40.裏切り
俺達はアディに案内されアディのお父さんの待つ部屋に入った。
「おお、来たかね?」
薄い金色の髪のがっしりとした身体付きのアディからかわいさを取ったような顔つきの初老のおじさんだった。
「お久しぶりです。クアイス様」
「おじちゃん久しぶり!」
ちょっとレタ?失礼だよ?
「エリアーナ君もエレベッタ君もお久しぶりだね。元気にしてたかい?ごめんね君達が苦労してるときに何もしてあげられなくて。そっちの君は初めましてかな?」
「初めまして。浩二っていいます。」
「コージ君だね?不肖の息子がお世話になっているよ。」
「?。よろしくお願いします。」
今、息子って言った?出店のおじさんも一人息子って言ってたし。
「いやぁ、しかしようやく息子がエリアーナ君達を連れてきてくれたね。これでようやくこの家の後継ぎには困らないよ。」
え?何言ってんだ?
「クアイス様?どういう意味でしょう?」
「エリアーナ君の疑問ももっともだね、ならどういうことか見せてあげる必要があるね?」
クアイスが懐から光る真珠の粒を取り出して俺の後ろのアディに話しかける。
「エレベッタ君はアディのお気に入りだったよね?ならやっぱり欲しいよね。」
アディの反応を確認する前にクアイスはレタに問いかける。
「エレベッタ君の好きな人は?」
「お兄ちゃんだよ?」
レタがそう言うとクアイスは頷きながらもう一度レタに問いかける。
「お兄ちゃんというのが誰か分からないから教えてくれるかい?誰がお兄ちゃんなんだい?」
「?。レタのお兄ちゃんはこの人だけど?」
レタはクアイスのところに歩いて行き、クアイスの手を取って話しかける。
「お兄ちゃんがレタのお兄ちゃんは誰って聞くの?あ、分かった!レタの愛を確かめたかったんだね?」
「え?えっ!?レタどうしたの!?」
エナがレタに問いかける。
「ん?何が?」
「どうしたんだよ!レタのお兄ちゃんはここに居るだろ!」
「あなた誰?自分に自信があるのかどうかは知らないけどあなたの裁量でレタのお兄ちゃんを語らないで欲しいな。」
意味が分からん!でも間違いなくクアイスがレタに何かしたのは分かる。そしてその鍵は意味深に光っているあの珠だろう。
「エナ!あの珠だ!」
「了解!」
エナはいつも通りの高速の踏み込みから拳を放つ。
が、ギリギリだったがクアイスの抜き放った剣の峰でその拳は受け止められた。
エナは初撃を防がれて大きく跳びの退いた。
「おねぇちゃん何してるの?それはやり過ぎだよ?」
そう言ってエナとクアイスの間に入りエナの前に立ち塞がる。
「レタ退いて!」
「退かないよ?おねぇちゃんこそ下がって。」
エナはレタに手を上げるのは良しとはしないのだろう。そこから動くのを躊躇った。その隙をクアイスは見逃さなかった。
「エリアーナ君?きみの主は誰だい?」
「蔵の大英雄よ。」
「それじゃあ蔵の大英雄は誰かな?」
さっきのレタのときと同じような問いかけだ!理屈と条件はよく分からないが多分洗脳のような物だろう。エナまでレタと同じ状態になったら話にならない!
「エナ!耳を貸すな!」
「こっちにおいでエリアーナ君?」
エナはクアイスの言う通りに近づいて行く。
「さあ主の手に忠誠のキスをするんだ。」
クアイスは左手を前に差し出しエナに口付けする様に指示する。
エナはそっと近づいて行きその左手を取って、
思い切り左手を引きクアイスの体を引き寄せその勢いを殺さずに、クアイスの腹に膝蹴りを放った。
「があっッ!な、何故だ!主は私だろう!」
「はぁ!?何を言ってるんですか?私の主は蔵の大英雄です!クアイス様では無いですよ!」
「すでに誓約まで交わしていたのか!クソっ!直ぐにでもヴァルディ領に行って蔵の大英雄を始末しなければ!でないとエリアーナ君が私の言うことを聞かないじゃないか!」
蔵の大英雄はここに居ますよー!
「だが宝珠で時間を掛ければ誓約していても暗示にかかるはずだ!」
「ですからそんな時間は無いですよ?諦めて下さ…、」
言いかけてエナは崩れ落ちた。と同時に後ろから頭に衝撃が走る。手放しそうになる意識の中で左手に魔法陣の様な物を纏わせ、右手で剣を振り下ろした体制のアディが視界の端に映った。
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自分自身が本当に嫌になる。レタちゃん達を騙して、洗脳してレタちゃん達を手に入れて。どうしてこうなっちゃったのかなぁ?僕は普通にレタちゃん達と暮らしたかっただけなのに。
父様は長い間欲していたエナ姉さんをもう少しで自分の物に出来るとあって喜びに震えている。
「お兄ちゃん?どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ。私はいいからエレベッタ君はアディと一緒にいてあげなさい。」
「分かったよお兄ちゃん!」
レタちゃんがこっちに来て、気絶している兄さんを見て問いかける。
「この失礼な人どうするの?お兄ちゃんを語るなんて考えられないよね?」
「…そうだね。取り敢えずこの人を牢に入れて置かないと。」
父様はエナ姉さんを何処か別の部屋に運んで行ったようだ。
僕も兄さんを担ぎ上げ地下にある牢に連れて行こうとすると、
「アディくん。この人の懐に入っている物取りあげなくていいの?」
「今更宝物庫を取り上げなくても兄さんには何も出来ないだろうし問題ないよ。」
「?。聞こえないよ?」
僕の凄く小さな声で言った言葉はレタちゃんには届かなかったようだ。
「大丈夫だよ。」
さっき自分で話したことは建前だったと僕自身そう思ってる。本当は僕も無意識に兄さんに期待していたんだろう。その期待は僕の騎士様になって僕を救い出して欲しいという僕の願望の現れだったのかもしれない。
NTR展開は未遂でも嫌い!
でも書いちゃう!
だって盛り上がるから!