073 北門外の順番札
王都北門外の配給列は、川ではなく割れた氷みたいだった。
門前の広場に人が溜まり、押し合い、怒鳴り、戻され、また前へにじり寄る。
鍋を抱えた女。空の袋を握った老人。顔色の悪い子どもを背負う男。
列という形だけが残っていて、中身の順番はもう崩れていた。
「先に降ろせ!」
「うちの区画は昨日から何も来てない!」
荷橇が見えた途端に声が尖る。
けれど、ここで袋を開けば奪い合いになるだけだ。
「板を立てます!」
わたしは兵たちへ叫んだ。
「三列分、急いで!」
粗い板が立つ。
わたしはすぐに札を書いた。
『本日配分』
『診療優先』
『明朝待機』
ニナが青布を裂いて、熱のある子、咳の強い者、立っていられない者の腕へ結ぶ。
カイル様は兵を並べ、列を三本へ分けた。
「王都が辺境の板に従えってのか!」
誰かが吐き捨てる。
「飢えは都も辺境も選びません」
わたしは板へ本日の数を書き込んだ。
「粥材六十、押し麦四十、干し鱈二十五。隠しません。今日出る分を、今日ここで見せます」
数字が見えると、罵声がひとつ止まる。
足りないこと自体は変わらない。
でも、どこまでが今日で、どこからが明日かが分かると、人は少しだけ踏みとどまれる。
零番灯を板の端へ置く。
北門外の線が、赤のままでもわずかに整う。
診療優先の列だけ、先に光が薄まった。
「粥は冷まさないで」
ニナが鍋番へ言う。
「飲み込める人から先。干し鱈は砕いて混ぜて」
最初の椀が渡る。
それだけで広場の空気が少し変わった。
奪うための手ではなく、待つための視線が前を向く。
夕方、灰外套の役人が兵に連れられてきた。
王都監察局の印札を下げている。
「北門外だけ動かしても足りん」
息を切らしながら、役人は言った。
「門内手前の外倉が全部閉じたままだ。停止札が残っていて、誰も開けられない」
足りないのではなく、届く手前で塞がれている。
わたしは零番灯の線を見た。
赤が濃いのは門だけじゃない。そのすぐ裏にも、見えない詰まりがある。




