106話 現世大戦争⑥
思穏くんのお家から出て、車から数時間かかる天龍寺というお寺へと向かってる最中。遠くからはあちこちと煙が立っており、あそこで戦が始まっているのだと感じた。あそこに想兄や凪嬉兄がいるのかなと思ってしまう。
さっき地震の報知音が鳴った時、お父さんが邪神様が目覚めようとしていると言ってた。獣柱のみんなも無事かなと思っていたら、私の名を呼ぶ雫ちゃんの声が聞こえて、私は目を瞑る。
暗闇の中、小さな光があってそこに雫ちゃんがいて、状況を知らせてくれる。
「外の状況把握できてる?」
「うん。今、車で移動中で、天龍寺っていうお寺へ向かってるよ」
「そう。私は今、龍桜神社に来てるの」
「えっ?どういうこと?」
雫ちゃんは言いにくいような表情であっても、私に教えてくれた。
「想心と一緒にいたアンジが一緒に逃げようって言われて逃げた先が龍桜神社だったの。それで一度は部屋に閉じ込められてたんだけど、芽森ちゃんのお兄ちゃんたちが助けてくれて龍桜神社を出ようとしたら、あちこちとひどい状況になってて。それで芽森ちゃんがいないから、私が代わりに邪神を抑えている状況らしいの」
「そんな。てっきり大丈夫なのかとばかり…」
「私もそう思ったよ。今は颯楽さんと凪嬉さんが神社にいる邪人を倒してくれてるって感じ。ただもうすぐ邪神が出そうだから来てほしい」
雫ちゃんにそう言われてしまっても、お父さんとお母さんは行こうとは言わないはず。だとしても私がいけば治るかもしれない。
せっかく私のために、必死に止めてくれている楓さんたちを裏切りたくはないよ。迷いが生じていて、考えていたら雫ちゃんがいなくなってしまい、何かが起きたんだと目を開ける。
「お父さん、止めて!」
お父さんが急ブレーキをかけ、どうしたと後ろを振り向く。幸い、今のところ他車がいないからよかった。
「雫ちゃんに何か起きたのかもしれない。龍桜神社にいるみたいで」
「…連れて行くことはできない。後もう少しで天龍寺に着く。そこに入れば安全だ」
「だとしても雫ちゃんを」
「あの子は現世にいる子じゃない。きっと大丈夫よ。急ぎましょう。それにこっちに想心が向かってくれている。会えるのは一度きりよ」
想兄がこっちに向かってくれている。会えるのは一度きりだとしても、雫ちゃんが心配だ。それでもお父さんは車を走らせていき、雫ちゃんが無事でいることを願うしかなかった。
◆
義臣がいるであろう大きな公園へと入り、そこには犬の散歩をしている人やジョギングをしている人、ベンチで本を読んでいる人もいた。
まさかここにいるとは思わないと歩いていたら、真っ白い袴にちらほらと金色のラインが入っている男がいる。まあ現世にいる人にはまず見えないがなと近づこうとしたら、真っ白な牛が目の前に現れた。
なぜ牧場を選ばなかったのか疑問だが、おい義臣と声をかけると、殺気を出す義臣であり、牛も怒りを出して、すぐさま突進してきそうな勢いだった。
義臣は振り向き刀を抜いて、こっちに来るから、先生も刀を取り出してやろうとした時だった。先生を切ろうとしていたのではなく、背後にいたらしい邪人を倒してくれる。これくらい先生も見抜いていたぞと思うも、助けてくれたからには意味があるのだろう。
「なぜ、助けた?」
「お主は冰春と仲がよかった唯一の友人。冰春が戻って来たとき、悲しむと思ったからだ」
「ほう。今までの獣柱と比べて、随分と変わったようだな。以前の獣柱は私も反吐が出るほど嫌いだったからな」
そう。先生はもう一つ理由があって、冰春と同様に生まれ変わる選択を選ばず、ここで過ごしていたのだからな。
汀春が封印された時は、ショックがあったが冰春のことが心配だった。冰春は耐えられるのかと、最初の頃は会うこともできなかったが、想心が生まれる直前に、冰春と会っていた。
「冰春、顔色悪いぞ。ちゃんと食べているか?」
「食べてる…。ねえリディ、なんでリディはまだここにいるの?上からの指示で探って来いって言われて」
冰春は今でも倒れそうになり、冰春の魂が消えてしまうんじゃないかと恐れていた。冰春はそのまま倒れそうになっていたから、支えてあげ先生の家で寝かせてあげることに。
少しして起きた冰春は、ごめんと謝るも、謝らなくていいとお粥を差し出す。それをしっかり食べ終えた冰春に、先生はこう答えた。
「冰春が生まれ変わるまで、私は生まれ変わらないと誓った。この先も多くの者は生まれ変わる。だが私はあの時の悔しさを残していくことも、冰春が自由になるまでは、冰春の友としていたいと思っていてな。だから」
