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「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


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043 春待ち種の棚

 第三層は、霜守りの大倉より静かだった。


 食料庫のような匂いはしない。代わりにあるのは、乾いた土と木箱と、眠ったままの春の匂いだ。

 長い通路の両側に、背丈ほどの箱が整然と並んでいる。

 箱の蓋には、種の名だけではなく、土地の名が刻まれていた。


『塩噛み低地』

『風裂け斜面』

『遅霜谷』

『湿霧畝』


「土地ごと……?」

 ニナが箱へ触れようとして、慌てて手を引っ込めた。

「種の名前じゃない」


「種だけを配っても、土が戻らなければ育たないからでしょう」

 わたしは隣の小箱を持ち上げる。

 中には、紙包みの種、白い粉の小袋、細い札、折りたたまれた麻布。

 札には播種時期、覆土の厚さ、必要な風除けの向きまで書かれていた。


 宝物庫ではない。

 これは再建の手順書だ。


 通路の奥には、大きな記録板が残っていた。

 保存魔法を薄く通すと、かすれた文字が浮かび上がる。


『種は食を継ぐために保存するにあらず』

『土地を継ぐために保存する』


 胸の奥で、何かがまっすぐ収まる音がした。


 王都では、保存魔法は腐らせないだけの地味な力だった。

 白霧港では、食料と薬と証拠を守る力になった。

 でも本当は、その先があったのだ。

 春が来るまで止めるためじゃない。春を次の土地へ渡すために残す。


「リーゼ」

 カイル様が別の棚から板を持ってくる。

「見ろ」


 そこには、白霧港周辺の古い畑筋が描かれていた。

 港南斜面、崖上旧段畑、崖向こうの共同畝。今は半分以上が捨て地になっている場所ばかりだ。

 けれど古代の記録では、それぞれに対応する種箱の棚番号まで振られている。


「白霧港は港だけじゃなかったんですね」

 思わず言うと、ヨナスさんが鼻を鳴らした。

「昔はみんな、港で食うために畑を守ってたんだろうさ。海が死んだ年でも、土が残れば人は戻れる」


 ひとつ、箱を選ぶ。

『塩噛み低地 一号』

 中身は耐寒麦、塩抜き用の白粉、海藻灰の使い方を書いた札。


 もうひとつ。

『風裂け斜面 二号』

 こちらは豆種と、風除け布、石並べの指示札。


「最初は欲張りません」

 わたしは二箱を抱えた。

「白霧港の近くで試せる分だけ。芽が出る手順から確認します」


 食料庫の大当たりではない。

 けれど箱の重さは、銀貨よりずっと大きかった。

 ここに眠っていたのは、食べ物そのものではなく、食べ物をまた作れる未来だった。

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