076 非常照合の朝板
王都非常配分照合の板は、北門内手前の外倉広場へ立った。
停止札。返却先。発行印。白紙欄。
監察局の書記がそれを一列ずつ書き出していくたび、昨日まで机の底に潜っていた責任が、人の目の高さへ上がってくる。
「公開でする必要があるのか」
父が低く言った。
「倉場町も門外も、まだ混乱中だぞ」
「だからです」
わたしは板の端を押さえる。
「閉じた場所で畳んだから、ここまで広がったんです」
最初の札が並ぶ。
『代替路停止』
『返却先未記入』
『照合保留』
零番灯を近づけると、白く抜けた欄の下から薄い筆跡が浮いた。
北門外搬出一時停止。臨時穀倉整理。どれも、止める理由より先に、止めっぱなしにする形だけが整っている。
「非常時の仮札だ」
父は言う。
「都が混乱していたのなら、白紙を先に回すこともある」
「仮札なら、あとから埋める欄があるはずです」
わたしは板へ新しい線を引いた。
「待機日数。代替路。返却先。担当名。消えているのは、全部『次へ渡すための欄』です」
倉場町の荷車番が手を挙げる。
「うちの荷にも同じ札が掛かってました。待てとだけ書いてあって、どこへ戻すかはなかった」
北門外の炊き出し番も続いた。
「外倉の鍵番も、返し先が空だから判を押せないって」
止まっていたのは、一枚の札ではない。
誰も次を書けない形そのものだ。
監察局の上席官が、次の列を指した。
「発行印を読む」
ハルフェン家。
局内穀倉整理係。
王都外倉照合役。
家名が、役所名と同じ列へ並ぶ。
父の眉が初めて動いた。
その時、広場の後ろから細い声が落ちた。
「その白紙、伯爵家で先に束ねていました」
振り返る。
セシリアが、小さな青紙箱を抱えて立っていた。