「生まれ変わっててほしかった。この先、必ず大きなことが起きる。それでもリディはその想いを持ち続けてくれるの?」
「あぁ、もちろん。それに私はまだ冰春と汀春に恩をしっかり返せていないからな」
「ふうん。じゃあ今まで通り、僕いじりは止まらないんだね。ありがとう、リディ。少し気持ちが楽になれた。もう時期、汀春の魂が誕生すると思う。時が来たら、リディ、頼むね」
先生と冰春は約束をしていた。今度こそ邪神を倒して、三人で過ごしたあと、三人で旅立とうと。その夢はまだ諦めていないぞ。
「てっきり義臣はすでに生まれ変わっていたと思っていた。まさか牛柱となって私の前からいなくなるだなんてな。それともなんだ?調査するよう言われて、紺瑠璃の団にいたのか?」
先生の問いに黙る義臣であり、元々シロノ団員だったのかと感じてしまった。獣柱に選ばれるのはふた通り存在する。一つはシロノ団として動いている時に、力が現れる。そしてもう一つは家系によって選ばれるかのどちらかだ。
牛柱は時々苗字が違う人が百年ごとに変わっていたから、気にはしていなかったよ。
「義臣」
「すまない。その問いには答えられない」
「そうか。なら力づくで吐いてもらうぞ」
義臣は魔法より刀を使うことが多いから、先生も事前に作ってもらったのだ。剣汰が作ってくれた氷雪刀は触れなくても、凍る刀。
だから義臣を止めるのにはうってつけの刀だと思い、持参してきた。
「どうした義臣!力が鈍ってるぞ!」
義臣の力はこの程度じゃないだろと思いながらも、義臣はなぜか楽しそうにしている。義臣が本気を出せば、先生はどうなるのかわかっているから、本気を出さないでいた。
以前もそうだったな。先生が女だからって遠慮しながら、先生と鍛錬を行なっていた。昔も今も変わらない義臣。夫がいなくなって、汀春と冰春と巡り合い、そして義臣が仲間になった。ただあの時、義臣が率いていた紺瑠璃のみんなもいなかったわけを考えれば、納得がいってしまう。義臣が率いていたみんなも、シロノ団員だったのではないかと。
答えてくれ、義臣と刃と刃がぶつかり合い、義臣の刃が凍り始めていく。それでも義臣は侍でもあり、先生より上なのはわかっていた。
それを何度か繰り返していると義臣の牛が鳴き始め、首についているカウベルがこの周辺に響き渡る。
そしたらそこに冰春が現れて、なんでここに牛がいるのと言いながら、こっちに来た。しかし先生と義臣は冰春に刃を向ける。
「お主は冰春ではない!拙者の牛が教えてくれた。なにやつ?」
「僕は僕だよ。やだなぁ。リディーなんでそんな顔をしてるの」
「冰春だとしても冰春ではない感情を感じるからだ。冰春はそんな感情を持つわけがない!カステクライン!植物、萩の思案!」
冰春に攻撃をしようとしたが、効果は現れず、周囲にいた現世の人たちが次々へと倒れ始めていく。冰春はあーあと残念そうな表情をしながら、先生と義臣に言った。
「すでに現世と天の世界、それから獄の世界は共鳴し始めたよ。わからない?植物は枯れ、動物も餓死し、そして浄化の水は濁っていく。これが僕が求めていた理想の世界。そしてもうすぐ現世の魂は全て僕が吸収すると決めている。だからリディー、僕のために邪人となってよ」
いかれた微笑みをする冰春であり、先生の体内に邪人が侵入し始めていく。義臣が冰春に攻撃をしようとも、冰春は先生が邪人になると確信したのか、いなくなった。
先生がやられるわけがないと思っていても、体がゆうことを聞いてくれず、義臣になにかをしてしまうんじゃないかと恐れる。
「義臣!私から離れろ!」
「しかし!」
いいからとなんとかせねばと、侵入させない方法はと、考えていたら、汀春の囁きが聞こえる。
〝リディー!嬉しかった思い出、楽しかった思い出、幸せだった思い出を思い出して!その思い出が光となって、邪人を追い出せる!〟
汀春、感謝すると心に叫び、そして心を落ち着かせながら、嬉しかった思い出、楽しかった思い出、そして幸せだった思い出を思い出す。
夫が先生を選んでくれた思い出、汀春と冰春とふざけ合って、楽しかった思い出、夫と過ごした日々や、汀春と冰春、紺瑠璃の団のみんなと過ごした日々。幸せだった思い出が溢れ出し、そして大きな光へとなる。
邪人を追い出して、その邪人を義臣が倒してくれた。
「感謝する」
「いい。それよりさっきの冰春は」
