050 宴へ運ぶ証拠箱
王弟派からの招待札が届いた翌朝、白霧港では新しい板がもう立っていた。
『港外持出控 立会い必須』
積み替え庭の端で、ニコが炭筆を握っている。
「戻り箱も見本箱も、これからは先にここ」
「うん。返却期限も忘れずに」
「もう書いた」
港は早かった。
怒るより先に、流れを直す。
それが白霧港の癖になってきているのが、少し誇らしい。
わたしは詰所で、王都へ持っていく箱を三つに分けた。
一つ目は婚約状と条件書、公開返書、招待札。
二つ目は海側支庫で押さえた見本荷の書付と宴札の控え。
三つ目は芽床の記録と、白霧港で実際に使っている播種先の現況板の写し。
「証拠箱ですね」
ニナが蓋の紐を結び直す。
「ええ。しかも向こうが一番見たくない順番で入れます」
飾りの見本じゃない。人も荷も、現場と手順があって初めて生きると示す箱だ。
バルトさんは壁にもたれたまま鼻を鳴らした。
「宴だか何だか知らねえが、こっちの魚まで勝手に見本にされたらたまらん」
「だから行って止めてきます」
「ついでに、燻製小屋の値札も読ませてこい。安く見られるのは性に合わん」
ヨナスさんは箱の角を確かめてから言った。
「大倉はこっちで見とく。嬢ちゃんは、あっちの薄い笑い声の中で数字を読ませてこい」
外へ出ると、試し床の緑が前より少しだけ濃くなっていた。
守らなければ消える色だけれど、もう白霧港だけで抱え込む段階でもない。
だからこそ、どこへ出すかをこちらで決める必要がある。
「王都へ行くのが嫌なら、俺が断る」
隣でカイル様が低く言う。
「嫌です」
自分でも即答だった。
「でも、行きます。今度は呼び戻されるためじゃありません」
カイル様がわずかに目を細める。
「なら同行する。宴席でも、港の立会いは要る」
主桟橋の向こうで、朝の荷呼びが始まった。
白霧港は動いている。種子庫も、積み替え庭も、台所も、もう止まらない。
だからわたしは証拠箱を抱えて、次の場所へ行ける。
次に開くのは、地下の扉じゃない。
王都の宴の扉だ。




