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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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084 王領印では奪えない棚

 開いた棚の最前列には、王都がいま一番欲しがるものばかり並んでいた。


 乾燥麦の密封箱。

 長期保温の燃料塊。

 療養用の粥材包。

 外倉修復の留め具箱。


 王領側の官が、息を整えるより先に護衛へ顎をしゃくる。

「第一列を王城内倉へ移す。中枢保全のためだ」


「待ってください」

 わたしは棚札の前へ回り込んだ。

「先出先も戻し先もまだ入っていません」


「だからこそ保全する」

 男は苛立ちを隠さない。

「公開の場で揉めている間に、倉が荒らされては困る」


 護衛が箱へ手を伸ばした、その時だった。

 棚札の縁に白い膜が張る。

 保存魔法とも結界とも違う、乾いた拒絶の光。

 箱は一寸たりとも動かなかった。


 零番灯の赤線が棚の脚を走り、上の札差しに文字を浮かべる。


『公開先未記入』

『持出不可』


 監察局の書記が思わず声を上げる。

「倉そのものが止めた……」


「当然です」

 わたしは胸の前で息を整えた。

「開く条件に公開板を要求した倉が、出す条件だけ曖昧なまま許すはずがありません」


 男は今度こそあからさまに顔を歪める。

「では王都が飢えても、ここで議論を続けろと?」


「議論ではなく、記入です」

 カイル様が前へ出た。

「誰に、どれだけ、何の責任で出すか。それを書けば運べる」


 王領側の官は、ようやく倉の相手が人ではないと理解した顔をした。

 ここは声の大きい側へ渡す棚ではない。

 公開の条件が揃わない限り、王領印でも動かない。


 セシリアが書記机から一枚、控え札を差し出した。

「北門外療養所ぶん、今朝の公開板にあります」


 震えは残っている。

 けれど、今度の手は閉じた箱ではなく、公開札を渡していた。


 わたしはその札を棚差しへ入れる。

『先出先 北門外療養所』

『開示先 北門外公開板』

『責任 監察局・北辺立会共同』


 すると白い膜がほどけ、箱の取っ手が静かに手へ馴染んだ。


「……なるほど」

 監察局の上席官が低く言う。

「争っている場合ではない。先に書いた側だけが運べる倉だ」


 それは同時に、遅れてきた権力ほど不利になるということでもあった。

 聖域倉庫の争奪は、もう剣や印章ではなく、公開板の前で始まっている。

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