051 春待ちの席次
王弟派の春待ちの宴は、香油と花より先に席札の匂いがした。
磨かれた長卓の半ばに、わたしの名がある。
けれど肩書は『ハルフェン伯爵家令嬢 リーゼ・ハルフェン』だった。
カイル様の札はずっと奥で、『北辺より同伴』。白霧港の代表を二つに割って、わたしだけ家名へ戻す置き方だ。
「ずいぶん親切な席順ですね」
わたしが呟くと、案内役の女官が微笑んだ。
「ご実家のお名前のほうが、都では通りがよろしいかと」
「白霧港では逆です」
わたしは招待札を開いた。
『リーゼ・ハルフェンおよびノルトフェルト家代表』
並んで書いてあるのに、席だけ切り分けてある。
女官は困った顔をしたが、困るのは向こうの算段だ。
「肩書を書き直してください。白霧港臨時補給管理官。辺境伯家立会い付きで来ています」
「宴席でそこまで」
「宴席だからです。人の置き場を間違えると、そのまま物の置き場まで間違えます」
周りの視線が寄ってきた。
もう十分、公開だ。
カイル様がわたしの横へ来て、淡々と言う。
「ノルトフェルト家としてもその表記を求める。招待側が難しいというなら、臨席自体を見直す」
その一言で、女官の笑みが少し崩れた。
やがて彼女は別の従者を呼び、札を持たせる。
金縁の紙が下がり、新しい札が差し込まれた。
『白霧港臨時補給管理官 リーゼ・ハルフェン』
たった一行。でも、これで宴の入口は変わる。
そのとき、広間の奥の見本卓が目に入った。
銀皿、細い硝子瓶、乾いた芽床粉らしい小鉢。
けれど説明札はどれも曖昧で、『北辺再生品』『春待ちの恵み』としか書いていない。
「……産地札がない」
誰が、いつ、どこから持ち出した品なのか。
それが抜けた見本は、白霧港では荷ですらない。
王弟派は宴へ招いたんじゃない。
白霧港の成果を、名札のないまま卓へ載せるつもりだった。
だったら今夜は、皿の並びより先に札の並びを直す。




