表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/100

086 閉じた会議にしない席

 再編会議の部屋は、王城南の古い会議室だった。


 長机は立派なのに、置かれているものは何もない。

 議題も、出席者も、異議の置き場もない。

 このまま座れば、また見えないところで決まってしまう。

 重い緋布の幕、乾きすぎた香、磨かれた木の肘掛け。

 伯爵家で、わたしの行き先が勝手に決められた部屋と、息苦しさがよく似ていた。


「議事は王城内の扱いになります。傍人は外で」

 王領側の官が言い、扉を閉めさせようとした。


「なら、先に板をください」

 わたしは椅子へ座らずに言う。


「板?」

「議題板と出席板です。聖域倉庫の運用を決めるなら、不足地と返し先を書く倉を、閉じた部屋だけで決めるわけにはいきません」


 監察局の上席官が、わずかに目を細めた。

「何を書くつもりだ」


「本日の議題。出席者。持ち帰り保留。異議の提出先」

 わたしは机の端を指で叩く。

「せめてそれくらいは、扉の外へ出してください」


「異議まで受けるのか」

 別の王領書記が顔をしかめた。


「ええ」

 わたしは頷く。

「北門外療養所に粥材包が足りないのに、この部屋で留め具箱の話ばかり決めたら、聖域倉庫はまた王都の都合だけを先に読む倉になります」


 王領側の官が眉をひそめる。

「公開しすぎれば、会議にならん」


「公開しないから、ここまで来たんです」

 わたしは答えた。

「停止札も返却先原簿も、閉じた部屋で畳んだから、外倉も北門外も痩せた」


 少しの沈黙のあと、カイル様が短く言う。

「北辺はリーゼの案に異議なし」


 上席官も頷いた。

「監察局も同じだ。まず板を立てろ」


 机の後ろで迷っていた書記たちが動き出す。

 扉の外へ細長い板が運ばれ、白い紙が張られていく。


『聖域倉庫暫定会議』

『議題 仮運用規則/立会責任/記録写し先』

『出席 王都監察局/王領保全部/北辺代表/北門外療養所立会/外倉街立会/南街道仮宿立会』

『異議控え提出先 監察局書記卓』


 その筆記を、セシリアが書記と並んで静かに写していた。

 家の中でだけ消えていた紙を、今度は人の目へ返すみたいに。

 まだ少しだけ手は震えている。

 それでも字は崩れない。


 扉は閉まらなかった。

 廊下の向こうに、北門外療養所の女官と、外倉街の留め具番、南街道仮宿の責任者が待っているのが見える。


 やがて最初の紙片が異議控え箱へ落ちた。

 監察局の若い書記がそれを開き、外の板へ貼る。


『療養所粥材包 返却不能分の扱い先決希望』


 もう会議は、この部屋の中だけのものではない。

 廊下の寒気と人の切実さが、机の上へ入ってきている。


 会議室の中へ戻り、ようやく席に着く。

 空だった机の向こうで、王領側の官が苦い顔をした。


「ずいぶん面倒な始め方だ」


「ええ」

 わたしは頷く。

「でも、倉を開けるより先に、会議を閉じない形にしないと」


 聖域倉庫は、誰かのものにしてはいけない。

 なら、その扱いを決める席も、最初から誰かの部屋にしてはいけなかった。

 あの日わたしを追い出した部屋と、同じ形へ戻さないために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