104話 現世大戦争④
ここから出してと襖を開けようとも襖を破こうとしてもこの部屋から出ることはできない。アンジが逃げようと言われた時、すごく嬉しかったのに、アンジはいつものアンジではなくって、現世にある龍桜神社の部屋に閉じ込められちゃった。
アンジに一体何が起きちゃったのと叩くのはやめて、座り込む。私と想心には見せなかった顔があっただなんて、なんで私は気づけなかったんだろう。
カステクラインも没収されちゃったし、どうすることもできなくて、芽森ちゃんが来ちゃったら終わりだと感じた。
とにかく逃げる方法探さなくちゃと思っていたら、襖が開いてそこには白装束の格好をした人が現れる。その人は顔を覆っていたものを脱ぎ捨て、私はつい凪嬉さんと聞いてみると颯楽のほうだよと教えてくれる。
「龍桜家が出払っているから、急いで来たものの頑丈な結界が貼られてるらしい。現世にいる僕では解けない術。つまり黄泉の国の者ではないと解除ができない」
「そうだとしても、ここに来られる人は限られてると思います」
「そうだね。とにかく僕も試してみるから、ちょっと離れててもらってもいい?」
はいと返事をしながら邪魔にならない片隅にいて、颯楽さんは術を解く方法を探すことに。
◆
俺たちの母校に辿り着き、懐かしいなと校舎を歩いていた。俺たちの同級生はもう卒業してるけど、懐かしい先生がいたり、新しい先生がいたり、後輩たちが授業に励んでいる姿を見て、本当はまだ生きたかったなと感じてしまう。
懐かしいと呟く洋平と俺は獣柱と選ばれてしまった蟹刄紬先生がいそうな母校にいた。そして俺たちは紬先生のことが大好きだったから、止められるならと想心たちがいろんな国に出かけていた時間に、リディー先生にびしばしと指導をもらいながら、二段魔導士まで昇ることができた。
俺たちは結構、いろんな奴らを見下しては、危ないことばかりして、紬先生に怒られてたなと思い出す。
「こら、舟渡くん!砂山くん!待ちなさい!」
俺と洋平は授業をサボって、屋上でゲームをしていたら見つかり、紬先生に追いかけられてた。紬先生は古文の先生なのに、体力はあり、すぐ捕まって生徒指導室でお説教をもらっていた。
「あなたたち、授業サボってなんでこんなゲーム機持ってきてるの?」
「古文以外の授業つまらないんだもん。全て紬先生が教えてよ」
「そうそう。紬先生の授業、楽しいし、覚えやすい」
「古文に関してはいつも満点をとってくれるのは嬉しいけど、ちゃんと他の先生のやり方も学んでほしいわよ」
いやですと言い張る俺と洋平であり、紬先生を怒らせていたっけ。紬先生はそれでも、俺と洋平を常に寄り添ってくれていた先生だった。
スポーツの大会で悩んでいるときも、洋平は絵を出展しようか悩んでいたときも、紬先生がアドバイスしてくれたことで、大会で優勝できたり、洋平は出展をして金賞をもらった。一番に喜んでくれた紬先生は、俺たちにご褒美として美味しいもの食べさせてくれてたな。
俺たちが三年に上がる前日、俺と洋平は普通に登校しようとした際に、災害が起きて廃墟ビルの下敷きとなり、俺と洋平は天の世界へときた。
あれからもう何年経ってんのかなと歩いていたら、洋平が校庭のほうを見て言う。
「なあ、あそこにいるの紬先生じゃないか?」
「本当だ。校庭のど真ん中にいるし、体育の授業の真っ最中じゃんかよ。なんで紬先生、ここを選んだ」
「わっかんないけど、場所移動してもらったほうがよくないか。あのまま魔法使われたら、後輩たちや先生に危害が出る」
「だな。あまり派手なことはするなって言われてるし、さっきの地震で帰ってくれれば好都合だったんだけど」
俺と洋平は窓から飛び降りて、紬先生と声をかけながら、校庭に出る。紬先生はあらっと微笑んでくれた。
「舟渡くんと砂山くんじゃないの。想心くんの団に入ってるって聞いてたから、いつかは会えるんじゃないかなって思ってた」
「紬先生、なんで蟹柱に選ばれちゃったんですか?」
「俺たちずっと考えていたんです。また紬先生に教わりたいって探したんですよ」
「ふふっ。そう言ってくれて先生嬉しいな。でもごめんなさい。それはできない。蟹柱の役目は重い役目を渡されてる。それはね、獣柱になった人が結んできた縁を切ることよ。それなのにまさか舟渡くんと砂山くんの縁が切れていなかったようね」
