41.お姫様
俺は床の固さと冷たさで目が覚めた。周りを見渡すと無骨な石壁に鉄の格子に囲まれている。どうやら牢屋の中のようだ。
気絶させられる直前にエナもアディの放った魔法のような物で意識を奪われていたのは覚えている。
多分アディは俺達を騙してたんだと思う。エナと俺の意識を奪ったのも、そもそもこの家に連れてきたのもアディだ。
俺は牢屋、レタは操られ、アディは裏切り者で、クアイスはエナを洗脳しようとしてる。あれ?
「エナが危ない!」
エナが!俺の嫁が!オッサンに好きなようにされちまう!
「でも何も持ってない俺なんて何の力もな…、」
あっれぇー?宝物庫あるんだけど?しっかり懐に入ってるんだけど?
アディは俺が蔵の大英雄って知らない?そんな訳ない!アディの第一声は確か変態大英雄とか言ってたし、なんなら宝物庫の力で拘束してみせてるからその線は無いな。ならなんで?うーん。分からん。
さて宝物庫の中に脱獄に良い物は入っているかな?あのスコップも使えそうだけど音がでかいからなぁ。おっ!この鍵みたいなの使えるかな?
えっと、『彼女達のマスターキー〜俺の棒部分でどんな鍵穴もイチコロだぜ!〜』…このシリーズって誰が作ったんだろう?とんでもないアホなんだろうなぁ。
俺はマスターキーを鍵穴に差し込むと、鍵穴の中からカチャカチャと音を立てたと思ったら鍵が開いたようだった。
俺は牢屋を抜け出して先程の部屋を探した。道が分からないので色々な部屋に間違えて入り、そのたびにこの家の使用人達に取り押さえられそうになったのでアスパラさんに活躍してもらった。
そんなこともありながらも先程の部屋に到着した。部屋の扉を開けると、
「牢から出てきたんだね兄さん?」
「なんで出てこれたの?」
アディとレタが俺を待ち受けていた。
「俺達を嵌めたんだな?」
「…そう思ってもらって構わないよ。」
そっかぁ、やっぱりそうだよなぁ。
「エナはどこに居る?」
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兄さんの目がいつもの優しい目ではなく完全に自分の敵を見る目をしている。正直怖かった。
僕が最初に兄さんと戦ったときにも山賊達と戦っていたときでさえこんなに怖い目はしていなかった。
騙して、裏切って、兄さんの大事な人達を傷つけて、それは僕のことを嫌いにもなるよね。
「父様に絶対誰も奥の部屋に入れるなって言われているんだ。だからここは通せないよ。」
「へぇ。通さないって言う割には奥に居るって教えてくれるんだな。牢屋に入れる割には俺の宝物庫を取り上げなかったり、なぁ何がしたいんだお前?」
前戦ったときと違って今は兄さんが怖い。蔵の大英雄だからじゃないと思う。説明は出来ないけど別の理由だと思っている。
その様子を察知してかレタちゃんが僕の手を握る。
「大丈夫?アディくん?」
「うん。大丈夫だよレタちゃん。」
兄さんが懐から宝物庫を取り出して左手に握り戦闘態勢を取る。
「…レタ退いててくれないか?」
「お前なんかにアディくんは傷つけさせない!」
兄さんは大きくため息を吐いてから、
「こんなことレタに言いたくないんだけどなぁ…、」
「アディくん一緒にアイツを倒そう!」
「邪魔だ!退いてろレタ!」
レタちゃんはビクッとして小さくなる。僕はそんなレタちゃんを部屋の隅に連れて行き座らせる。
「僕は大丈夫だからここで見てて。」
「う、うん。」
僕はレタちゃんに大丈夫と言い聞かせてから兄さんの前に戻り剣を抜いた。
「前みたいに許して貰えると思うなよ?」
「兄さんこそ前みたいに手加減してもらえると思ってないよね?」
僕のその言葉を皮切りに兄さんは宝物庫の力で剣を数本自分の周りに浮かばせ、さらに鎖で僕の身体を拘束しようとする。
僕はその鎖を全て剣で受け流し左手で展開していた光の魔法を発動させ部屋を光で満たす。僕は目を閉じていたが兄さんはモロに光を目で浴びていた。
兄さんの視界を奪った!今のうちに勝負をつける!
