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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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056 白夜祭の招き板

 白霧港へ戻った翌朝、わたしは積み替え庭の中央へ一枚の大板を立てた。


『白夜祭 準備』


 その下へ、さらに細い板を並べる。


『視察 持出控つき』

『食卓 炊き出しではなく試食札で』

『取引 見本だけで決めず現場確認』

『種子庫 立会いと播種先記入必須』


「祭りなのに、ずいぶん字が多いな」

 カイル様が板を見上げて言う。


「祭りだからです」

 わたしは炭筆を置いた。

「王都の宴みたいに、綺麗な皿だけ見て帰られたら困ります。白霧港へ来るなら、流れごと見てもらわないと」


 ニコがすぐ横で、招き札の束を抱えている。

「これ、港内用と外向けで色を分けた。青が視察、赤が食卓、緑が芽床見学」

「ありがとう。帰り札も忘れずにね」

「もう作った」


 早い。

 この子はいまや、札がないと落ち着かない顔をするようになった。


 ニナは診療所から薬草茶の壺を持ってきて、板の端へ小さく書き足した。

『温茶所 診療所前』

「遠くから来た人、いきなり冷たい風に当てると倒れますから」

「その一文も、白霧港らしくていい」


 ヨナスさんは腕を組んで板を眺め、鼻を鳴らす。

「倉庫見学の順番も書いとけ。芽床を見せたあとに大倉へ入れりゃ、ただの珍しい種じゃなくて、残し方の話になる」

「それ、いただきます」


 わたしは板の下へ、もう一枚打ちつけた。


『見る順番 主桟橋 → 積み替え庭 → 台所 → 芽床 → 大倉』


 白霧港の価値は、一箇所だけ切り取るとすぐ安く見られる。

 けれど荷が入り、仕分けられ、食卓へ回り、次の春へ渡るところまで繋がれば、勝手に飾り卓へ乗せられる値段ではなくなる。


「王都からも返事が来ています」

 詰所から出てきた兵が封書を差し出した。

 宴のあとで声をかけてきた女商人、北辺へ関心を示した若い子爵、それから港の薬草に目を留めていた診療院の使い。

 文面は丁寧だったが、どれも同じことを書いている。


『正式な視察を願いたい』


 王都で拾った声が、ちゃんと白霧港へ向いている。

 それだけで、胸の奥が少し熱くなった。


「呼びつけられるんじゃなく、呼ぶ側になりましたね」

 ニナが笑う。


「ええ」

 わたしは頷いた。

「今度は港の条件で、来てもらいます」


 カイル様が板の端を指で軽く叩く。

「なら、辺境伯家名義の見回りと宿割りを付ける。祭りであっても、流れが乱れれば港が止まる」

「止めません」

「分かっている」


 短い返事なのに、不思議と背中が軽くなる。


 昼には、港じゅうの人が板を見に来た。

 燻製小屋は試食皿の数を数え始め、共同炊事場は汁鍋の順番を書き出し、診療所は温茶所の机を磨き、主桟橋では見学客を通すための足元板を打ち直している。


 白夜祭はまだ始まっていない。

 けれど、準備板を立てた瞬間から、白霧港の空気はもう違っていた。


 守るために閉じる港ではなく、見せるために整える港へ。


 わたしは板のいちばん下へ、最後の一行を書き足した。


『白霧港へようこそ。ただし、順番は守ってください』

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