079 家名を降ろす日
裁きは、怒鳴り声より静かに下った。
外倉広場へ、停止札、青紙箱、返却先原簿、外倉の鍵控えが順に並ぶ。
ひとつだけなら言い逃れられたかもしれない。
でも、止めた札、準備した紙、隠した原簿、痩せた現場が同じ向きに並べば、もう家名では押し切れない。
「すべて非常時の預かりだ」
父はなお言った。
「伯爵家が背負わなければ、都の秩序は保てなかった」
「保ったのは秩序ではなく、家の裁量です」
わたしは板の列を指す。
「返却先を消し、代替路を消し、担当を置かず、都の外へ飢えを押しつけた」
監察局の上席官が宣告文を読む。
「ラウル・ハルフェン。穀倉整理および外倉前置に関する越権、停止札の不正発行、返却先原簿の秘匿を認定。ハルフェン伯爵家の穀倉管理権限を剥奪し、関連帳簿と保管印を押収する」
広場にいた人々が、声もなく息を吐いた。
長く立っていた家名が、ようやく板から外される音だった。
「後任は」
局の書記が問う。
その視線が一瞬、セシリアへ向く。
伯爵家を残すなら、そういう形もあるのだろう。
けれどセシリアは、首を横に振った。
「わたしは、家の代わりに判を押しません」
青紙箱の上へ指を置く。
「お腹を空かせた人の上で残る家名なら、もう要りません」
父の顔が歪む。
怒る力より先に、支えていた形が崩れた顔だった。
カイル様が短く言う。
「北辺はハルフェン家の後援を受けない。必要なのは公開配分の席だけだ」
それで十分だった。
家を取り戻したいとは、もう思わない。
必要なのは、家名を穀倉の席から降ろすことだ。
父が役人に連れられていくあいだ、零番灯の赤線だけは消えなかった。
板から外れた先。
王城南の地下で、次の扉がまだ閉じたまま待っている。




