060 灯りのあとに残る注文
白夜祭の最後の夜が終わっても、白霧港の灯りはすぐには消えなかった。
主桟橋には帰りの馬車が並び、積み替え庭では返却札の確認が続いている。
共同炊事場の鍋はもう空に近いのに、注文板の前だけはまだ人が残っていた。
「視察三件、加工品の定期便二件、薬草交換の相談が四件」
ニコが読み上げる。
「あと、配分相談が……七件」
最後だけ、少し声が低くなった。
祭りの成果としては十分すぎる。
でも、七件という数字は手放しで喜べる数じゃない。
ニナが温茶を配りながら、ため息をつく。
「診療院からの相談、どこも同じでした。薬草が育たない、乾燥棚を増やしたい、保存食の回し方を知りたいって」
「食卓の相談も似ています」
わたしは注文紙を揃えた。
「足りている町の余裕ある買い物じゃない。足りなくなる前の備え方を探してる書き方です」
ヨナスさんは大倉の鍵束を鳴らしながら言った。
「祭りで人を呼んだら、困りごとも一緒に来たな」
「ええ。でも、たぶんこれが本番です」
白夜祭で分かった。
白霧港はもう、自分たちだけの冬をしのぐ港ではいられない。
見せた以上、頼られる。
頼られた以上、次は配る順番を決めなければならない。
港の端では、カイル様が兵と宿割りの最後の確認を終えて戻ってきた。
「南と王都近郊の様子を探らせる。今日の大口注文だけでは済まない」
「わたしも、配分相談の紙をまとめます」
「祭り明けで休めと言いたいところだが」
「無理ですね」
わたしたちは少しだけ顔を見合わせ、それから同時に息をついた。
疲れているのに、止まる気がしない。
主桟橋の先は、まだ薄く明るい。
白夜の名残りが海に伸び、その下で灯り札がゆっくり揺れている。
「呼んだな」
カイル様が隣で言った。
「はい」
「ちゃんと、人も仕事も」
王都では取り返すために立った。
でも白霧港では、迎えるために立てた。
その違いが、今ははっきり分かる。
「次は、守る量が増えますね」
わたしがそう言うと、カイル様は海の向こうを見たまま頷いた。
「なら、守り方も増やす」
その返事が、ひどく白霧港らしかった。
夜更け前、わたしは白夜祭の準備板を外した。
代わりに、新しい板を立てる。
『広域備え 相談受付』
その下へ、さらに書き足す。
『在庫』
『播種先』
『療養食』
『配分順』
祭りのあとに残ったのは、空の鍋と返却札だけじゃない。
次の季節を越えるための注文だった。
白霧港は人を呼べる港になった。
だから次は、その人たちを飢えさせない順番を作らなくてはいけない。
新しい板の字が乾くのを待ちながら、わたしは長い夕方の終わりを見上げた。
白夜はまだ明るい。
でも、その先に来る冬の気配も、もう見えている。