先生はハサミを持って、そして蟹が俺たちの周りを囲む。しっしっとやっても、蟹は俺たちのところに来て、そして淡い糸が先生と繋がっているのが見える。
「これで先生との縁が切れたら、一度あなたたちは眠りにつく。先生のこと心配しに来てくれて、どうもありがとう。そしてさよなら」
先生がその縁を切ろうとしていて、そんなことさせないと、俺と洋平はカステクラインを起動させた。
「カステクライン!風、エミューの疾風!」
「カステクライン!雷、バッファローの雷鳴!」
俺は風魔法を使い、洋平は雷魔法を唱えて、紬先生に当ててみるも弾かれてしまう。先生と蟹たちが繋いでいる縁を切ろうとした時だ。
切られたと思っていたのに先生との糸は頑丈で、紬先生との絆を失いたくないという想いが防いでくれたのかもしれない。紬先生はこれじゃあ切れないわねとハサミをしまい、蟹たちも先生のところへと戻っていった。
さっき俺たちが魔法を唱えても、後輩たちや先生は驚いていないのはなんでと思っていると、紬先生が教えてくれる。
「防衛魔導士がいる限り、現世には影響が出ないようになっているの。先生を止めたいんなら、次々と魔法を唱えなさい。先生もいくわよ。カステクライン!光、蟹の手裏剣!」
蟹が回転して俺たちに向けてやって来る。俺たちはバラバラに避け、次の魔法を唱えようとしたら、教室のほうから緊急地震速報の報知音が鳴り響く。
そして次の瞬間、大きな地震が起きて、校庭にいた後輩たちが騒いでいるから、先生がしゃがめと言っていた。これかなり長い地震だと俺たちにとっては映像を見ているかのような感覚だ。
地震が落ち着いたことで、教室にいた先生や後輩たちがぞろぞろと集まってきて、俺たちは片隅に寄ってあげる。
「紬先生…」
「邪神が目覚めようとしている合図よ。舟渡くん、砂山くん。頼みたいことがある。すぐ天の世界へと戻って、天の世界を守ってほしい」
「ですが俺たちは紬先生の魂を失いたくないんです!」
「そうです!俺たちは家族もダチも、まだ現世で楽しく過ごしてるから、こっちにいる知り合いは先生しかいない!」
そしたら紬先生は俺と洋平を抱きしめて、感謝をする。
「ありがとう、舟渡くん、砂山くん。こんな先生を慕ってくれて、先生嬉しかった。あなたたちを失ったとき、ショックはあったけれど、こうしてまた会えた喜びは一生に忘れない。そして会いに来てくれて、ありがとね」
俺と洋平から離れる紬先生は笑っていたとしても、どこか寂しそうな笑顔だった。俺と洋平はつい紬先生の手を掴んでしまう。紬先生の手はとても震えていて、俺と洋平は大丈夫ですとその手を離さなかった。
紬先生、泣かないでくださいと掴んでないほうの手で拭ってあげる。すると拍手をする音が聞こえ、そっちに体を向けたらアンジがいた。俺と洋平はつい紬先生の盾となる。
「なんかじんわりきちゃったよ。先生と生徒の絆っていうのかな。ねえ紬さん、紬さんの役目はなにかな?」
「…応えるつもりはないわよ。それに冰春くんじゃないわよね?一体何者なの?」
「僕は僕だよ、紬さん。紬さんがちゃんと役目を果たさないから、獣柱のみんなの心が揺らいでる。責任をとってもらわなくちゃ」
「アンジ!急にどうしちゃったんだよ!」
そしたら俺の体内に何かが侵入してきて、洋平も同じような症状が出てるっぽい。紬先生はアンジのことを叱った。
「この二人になにをしたの!」
「えっ?邪魔だから邪人に変えるだけだよ。そもそも僕は一ミリたりとも二人を許したわけじゃないよ。想心が必死に語学を学んでるのに、最低な言葉を言っちゃってさ。あぁこいつらはなにがなんでも、邪人に変えてやろうってずっと、ずうっと思ってた」
冷ややかな瞳で言われ、あの時からずっと過ごしてたのかよと、抵抗ができず、俺と洋平は邪人というやつになってしまった。
◆
舟渡くんと砂山くんが邪人になってしまったことで、一度距離を離し、冰春くんはじゃあねとさっさと行ってしまう。邪人になってしまったら、萩の花が必要になるかもしれないと李好が言っていた。そうだとしても今の季節は萩の花があるかどうかもわからない。
植物魔法にも萩魔法があるから、それを使えば多少はよくなるかもしれないと、カステクラインを起動させた。
「カステクライン!植物、萩の思案!」
二人に萩魔法を唱えて、混乱させ舟渡くんと砂山くんがぶつかり合う。どれくらい持つかどうかは不明であっても、なんとか元に戻す方法はないの。
