086 閉じた会議にしない席
再編会議の部屋は、王城南の古い会議室だった。
長机は立派なのに、置かれているものは何もない。
議題も、出席者も、異議の置き場もない。
このまま座れば、また見えないところで決まってしまう。
重い緋布の幕、乾きすぎた香、磨かれた木の肘掛け。
伯爵家で、わたしの行き先が勝手に決められた部屋と、息苦しさがよく似ていた。
「議事は王城内の扱いになります。傍人は外で」
王領側の官が言い、扉を閉めさせようとした。
「なら、先に板をください」
わたしは椅子へ座らずに言う。
「板?」
「議題板と出席板です。聖域倉庫の運用を決めるなら、不足地と返し先を書く倉を、閉じた部屋だけで決めるわけにはいきません」
監察局の上席官が、わずかに目を細めた。
「何を書くつもりだ」
「本日の議題。出席者。持ち帰り保留。異議の提出先」
わたしは机の端を指で叩く。
「せめてそれくらいは、扉の外へ出してください」
「異議まで受けるのか」
別の王領書記が顔をしかめた。
「ええ」
わたしは頷く。
「北門外療養所に粥材包が足りないのに、この部屋で留め具箱の話ばかり決めたら、聖域倉庫はまた王都の都合だけを先に読む倉になります」
王領側の官が眉をひそめる。
「公開しすぎれば、会議にならん」
「公開しないから、ここまで来たんです」
わたしは答えた。
「停止札も返却先原簿も、閉じた部屋で畳んだから、外倉も北門外も痩せた」
少しの沈黙のあと、カイル様が短く言う。
「北辺はリーゼの案に異議なし」
上席官も頷いた。
「監察局も同じだ。まず板を立てろ」
机の後ろで迷っていた書記たちが動き出す。
扉の外へ細長い板が運ばれ、白い紙が張られていく。
『聖域倉庫暫定会議』
『議題 仮運用規則/立会責任/記録写し先』
『出席 王都監察局/王領保全部/北辺代表/北門外療養所立会/外倉街立会/南街道仮宿立会』
『異議控え提出先 監察局書記卓』
その筆記を、セシリアが書記と並んで静かに写していた。
家の中でだけ消えていた紙を、今度は人の目へ返すみたいに。
まだ少しだけ手は震えている。
それでも字は崩れない。
扉は閉まらなかった。
廊下の向こうに、北門外療養所の女官と、外倉街の留め具番、南街道仮宿の責任者が待っているのが見える。
やがて最初の紙片が異議控え箱へ落ちた。
監察局の若い書記がそれを開き、外の板へ貼る。
『療養所粥材包 返却不能分の扱い先決希望』
もう会議は、この部屋の中だけのものではない。
廊下の寒気と人の切実さが、机の上へ入ってきている。
会議室の中へ戻り、ようやく席に着く。
空だった机の向こうで、王領側の官が苦い顔をした。
「ずいぶん面倒な始め方だ」
「ええ」
わたしは頷く。
「でも、倉を開けるより先に、会議を閉じない形にしないと」
聖域倉庫は、誰かのものにしてはいけない。
なら、その扱いを決める席も、最初から誰かの部屋にしてはいけなかった。
あの日わたしを追い出した部屋と、同じ形へ戻さないために。




