↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
蛇足という名の番外編
PR
210/210

来ちゃったオムカエ・リターンズ



 そこには、苦しいながらも充足に満ちた生活がある筈だった。

 何よりもこの身にとって重い宝といえる、温かな同胞たちが待っている筈だった。

 帰ってきた自分を、笑顔で迎えてくれる筈だったのに。


 だけどここには、何もない。

  

 家屋は残っている。

 耕し始めたばかりだった畑、切り開く準備を進めていた林の切り株。

 そういった、命の宿らないモノは全て残っているのに。

 肝心の、同胞達が。

 苦楽を共にしてきた、血を分けた仲間達だけがいない。


 みんな、姿を消してしまった。


 青年は、絶望に膝をつく。

 一縷の望みも否定されながら、それでもこの目で見るまでは受け入れられないと。

 信じられない思いを抱えて、一心不乱に可能な限りの速度でここまで戻ってきたのに。

 結果は、無残。

 わずかな期待も裏切られた。

 ただただ報告で聞いた通り、無人と化した村の跡がそこにあるだけ。

 住民は、1人もいない。


「そんな……」


 たった1人、王国との細かな交渉を詰める為。

 王城に代表者として招かれていた彼……ティタニス・ルタトゥーを除いて。


「お、おい兄ちゃん元気出せ……つっても無理かもしれねぇけど、あんま気落ちしすぎんなよ」


 『現場』を目撃していたという、男。

 王国から派遣されて常駐していた騎士が、心から案じて絶望する蜜色の青年の肩を叩く。

 非現実的な現象は、言葉で説明しても信じがたい。

 目撃者である騎士にとっても、未だ信じられない気持ちで満ちているのだから。


「一体、何が……何があったっていうんだ。ここで」

「……報告は、上げておいたはずだがな?」

「あんな要領を得ない報告で、納得なんて出来る訳がない。包み隠さず、お願いだから真実を教えてくれ」

「真実とは言っても……本当に、報告した通りなんだが」


 だがその報告は、荒唐無稽すぎて王城まで届けられる過程でマイルドに改変されていた。

 報告書を書き上げた時点で、騎士も文才を酷使して頭を悩ませながら書き上げた文書であったのに。

 こんな素っ頓狂な報告、王に読ませられるかと気を利かせた地方役人の仕業である。

 自分の言葉が状況を知らないものに曲げられ、伝聞風味の味付けが濃くなっていたことなど思いもせず。

 どうして自分の同胞が消えたのか……心の壊れそうな、心的ダメージを強く受けている青年に騎士は語り始める。

 報告通りと前置きしたせいで、逆にティタニス青年の覚悟は中途半端に足りていなかった。


「なんって説明したものかわからないんだが……見たまま言うぞ? あの日、俺達の頭上に……遠くのお空から、光る超巨大な物体が急速接近してきたんだ」

「ひかるちょうきょだい、ぶったい……」

「俺達は未確認飛行物体と、仮称している。まるで空を往く船のようだった……確かに乗り物ではあったのだろう。未確認飛行物体は寸分違わず村のちょうど真上で動きを止めてな……その大きさは、話に聞くシロナガスクジラよりも大きいんじゃないかと思うばかりだった」

「空飛ぶクジラ……?」

「アレは、飛ぶ鳥よりも早く彼方からやって来た……あの恐ろしい光景、今でも目を瞑れば眼裏に蘇るようだ」


 記憶を振り返っているのだろう。

 騎士は固く目を瞑り、俯いて何かを堪えるような仕草を見せる。


 その、頭上で。


 ごぅんごぅんごぅん。

 なんと表現したものか形容しづらい、ティタニスにとって今まで聞いたこともない質の音が響き渡る。

 ティタニスと騎士達が佇む、廃村の真ん中で。

 周囲に日光を遮るものなど無かったというのに、急に空がかげる。

 雲がさした訳ではない。

 

