052 飾り卓の産地札
乾杯前の広間で、王弟派の世話役らしい男が見本卓の前へ人を集めた。
「北辺再生の希望を、ひと足早く都のみなさまへ」
拍手が少し起こる。
でもわたしは、銀皿より先に硝子瓶の口を見た。
封蝋がない。芽床粉の表面には、湿気で寄った細い筋がある。白霧港を出るなら、あんな置き方はしない。
「ご説明の前に」
わたしは卓へ一歩寄った。
「この見本の産地札と、港外持出控を確認させてください」
世話役の笑みが止まる。
「宴席の飾りでございますよ」
「白霧港では、飾りでも持出は持出です」
静かになった広間で、わたしは証拠箱の細紐をほどいた。
中から出したのは、海側支庫で押さえた書付の写しと、正規の見本用に封じた小瓶。
「こちらが白霧港側の正規見本です」
卓の瓶と並べる。
「封蝋の位置、湿り止めの紙、記録札。三つ揃って初めて見本になります」
貴婦人のひとりが身を乗り出した。
「では、そちらの卓の品は違うの?」
「違います」
わたしは銀皿の粉を指先で見た。
「開封後の湿りが早すぎる。産地札も返却期限もない。見本として出すなら、誰がいつ受け取ったかが必要です」
カイル様が後ろから続ける。
「北辺再生品を語るなら、現場の条件と立会いごと語れ。そうでないなら、ただの無断持出だ」
世話役は軽く笑って流そうとした。
「細かなことを」
「細かくしないと腐ります」
わたしは遮った。
「物も、話も」
そこで何人かの商人が顔を見合わせる。
飾りに見せかけた品が、急に値の付く品ではなくなったからだ。
わたしは卓の説明札を一枚、裏返した。
「産地札のない皿は、誉め言葉にも銀貨にもなりません。今夜この卓を続けるなら、持出先と受取人を公開で書いてください」
書けるはずがない。
書けば密輸筋まで繋がる。
拍手はもう起きなかった。
代わりに広間へ残ったのは、誰がこの品をここへ置いたのかを考える沈黙だった。