「おそらく、すでにもう邪神によって支配されているのかもしれん。こんなことをしている場合じゃない。急いで冰春を追わないと」
義臣と話していたら再び冰春が現れ、やっぱりリディーは難しかったかと言う。じゃあ義臣はと言われ義臣が苦しみ出してしまった。
◆
まさか拙者の体内に入るとは思わず、リディーが来ようとするから、来るでないと叫んだ。こやつにやられるものかと拙者はリディーの微笑む姿を思い浮かべる。
まだ拙者が紺瑠璃の団にいた頃だった…
拙者はごく普通に紺瑠璃の団として動いていて、たまにリディーと任務に出かける日々も多かった。リディーは基本、汀春と冰春から離れることはなかった。
リディーに呼ばれた時は、なにかをやらかしたのではないかと、最初は思っていたが、拙者たちが思っているより、リディーが仲間想いだということに気づく。一人一人の悩みを聞いて解決して、いつかは団長として動く素質があった。
それでもリディーが拒んでいた理由は、汀春と冰春になにかあったら、確実に闇落ちをするかもしれないと言っていた。だからリディーは称号を貰わず、紺瑠璃の団員として過ごしていたな。
「義臣、リディーたちに言わなくていいの?リディーと仲よかったじゃない」
「言わないほうがいい。言ってしまえば、リディーは拙者たちを凍らせる。それだけは避けたい」
リディーに惹かれていたとしても、それは叶わない夢。そもそもここに来た時点で、叶わない夢は持たないほうがいいと言われていた。叶わない夢はいずれ引き金となる。それだけは避けなければならないから、紺瑠璃の団のみんなを裏切った。あの日、冰春が邪神となってしまった時、シロノ団に戻らなくてはならなかったから、戻って国を守っていた。そして柱たち全員が殺された時、一人の女が現れる。
「あなたは生かしておく。牛柱の役目はまだ渡さないけれど、時が来たらあなたに役目を果たす。それまではシロノ団を見届けて」
女は拙者に告げると、光となっていなくなってしまい、言われた通りに時を待った。牛柱の役目は拙者以外のみんなを死なせないための役目。それなのに今は、ばらけてしまっている。
みんなは無事なのかと邪人を抑え込む。こんなところでやられるわけなかろうと、叫びながら自身の光を放つ。
「義臣!光が強ければ闇も強くなってしまうぞ!」
リディーに忠告されるも邪人を追い出せられるならと、光を強く出していたら、邪人が光に対抗できなくなり、拙者の体内から出る。
冰春は想定外というより想定内に入っていたようで、邪人が数体現れた。
「やっぱり義臣の心は強い。心はガラスのように脆いものなのに、その輝きがある限り、義臣を邪人にはできない。リディーもそう。輝きすぎるから邪人は入ることができない。だから義臣、早く心壊れてほしいな」
なにがあろうとも拙者は絶対に邪人とやらにならんと刀を構えると、そこに藍雅たち、女の獣柱が全滅し邪人となって現れる。冰春ははははっと笑い出して、怒りで刀を振ろうとしたら、藍雅たちが止めに入り、思うように動かない。
離れろと暴れ、藍雅たちは一度拙者から離れ、冰春はと周囲をみるも、すでにいなかった。
義臣、後ろだとリディーに言われ、後ろを振り向いた瞬間のことだった。冰春の腕までが拙者の腹へと入り、思いっきり血を吐く。
リディーは数秒なにが起きたのかわからずに動揺して、そして拙者の名を叫びながら冰春に近づこうとも、藍雅たちに邪魔をされてしまう。
心に触れられているような感覚で、そしてガラスが割れたような音が、響き渡る。
「ふう。こうでもしなきゃ、義臣は言うこと聞かなそうだから、こうさせてもらった。さあリディーを始末するんだ。氷花に好かれた者がまだここにいる。さあ目覚めよ!」
リディー頼むから逃げてくれと思っていたら、義臣さんと紺瑠璃の団服を着ている懐かしき仲間が現れた。義臣さんを救えと紺瑠璃の団員たちが、冰春に魔法を唱えていく。
みんなが拙者を救おうとしてくれているのならばと、冰春の腕を掴んだ。冰春は拙者の腹から腕を出し、少し距離を離す。ただ、壊れてしまった以上、時間が持たない。リディー頼む。拙者を凍らせてくれと胸を抑え、もう片方でリディーのほうに向けて手を伸ばす。
リディーはやりたくはないという瞳をしていても、拙者を凍らせよううとした瞬間のことだ。リディーの腹から刃が現れ、そしてリディーは倒れ込む。
貴様と怒りを露わにしてしまったことで、拙者は邪人になってしまい、紺瑠璃の団員たちを傷つけてしまうことに。




