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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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074 閉じたままの外倉

 北門内手前の外倉街は、静かすぎた。


 門外の広場ではあれだけ人が飢えているのに、石造りの倉列は扉を閉ざしたまま雪をかぶっている。

 封ではない。略奪の跡でもない。

 ただ、開ける理由だけが消された倉の顔だった。


 監察局の役人が、古びた停止札を一枚持ってくる。


『代替路停止』

『返却先未記入』

『照合保留』


 また空の言葉だ。

 倉を守るための札ではなく、誰も動かさないための札になっている。


「中は」

 わたしが訊くと、役人は苦い顔で答えた。

「麦も豆もある。だが返し先が白紙だと、担当役人が判を押せん」


 門外で飢えているのに、門内で積まれたまま。

 兵に囲まれた包囲じゃない。

 帳面に囲まれた包囲だ。


 わたしは停止札の面へ保存魔法を流し、消えかけた下書きを拾った。

 浮かんできた細字に、息が止まる。


『臨時穀倉整理』

『北門外搬出 一時停止』


 その下に押されていた家印は、見間違えようがなかった。

 ハルフェン家の穀倉印。


「……まだ残っていたんですね」


 カイル様の視線が札へ落ちる。

「家名が止め札になっていたか」


 吐き気に似た冷えが腹の底を撫でた。

 父がここまで読んでいたのかは分からない。

 けれど、白紙の責任と停止札だけが残れば、人は荷の前で立ち尽くす。

 それをわたしは知っている。


「札は残します。剥がさず、写しを取ってから開ける」

 わたしは監察局の役人へ向き直った。

「返却先が空なら、後日精算の緊急欄を作ってください。担当名は、いまここで決めます」


 板へ新しい欄を足す。


『緊急搬出』

『後日精算』

『担当名』


 役人が震える手で名を書く。

 カイル様が立会印を置く。

 寺院炊き出しの鍋番、北門外の兵站係、外倉の鍵番。責任が戻ったところから、倉はやっと倉に戻る。


 重い扉が開く。

 中には、まだ食べられる麦袋が積まれていた。


 王都を囲っていたのは、城壁の外の敵じゃない。

 この扉を閉じたままにする札のほうだった。

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