表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/70

058 白夜の卓は港にある

 白夜祭の当日、白霧港は朝から人の声で明るかった。


 主桟橋へ着いた客はまず、青札を受け取る。

 積み替え庭で荷札の読み方を見て、共同炊事場で湯気の立つ鍋をのぞき、診療所前で温茶を飲み、それから芽床と大倉へ進む。

 王都の宴みたいに、最初から銀皿の前へ連れていく流れにはしなかった。


「遠回りに見えて、一番早いですね」

 宴の夜に会った若い子爵が、積み替え庭の板書きを見ながら言った。


「白霧港では、そうなんです」

 わたしは荷役の邪魔にならない位置で立ち止まる。

「見本だけだと、『珍しい品』で終わります。でも、どこへ入って、どう残して、どう配るかまで見れば、次に欲しくなるのは品そのものではなく運用でしょう」


 子爵は感心したように頷き、控え板へ視線を移した。

「だから持出控まで公開しているのか」

「はい。ここでは、見たい人ほど先に記入してもらいます」


 共同炊事場では、ニナたちが鍋の札を読み上げていた。

「こちらは北崖の乾燥薬草を使った温茶。こっちは今朝の魚つみれ汁。若菜の塩粥は診療所向けの配分と同じ手順で出しています」

 ただ美味しいだけじゃない。

 誰に、どの棚から、どんな順番で届くかまで一緒に飲み込ませる。


 昼過ぎ、港は最初の山を越えた。

 見学客は増えているのに、荷役は止まらず、鍋も足りている。

 ニコが返却札の束を抱えて走ってくる。

「青札、三枚まだ戻ってない。でも人は足りてる。たぶん大倉で足止まってる」

「ありがとう。ヨナスさんのところへ一声かける?」

「もうかけた」


 早い。頼もしい。


 夕方と呼ぶには明るすぎる時間、芽床の前で小さな人だかりができた。

 ガラス箱の下で、若い緑が静かに揺れている。

 宴では小皿の上だったものが、ここでは土と札と一緒に息をしていた。


「これが、王都の見本卓にあった種の続きですか」

 年配の女商人が訊く。

「ええ」

 わたしは芽床の横へ並べた播種札を指した。

「でも種だけ持っていっても意味がありません。土壌回復材、風除け布、蒔く時期、戻り札。全部揃って、初めて春になります」


 そのとき、カイル様が大倉の入口側から歩いてきた。

「ノルトフェルト家として、今期の正規視察を三件受ける。条件は白霧港側の台帳に従う」


 周囲が少しざわつく。

 でも、そのざわめきは王都の宴のときと違った。

 面白がるざわめきじゃない。値を測るざわめきだ。


「さらに、港内加工品の試験取引も始める」

 カイル様は燻製小屋のほうを見やる。

「見本ではなく定期便の相談として受ける。必要量と配送先を書いて出せ」


 白夜の空の下で、何人もの手が同時に控え板へ伸びた。


 王都では、わたしは皿から価値を取り返した。

 でも今は違う。

 白霧港の卓そのもので、次の仕事を生んでいる。


「リーゼさん」

 ニナが小声で呼ぶ。

「見てください」


 共同炊事場の前に並ぶ人たちの顔は、もう『辺境見物』の顔じゃなかった。

 食べ、見て、計り、自分の町へ何を持ち帰れるか考える顔だ。


 それを見た瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけた。


 白霧港は、もう守られるだけの場所じゃない。

 人を呼び、その人に仕事を持ち帰らせる場所になり始めている。


 長い夕方の光が港じゅうを淡く照らす中、わたしは控え板へ新しい一行を書き足した。


『白夜祭 本日分視察受付 残り二枠』


 書いたそばから、その枠は埋まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