邪人は時に現世にも影響が出てしまうから、二人を拘束させて、別の場所へと移動する。ここなら人もいないからいいとはいえ、この状況かなり酷い状況。李好と連絡を取りたいけれど、連絡をとっている暇はないし、鳩の姿がないとなれば、冰春くんが何かをした影響で、動物がいない。私の使い魔は歩くのが遅いから、どうすることもできないと思っていると、おねえ姿の航が現れた。
「二人のことが心配だから来たものの、なあに邪人になってるのかしら。全く、早く戻ってきてくれないと困るのよね」
「航、なんで」
「久しぶりね、紬。まさか蟹柱に選ばれていただなんて、なんで言ってくれなかったのかしら?」
「航こそ、なんでここにいるの?てっきり生まれ変わって、女子として生活してると思ってたわよ」
航は私の同級生で、いつも男子に揶揄わられて、大事なデザインのスケッチブックを破かれ泣いていた航は、見事デザイナーとして、世間に広めていた。
それなのに航は海外の出張の矢先、通り魔に殺されてしまったと聞かされたとき、涙が止まらなかった。航が作ったデザインが大好きで、そして私は航のことが好きだった。まさかこうして生徒と愛する人が来てくれるだなんて、嬉しい。
「航、植物魔法覚えてる?」
「もちろん。テンファに教わって、見事合格したわよ。植物魔法のなにをしようすればいいわけ?」
「萩魔法よ。邪人は萩の花が弱点。いくわよ」
私と航は同時にカステクラインを起動させ、魔法を唱える。
「カステクライン!植物、萩の思案!」
再び二人がぶつかり合って混乱し、もう一度とカステクラインを起動させ、唱えていると夏海が現れた。
「紬さん、よかった。藍雅さんと滾良さんが邪人になって、もしかすると兎ちゃんもなっちゃったかもしれない。アンジの狙いは獣柱なの」
「どうりで他の獣柱と連絡が取れないと思ってた。夏海、他の獣柱のところへ言って伝えて」
「兎ちゃんからも言われました。ただ二人の邪人を相手はきついと思うので、あたしも力を貸します」
夏海はまだ残っているという龍ノ姫の力を利用して、私と航に見せてもらった。それは白い糸と黒い糸が絡まっている。
「まずは二人にある邪人を追い出さないと効果がない。紬さんいけますか?」
「なるほどね。航、二人に拘束魔法を唱えておいて。夏海、あの時ごめんね」
「謝らなくていいです。紬さんの生徒さんを救いましょ」
夏海の笑顔に救われ、航お願いと伝え、航は拘束魔法を唱え、私も魔法を唱えた。
「カステクライン!蟹、絆の縁斬り!」
この魔法はあまり使用したくなくても、邪人にも影響が出ると李好から教わってたから使わせてもらう。お願い切れてと願うとうまく切れたことで、二人の邪人が離れた。
今だよと夏海の合図で私と航は糸を切り、これでひとまず安心かなと思った時のことだった。夏海と航が二人の容体を確認している最中に、二人の邪人が私の体内へと入る。
まずいと私は四人から距離を離して、自力でなんとかやろうとも侵食し始めてくる。舟渡くんと砂山くんが目を覚まして、夏海と航も私のほうを向き、紬先生と二人が叫んだ瞬間、私は四人目の邪人となってしまった。
◆
なにが起きたのかさっぱりわからなくて、目を覚ますと航さんとそれから夏海が心配な目で見ていた。夏海に起こされ、紬先生になにが起きたのかすぐにわかり、俺と潤次は紬先生の名前を叫んだ瞬間、紬先生は邪人となってしまう。
夏海はどうしようという不安があるのが見え見えで、航さんもどうしたらいいのかわからない状況らしい。俺と順平が邪人になった時と同じようにすれば助かるんじゃと思っていたら、夏海が言った。
「獣柱になってしまった邪人は私の力じゃ引き離すことができない。どうしよう」
「二人とも、まだ動けるかしら?こうなった以上、三人で止めるから、夏海はそれ以外の獣柱のところに行きなさい」
「…わかった」
夏海はそれでも救えないことで、悔やんでいる様子で、俺と潤次は夏海の手を握ってやる。
「事情はリディー先生から聞いてる。ここは俺たちに任せて大丈夫だから、夏海がやるべきことをしてほしい」
「そうだよ。それにファウたちにも約束したんだろ?絶対に帰ってくるから待っててほしいって。ならちゃんと夏海がやるべきことをするべきだよ」
「舟渡くん、砂山くん、ありがとう。弱気になってたらみんなに怒られちゃうね。うん、それでも気をつけて」
