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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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081 三つ目の立会印

 王城南の古い祈祷区画は、朝なのに息を潜めたままだった。


 昨日まで家名を裁く板が立っていたのに、今日はその板ごと地下へ持ち込む。

 公開配分板。監察局立会印。北辺立会印。王領立会印。

 控え紙にあった条件を、机の上ではなく石段の入口へ並べるためだ。


「王領保全部からも立会を出す」

 監察局の上席官が言った。

「条件文の『立会三者』を欠かすわけにはいかない」


 その言葉に合わせるように、濃紺の外套を着た王領側の官が一歩出る。

 王城内倉の整理役だという。

 低く頭を下げたけれど、目は最初から階下のほうだけ見ていた。


「聖域倉庫は王領の非常備えでもあります」

 男は言う。

「開いた後の管理は、当然こちらで引き受けましょう」


「開いてから決める話ではありません」

 わたしは控え紙を折り直した。

「開ける条件に、公開配分板が先に入っています」


 つまり、最初に決まるのは持ち主ではなく、見える場所で何を渡すかだ。


 カイル様がわたしの隣で短く告げる。

「北辺は立会印を出す。だが閉じた管理へ戻す席にはつかん」


 男の口元がわずかに固くなる。

 聖域倉庫を開く前から、もう争っているのは扉ではない。

 開いたあと、誰の箱に戻すかだ。


 石段の前へ、公開配分板の写しを立てる。

 北門外の不足、外倉街の補充、診療用乾燥薬草、返却不能分の線引き。

 白霧港で立ててきた板と同じように、今日困っている順をそのまま書く。


 セシリアが書記の机で、控え写しを押さえていた。

 灰青の袖口が少し揺れる。

 伯爵家の奥で箱を閉じていた手が、今日は公開の記録紙を押さえる側にある。


「……書き終わりました」

 彼女が小さく言う。


 その瞬間、零番灯の赤線が石段の縁を走った。

 失われた保管都市から持ち帰ったあの線が、祈祷区画の床目地へぴたりと重なる。


「繋がった」

 わたしは息を呑む。


 王都の地下も、白霧港の先で見た都市の線と同じ設計だ。

 なら、聖域倉庫は王城の奥に隠された宝物庫ではない。

 王国の不足を、最後に束ねるための席だ。


 監察局の上席官が杖で床を打つ。

「三者立会、公開板掲示、非常線確認。開扉手順を開始する」


 争うべき相手も、守るべき条件も、もう十分に見えていた。

 わたしたちは板を先頭にして、王城南の地下へ降りた。

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