077 青紙箱を開く妹
青紙箱は、伯爵家の応接間で見たものと同じ箱だった。
婚約状の別紙も、宴の後援覚書も、あの色の紙から出てきた。
今、セシリアはそれを両腕で抱えたまま、広場の中央へ進み出る。
「お父さまが、非常時は白紙を先に回せばいいと」
声は震えていたけれど、引き返しはしなかった。
「あとから印と行き先を足せば、家の裁量で整えられるって……わたし、乾き印の位置合わせを手伝いました」
箱の中には、書きかけの停止札が束になっていた。
代替路停止。照合保留。返却先は空欄。
さらに底から、印見本と手順紙まで出てくる。
『先に止める』
『落ち着いてから戻し先を決める』
『家印を先に使う』
父が鋭く言う。
「子どもの書き散らしだ」
「子どもに乾き印を触らせたのは、誰ですか」
わたしが問うと、父は黙った。
監察局の書記たちは、箱の中身を次々写していく。
偶発の混乱ではない。
白紙の停止が、準備された運用だったと、もう紙の量が語っていた。
セシリアは箱の最後の一枚を差し出した。
薄い控え紙で、応接間ではなく母の旧部屋から見つけたものだという。
『返却先原簿 祈祷室奥棚』
返却先。
昨日まで、どの札からも消えていた欄だ。
「どうして今まで」
思わず訊くと、セシリアは唇を噛んだ。
「家のためって言われると、わたし、何が消えてるか見ないふりをしてしまったから」
その言葉は言い訳ではなく、ようやく自分で払う分の痛みだった。
監察局の上席官が即座に命じる。
「祈祷室奥棚を押さえる。原簿が残っているなら、今日中に開く」
父の顔から、色だけがすっと消えた。
初めて、広場ではなく伯爵家の奥の扉を気にする顔だった。