だが、兄さんは自分の周りに浮かばせていた剣を乱雑に振り僕を寄せ付けない。そのうちに兄さんの目が見えるようになったのだろう鎖で反撃をしてくる。
「騎士様が目眩しか?戦い方が汚いなぁ。あ!今はシーフ様だっけか?」
僕は剣で鎖をいなしつつ左手で氷の礫を作り出し兄さんに飛ばすが、宝物庫から盾が出現し氷を全て防ぐ。そしてそのままその盾を僕に投げつけてきた。
え!?盾は投げる物じゃないよね!?
僕は剣で弾こうとするが盾が重過ぎて重さを受け流しきれずに剣を取りこぼしてしまう。
マズい!剣が!
僕は咄嗟に剣を拾おうと右手を伸ばすがその右手を鎖がからめ取った。そして兄さんはその鎖を天井に向けて飛ばし剣で鎖を固定した。僕は地面に足がつかないギリギリの位置で宙吊りにされる。
左手で炎の剣を作り出して鎖を焼き斬ろうとするが特別製なのか中々切れない。
僕は炎の剣を兄さんに投げつけるが宝物庫から新しい盾を取り出して投げつけた剣も防ぐ。そして残った四肢も鎖で拘束されそれぞれ固定される。
鎖で拘束されているところに魔力が集まらない!魔力を霧散させる特別製か!
兄さんは僕に近づいてきて剣を突きつける。
「何か言うことは?」
「ごめんなさいって言ったら許してくれる?」
「すまんな。さすがに限度がある。」
だよねぇ。僕は相当兄さんに嫌われることをしたししょうがないかなぁ。
「だ、ダメ!」
そう言って兄さんの前にレタちゃんが立ち塞がる。
「…レタ退いてろ。」
「お前がどんなに怖い人でもレタはアディくんを見捨てるなんてしない!お前がどっか行け!」
「はぁ。ごめんなレタ?後でなんでもしてやるから許してくれよ?」
兄さんはレタちゃんの身体を鎖で拘束してから床に優しく転がした。
「なぁ、なんで男として暮らしてるんだ?」
「父様と母様からの言いつけで…。」
「その喋り方は?たまにその喋り方じゃないときあるよな?」
「この話方じゃないと男に見られないって父様と母様が…。」
「…俺達を裏切ったのは?」
「父様からそう命令されたから…。」
兄さんは右手で頭を抱えた。
「お前さぁ、自分の意思とかはないのか?なんでかんでも父様ぁ母様ぁって他人任せもいい加減にしろよ?」
「…。」
兄さんのその言葉に僕は何も言い返せなかった。
「お前自身はどうしたいんだ!」
「ぼ、僕は」
「はっきりしろ!この意思がない人形め!何がしたいとか無いのか!」
「ぼ、僕だって意思はある!騎士じゃなくて騎士様に守ってもらうお姫様が羨ましかった!レタちゃんみたいなお姫様になりたかった!」
「お姫様になりたかったのか?でも父さんと母さんの言いつけはどうするんだ?守らなくて良いのか?」
「もう男じゃ無いからお前は要らないとか言われたく無いです!僕が要らないんだったら僕の好きにしたいって思ってます!僕だってお姫様になりたいんです!」
兄さんはいつもの優しい顔に戻り鎖の拘束を解いた。
「姫様を鎖で拘束しておくのはダメだよな?」
兄さんはずるいよ!こんなのまるで…、
「うぅ、兄さん!ごめんなさい!」
「泣きつくなって。」
兄さんは僕を引き剥がして頭に手を置いた。
「レタとここで待っててくれ。な?」
「は、はい!」
そう言って兄さんは奥の部屋に向かって行った。
今日はもう二回分投稿したので19時の投稿についてどうしようか悩んでます。
出せるボリュームまで書けたら投稿します。




