↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/100

066 零番坂へ出る荷橇

 失われた保管都市を探ると決めた翌朝も、白霧港の広域備え板はいつも通り人で埋まっていた。


 南三番畑の戻り札。王都近郊の診療院から来た青い書付。海側支庫経由で届いた乾燥棚の返却予定。

 昨日までと違うのは、板の横へもう一枚、小さな写し板を立てたことだ。


「探索隊はこれを持っていきます」

 わたしは薄板へ線を引きながら言う。

「食糧、播種、療養、返却計画。今ここの板へ掛かっている順番を、そのまま向こうへ持っていく」


 ニコがすぐに覗き込んだ。

「昔の門を開ける鍵にするってこと?」

「たぶん。第零配分盤は、物の山を見る場所じゃない。どこがどれだけ足りなくて、誰がどう戻せるかを束ねる場所だったはずだから」


 カイル様が頷く。

「探索は小人数だ。白霧港の配分を止めるな」

「はい」

 その返事に、自分でも少しだけ安堵した。


 宝探しみたいに全員で雪山へ向かうわけにはいかない。

 白霧港はもう、発見のために現場を空けていい港ではないのだ。


 残るのはニナと台所番、それから当番の兵たち。わたし、カイル様、ヨナスさん、ニコの四人で零番坂へ向かう。

 探索隊が持つ荷も最小限にした。


 保存穀の包み三つ。

 乾燥魚。

 温茶葉。

 紙板と写し板。

 戻り札の控え。

 そして、昨夜まで広域備え板へ掛かっていた灰札の束。


「灰札まで持っていくんですか」

 出発前、ニナが不思議そうに首をかしげた。


「まだ相談が届いていない土地の分です」

 わたしは束を布で巻き直す。

「でも、帯の途中にある。古い配分盤が本当に広域を見るものなら、来ていない不足も勘定へ入れるはずです」


 ニナは少し黙ってから、温茶葉の包みを荷へ差し込んだ。

「ならこれも。門が開いても、誰かの台所の先で開くんだって忘れないように」


 その言い方が、妙に胸へ残った。

 古い都市を見に行くのに、考えているのは結局いまの食卓なのだ。


 昼前、わたしたちは北の崩落路へ出た。

 零番坂なんて名を、今の地図はもう持っていない。

 けれど昨夜ニコが聞き集めた古老たちの話では、昔は「風が坂の下から鳴る道」と呼ばれていたらしい。


「荷橇は軽く引け」

 ヨナスさんが古い杭を足で払う。

「ここは重い荷だと滑る。昔も束ねた荷は坂の上でいったん分けたはずだ」


 確かに、雪の下から出てきた石列は、ただの山道にしては妙に幅がある。

 荷車道ではなく、荷を整えてから降ろすための前庭みたいな広さだった。


 わたしは一本の杭へ手を当てた。

 保存魔法を薄く流すと、表面の霜が少しだけ均一になる。

 すると、ほとんど削れていた刻みの下から、古い線が浮いた。


『空荷返し』

『待機二刻』


「……倉庫の前じゃない」

 思わず呟く。

「坂そのものが仕分け場だったんですね」


 カイル様が周囲を見回した。

「都市へ降りる前に、荷の軽重と戻り順を揃えていたのか」


 つまり保管都市は、物をただ集める場所じゃない。

 着く前から、戻りと待機まで折り込んでいた。


 坂を下るほど、風の音が変わった。

 上では雪面をなでていた風が、途中から足もとで鳴る。

 崖の底へ穴があるみたいに、下から冷気が吹き上げていた。


「リーゼさん、あれ」

 ニコが指さした先に、半分埋もれた石札があった。

 雪を払うと、かすれた文字が出る。


『零番坂 風穴前』


 その下には、三本線と丸印。

 昨夜の路線控えにあった記号と同じだ。


 坂の先は崖で途切れて見えた。

 けれど近づくと、岩肌の影に人ひとり分の裂け目がある。

 底の見えない暗さではない。むしろ整いすぎた暗さだった。


 風が、そこから吹いている。


「門ですね」

 わたしは写し板を抱え直した。

「しかも、まだ息をしてる」


 白霧港の配分板から写した札が、腕の中でやけに重かった。

 この門はきっと、昔の鍵だけでは開かない。

 いま不足している土地と、いま戻せる春を持ってこそ開く門だ。


 わたしたちは荷橇を裂け目の前で止めた。

 零番坂の先にあるものは、過去の遺物じゃない。

 たぶん、まだ今と繋がる仕組みだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。