 頭上に、十八対の櫂のような物を左右に突き出した巨大な船が浮いていた。

 その造形は、確かに言われてみると鯨に似ているような気がする。


 頭上に見上げる光景が信じ難く、ティタニス青年はぽかんと口を開けて固まった。


「そう、丁度こんな風に異音を響かせて……なんてことだ。目を瞑れば音まで蘇ってくるようじゃないか」


 目を瞑って記憶を振り返っている騎士は、まだ気づいていない。

 現実に今、この場に響いている音すらも記憶の中のものだと錯覚しているのだろう。

 熱の籠った口調で、彼は目の前の現実ではなく眼裏の過去を見ていた。


「真上の空でぴたりと動きを止めた未確認飛行物体から、光の柱が降ってきたんだ」


 そう言う騎士の隣に、頭上の船から光の柱が突き刺さった。

 隣となり、騎士さんとなりー!

 全く気付いていない騎士に、ティタニス青年は、はくはくと口をただ開け閉めしていた。

 目を開けてー! そう叫びたいのに、声が喉に張り付いて言葉にならない。


「そうして俺達は、光の中に『奴』を見たんだ……銀色に輝く、『怪人』。まるで昆虫と人とを融合させたかのような、異形の『怪人』を……!」


 そう言う、騎士の隣に差した光の柱から。

 ふぃぃぃ……ん、と音を伴って船から『ナニか』が下降してくる。

 人にも似た、そのシルエット。

 たった今ご紹介にあずかった、『怪人』さん(×3)だった。

 彼らは騎士の隣を素通りし、腰も抜かさんばかりで息も絶え絶えなティタニスを取り囲む!

 僅かな隙すら与えない、完璧なかごめかごめだ!

 三方向からティタニスを覗き込み、昆虫めいた異形の『怪人』達は片手をあげる。

 まるで挨拶をするように、フランクに。


『ハロー』(※バス)

『ハロー』(※バリトン)

『ハロー』(※テノール)

『『『ハロー』』』(※男性三部合唱)


 まるで、ではなく挨拶そのものだった。

 しゅこーしゅこーと異音を交えながら、くぐもった声がそれぞれの『怪人』から発せられる。

 とうとう恐怖と緊張で腰を抜かしてしまったティタニスは、ぷるぷるとチワワのように震えている。

 怯えられていることに気付いているのか、いないのか。

 『怪人』達は躊躇いなくそれぞれに手を伸ばしてきた。ティタニスに。

 左右に展開した『怪人』の2人が、ティタニスの腕をそれぞれ掴み上げる。

 力の入らない青年の体が、一気に持ち上げられた。


「な、なにを……やめ、触らないで! 俺をどうする気なんだっ」

『オー、安心ネー。心配ナイナイヨー』

『ダイジョブ、ダイジョブヨー。ワタシ、アナタ、イッショ』

『コワイ、ナイネー。イイトコ、イイトコイクヨー』

『ミンナイッショ、ミンナイッショネー』

「な、なにが安心で大丈夫なのか丸ごとさっぱりわからない……! だ、だから離して!?」


 『怪人』の2人がティタニスの腕を、1人が足を抱え上げる形でティタニスの体が宙に浮く。

 安心させようという意図なのか、『怪人』達はしきりとティタニスに声をかけた。

 しかし得体のしれない異音交じりのくぐもった声で、発音は片言だ。文法や単語も怪しい。

 ティタニスの心情は、安心とは程遠いところにあった。

 『怪人』側の事情としては、彼らは『前回』の反省を踏まえて自らの改善点を直してきたつもりだった。

 何しろ『前回』は、言葉が通じなかったことで無用の不安と恐怖を与えてしまったのだから。

 だから再度の『お迎え』にあたり、安心感を少しでもプレゼントしようと急遽現代語のレクチャーを受けてきたのだ。古代の言葉とは何から何まで違う今の言葉を。

 エルレイク家の三兄妹に教えてもらい、最低限の意思疎通が可能なレベルで言語を習得していた。後は会話の数を重ねて発音や文法の経験を積むしかないと太鼓判も押されている。

