?アンジは助かる?」
「わかりません。ただ李好さんが冰春さんにいる邪人を引き話すことができれば、冰春さんは助かるかもしれない。それまでは雫さんをお守りするようご指示をいただいているので」
そうなんだねと雫さんに言われ、雫さんは誰一人失いたくはないような顔立ちだった。雫さんがいる場所は、僕の光で邪人を排除しておくことに。
◆
爽がくれたものを頼りに進んで行き、箒に乗って飛びたいが、箒に乗れるのは天の世界か獄の世界のみらしく、自力で行くしかない。自転車とか乗れれば一番いいのだが、勝手に動いていると現世の人たちに撮られても、困るからな。
それにしても芽森は一体、どこに向かっているんだとあたりは山が多くあり、山岳道路を走っている。みた感じ龍桜神社に向かってるっていうわけでもなさそうだな。
走っていたらちらほらと車が走っていて、ここで争ったら只事じゃなさそうだな。
「みけ太。もう一回、猫になってくれない?」
「断るって言ったじゃん。まあ焦っているのはわかるけど、今のところ邪魔者はいなさそうだし、大丈夫じゃない?」
それはそうなんだけどと走っていたら、一台の車が止まる。なんだと思いきや、車から降りて来て知らない人がこっちに来る。見えてないよなと思ったら、俺の前に来て、やっと会えたと微笑む。
「あの」
「僕は寅萩家当主、寅萩楓。想心の兄だよ」
「母さんから聞いてます。お体の方は?」
「芽森ちゃんが治してくれたおかげでなんとかまだ生きられるって感じかな。それより急ごう。おそらく龍がこっちに向かっていると思うから」
そう言われて遠慮なく車に乗せてもらい、出発することになった。
「母さんと父さんに会えた?」
「もちろん。それから君は緋土家の末裔かな」
「はい。なぜわかるんですか?」
「なんとなくね。今の現状からにして、もうすぐ邪神が現れるかもしれない。僕たち、現世の人は邪神を倒すことはできないけど、邪人を倒すことはできるんだ。だから想心、その時が来たら頼むね」
おうと告げ、一つ気になっていたことがあり、楓兄に聞いてみることにする。
「楓兄と始めて会った感じがしないんだけど」
「僕もだよ。おそらく前の人の魂が、想心の前の人と仲がよかったから、そう感じるんじゃない?」
汀春さんが親しかった人物って心当たりがあるのはただ一人。冬人さんに間違いはなかったんだ。
みけ太があのっと言い出して、どうしたのと楓兄が聞くと、みけ太はどこに向かっているのか聞いた。
「それならね、着けばわかるよ」
楓兄はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、着くまで楓兄の話を聞くことに。