そっちもなと伝えているとそこに想心とみけ太が到着した。状況を理解したうえで、みけ太は潤次に萩の首かけを三つ渡してくれる。
「来るのが遅くなって悪い。それと舟渡先輩、砂山先輩。あんな別れして悪かった」
深々と頭を下げる想心で、俺と潤次は想心の肩を組んで、先に潤次が言った。
「そんなことリディー先生から聞かされてたから、平気だっつうの。妹ちゃんが待ってんだろ?さっさと行ってやれ」
「紬先生は俺たちの先生でもあったから、引き受けたんだよ。って言っても以前、想心のご両親に言われて覚悟はしてたからさ」
そうなのかと潤次と俺の顔を交互に見て、俺と潤次は想心の背中を押してやる。想心と巡り合わせてくれたのは、もしかすると紬先生なのかもしれないと、薄々感じてた俺たち。
行ってこいと俺と潤次は笑顔で見送り、ありがとうと感謝されながら、想心とみけ太は先へと進んでいく。夏海も俺たちの想いを受け、行ってもらい、さてとと航さんの隣に立つ。
潤次が一つずつ萩の首かけを渡してくれて、俺たちは同時にカステクラインを起動させる。潤次は水魔法を使い、航さんは植物魔法を唱え、俺は雷魔法を唱えた。
「カステクライン!雷、バッファローの雷鳴!」
バッファローが現れ鳴きだすと、雷が放たれ、うまく当たってはいるが効果は薄いと感じる。獣柱の力は俺たちにとっては敵わない相手であろうとも、絶対に紬先生を救いたい。
邪人になってしまった紬先生は、萩の匂いが駄目らしく航さんに萩魔法を唱えてもらいながら、潤次が紬先生にかけようとするも、そこでハプニングが起きた。そこらじゅうに黒い蟹が多くいて、これじゃあまともに歩けない。
今のところ萩の思案で混乱をしているからいいにしても、解けてしまったら一番近くの潤次がやられてしまう。それでも潤次は蟹を踏まないように歩き、紬先生の後ろに到着することができた。
いけると思った瞬間に、混乱が解けてしまい、紬先生が後ろを振り向いて叫ばれてしまう。そしたら一斉に黒い蟹が潤次を襲い、しまったと動けた俺と航さんは真っ先に首にかけた。
はぁはぁと息を切らしながら、萩の効果がすぐ現れると思っていたけれど、効果がない。なんでだと思考を膨らませていたら、小さな黒い蟹たちが萩の首かけを少しずつ切っているのがみえ、全然気づかなかった。
もう萩の首かけは残ってないから、紬先生を救うことができない。悔しいけど潤次を助けなくちゃ。
航さんも悔しい表情をしていても、潤次を先に救うために、黒い蟹をどかしていく。どかしても今度は俺たちに襲いかかってきても、潤次を支えて撤退しようと思ったら、俺たちの前に現れたのはブラックノ団員たちだった。
「準備に遅くなってごめんね。獣柱を止めていてくれてありがとう。ブラックノ団は灯火が強い。だからここはねるたちに任せて天の世界を守って」
「だけど紬先生を俺たちが止めなくちゃ」
「この先は獄の世界に選ばれた魂が挑む戦。あなたたちの希望の光を失うわけにはいかないの。天の世界にも邪人が現れている以上、カステクライン使いは、天の世界に戻るよう命令が出される」
腑に落ちないけれど、俺たちには敵わなかった紬先生を止めてくれる威力があるのだと信じて、紬先生のことを頼みますと伝え、俺たちは撤収をした。
◆
蟹柱に挑んでいた舟渡潤次と砂山洋平、それから蟹柱と繋がりを持っている岬航が脱退したことで、ねるたちはすぐさま蟹柱を囲む。
玖朗に教わった通りになって、一刻も早く獣柱を元に戻さないと光が闇へと変わってしまう。獣柱は強い光がある分、大きな影が生まれそれが闇へと繋がる。それをアンジは利用しているかもしれないと玖朗が言っていた。
アンジの心が闇に染まってしまった現況は、あの時に起きた出来事であり、龍ノ王とそして玖朗がその闇を封印していたらしいけれど、防ぐことができなくなって、今に至っている。
アンジは封印された汀春の魂を救うために、邪神と取引を行ったのは確実。ただその内容はアンジしかわからない。ただねるの予感だけど、アンジの魂はもう邪神によって支配されてしまったんじゃないかなって思う。
アンジを救えるのはただ一人、汀春の魂を引き継ぐ想心が鍵。ねるは想心の力になるために、ここにいるよ。シロノ団を失った時から、今度はみんなを救える存在になりたいから。
みんな行くよとねるたちは、事前に教わっていた萩魔法で、獣柱を救うことに。