 たった1日で最低限の日常会話をマスターしたのだから、やはり『怪人』さん達の知能は素晴らしい性能を誇っているのだろう。

 ただし会話の数をこなしていない現状、彼らの操る『現代語』は怪しいこと極まりない不審な片言会話と化していたが。

 まだ使い慣れない現代語を駆使して、お迎えの『怪人』さん達はティタニスに懸命に語り掛ける。


『ワタシ、アナタ、イッショネー』

「なにが!?」

『イッショ、イッショ!』

「だから、なにが!?」

『イイトコイクヨー。クルシイ、コワイ、ミンナサヨナラ! トッテモイイトコ!』

「それは冥途の向こう的な!?」


 だけど悲しいかな、語り掛ければ語り掛けるほど、ティタニスの反応は硬質化していった。

 そしてティタニスの悲痛な声を聴きながら、『あの日』の贄の民達もこうだったと目を瞑ったまま回想にふける騎士。彼はまだ、目を開けない。

 いい加減気付いてあげて、騎士さん!

 ティタニス青年が可哀想なことになっているから!

 

 神輿のごとくわっしょいわっしょいと担がれたティタニス青年が、光の柱に引きずり込まれる。

 このまま、連れていかれる。

 どこともしれない、空の果てに。

 一連の流れからそうと察し、ティタニス青年が変な息を呑みこむ。

 喉が、ぎゅっと絞り込まれた。

 力の抜けていた四肢に感覚が戻り、必死にもがき始める。

 だけど全てはもう遅い。

 彼の体は、異常に力の強い『怪人(×3)』によって抑え込まれているのだから。←防護スーツの出力

 もう彼には、信仰の対象に縋るしか道は残されていなかった。


「た、助けて、ご先祖様ぁー!!」


 そして贄の民の信仰の対象=ご先祖様である。

 そして贄の民のご先祖様=栄えの民である。

 ティタニスを担いだ『怪人(×3)』が、朗らかに告げた。


『ワタシ、ゴ先祖サマネー』

『ワタシモ、ゴ先祖サマネー』

『ワタシダッテ、ゴ先祖サマヨー』

「ぜ、絶対違うぅぅううううううううううう!!」


 ティタニス・ルタトゥー、彼はまだ知らない。

 彼の右腕を掴む『怪人』の名は、セリオハクトゥ・ルタトゥー。

 彼の左腕を掴む『怪人』の名は、アルバレクト・ルタトゥー。

 彼の両足を掴む『怪人』の名は、シルキセン・ルタトゥー。

 お迎えに行く相手が『ルタトゥー』の姓を継ぐ青年だと知り、自ら使者に名乗りを上げた……正真正銘、ティタニス青年にとっては直系の『ご先祖様』だということを。


 騎士がティタニス青年の連行に気付いた時には、既に空飛ぶ船は悠然と彼方へ向けて上空を滑るように移動し始めた後で。

 贄の民、最後の1人と目されたティタニス青年。

 最後の1人まで見逃すことなく連れ去った謎の『ナニか』に対し、王国はしばらく騒然とすることになる。

 頭を痛めた王国上層部の方々には、優しくご愁傷様ですと言って差し上げたい。


 

 そうして拉致られたティタニス青年は。

 異形の空飛ぶ船の中、先客……遠くを眺める死んだ魚のような眼差しの『ヴィヴィアン』に出会ったことでようやっと平静を取り戻すことになる。

 『怪人』達の正体は、この時点でヴィヴィアンも知らない。

 だが彼らの向かう先に、エルレイク家の御兄妹がいることを彼女は知っていた。

 まだまだ贄の民が連れ去られた事情は、不明だが。

 その『事情』の一端にエルレイク家が絡んでいることを知り、ティタニス青年は膝から床に崩れ落ちるのだった。



前回、アンリが言っていた『ミレーゼ様の手紙に書かれていたお迎え』がコレという。

ティタニス青年を回収するついでに、アンリも回収した模様。

しかし『怪人』側が片言なので意思の疎通に難が生じ、未だに事情は把握しきれていない様子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読み終わりました。面白かったです。 読んでいる途中でミレーゼの傍若無人さに微妙な不快感を覚えなくもありませんでしたが 最後にはさらなる理不尽キャラであるお兄様に振り回される愛され系苦労人キャ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。