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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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075 王都を囲う見えない柵

 北門外の夜は、前日より少しだけ静かだった。


 粥鍋の列は三本に分かれ、診療優先の青布も、明朝待機の灰札も、もう押し潰されずに見える。

 足りない現実は変わらない。

 けれど、どこで待てて、どこが今日崩れるかが見えるだけで、広場の息は持ち直す。


 監察局の役人が、外倉から集めた停止札と帳面を机へ並べた。

 代替路停止。返却先未記入。照合保留。

 そして、その起点に近い位置で繰り返し出てくるのが、ハルフェン家の穀倉印だった。


「都は兵に囲まれたわけではない」

 わたしは札を一枚ずつ押さえた。

「札で囲われていたんです。代わりの道を消し、返し先を白くし、誰も判を押せない形へした」


 役人は黙って頷く。

 門外の広場を見てきたあとでは、もう机の言い訳はできない顔だった。


 カイル様が言う。

「北辺の備えを食わせるための包囲ではない。順番を崩して、都も辺境も同時に痩せさせる包囲だ」


 零番灯を帳面の横へ置く。

 北門外の赤は、まだ消えない。

 でも先ほどより一段薄い。

 代わりに、王都の中心寄りへ細い赤が伸びていた。

 止め札を出した側へ、線が戻っていく。


 監察局の役人が深く息を吸う。

「非常照合を立てる。停止札の発行者、穀倉整理の署名者、全部だ」

「ラウル・ハルフェンも?」

「外せん」


 父の名が、逃げ道のない形で机へ載る。

 胸は冷えたままだったが、不思議と足は震えなかった。

 これはもう、家の中の言い分では済まない。

 王都北門外の飢えと、閉じた外倉と、白い停止札が揃ってしまった。


 役人は新しい召喚状を書き始める。

 署名欄の上に、短くこう記した。


『王都非常配分照合』


 零番灯の光が、紙の端を細く照らした。

 王都を囲う見えない柵は、やっと名前を持つ。

 次にほどくべきなのは、道ではない。

 その柵を立てた家名のほうだった。

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