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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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085 聖域倉庫の最初の配分

 聖域倉庫の前に、即席の公開板がもう一枚立った。


 地下の石門前だというのに、やっていることは白霧港と同じだ。

 足りない場所を書く。

 戻せる線を書く。

 今日崩れる順から、先に出す。


 最初に決まったのは、北門外療養所への粥材包と乾燥薬草。

 次に、外倉街の留め具箱。

 三番目に、南街道仮宿へ回す燃料塊。


 王領側の官は不満を飲み込んだまま、出庫控えへ署名した。

 彼が欲しかったのは棚そのものの管理権だ。

 けれど今ここで拒めば、王都を飢えさせる側へ戻るだけになる。


 箱が順に運び出されるたび、棚札の空欄へ次の条件が現れる。

 聖域倉庫は、出した分だけ「次はどこへ返すか」を問い直してくる。

 ただ取り出すだけでは終わらない。

 まるで倉そのものが、先送りを嫌っているみたいだった。


「この倉を誰が持つかで揉めるのは、もう無理ですね」

 わたしが言うと、監察局の上席官は乾いた笑いを漏らした。

「持つ、では済まん。管理規則から作り直しだ」


 王領側の官が顔を上げる。

「王城内だけでは収まらない、と?」


「収めた途端、また前段だけ使われる」

 わたしは開いた棚の奥を見る。

「聖域倉庫は王都の内倉じゃない。白霧港も、北門外も、南街道も、同じ板へ載せるための中枢です」


 カイル様が腕を組んだ。

「なら次は会議だな。倉を開いたあと、閉じた部屋で取り合えば意味がない」


 その言葉を待っていたように、上席官が書記へ命じる。

「王都監察局、王領保全部、北辺代表、診療所立会、各外倉責任者。聖域倉庫運用の暫定会議を招集する」


 セシリアがその文言を、今度は迷わず記録紙へ写した。

 家の中だけで消えていた言葉が、ようやく人に見える場所へ残る。


 地上へ戻る階段の手前で、零番灯がもう一度強く光った。

 赤線は聖域倉庫から王城内ではなく、王都の外へ、そして北のほうへ伸びていく。


 第零配分盤と聖域倉庫。

 点だったものが、やっと線になった。


 倉は開いた。

 でも本当に難しいのは、ここからだ。

 誰のものにもさせないまま、国の仕組みに変える。


 わたしは地下の冷気をひとつ吸い込み、板を抱え直した。

 次に戦う場所は、扉の前ではなく会議の席になる。

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