表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず」と雪の辺境に捨てられた保存魔法令嬢は、眠れる古代倉庫をひらく  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/40

039 王都でも同じ数字

 翌日の照合は、監察局の奥室ではなく第二倉の前庭で行われた。


 上席監察官がそう決めた理由は簡単だ。

 袋も帳面も人も、一か所へ並べたほうが嘘が減るからだ。

 それは白霧港でも、王都でも変わらない。


 庭へ長机を三つ出し、左に原帳、中央に現袋、右に証言控えを置く。

 書記たちは最初こそ眉をひそめたが、袋口と封色を見比べるにはこの並びが一番早かった。


「読み上げます」

 わたしは最初の札を取る。

「第二倉北壁第一列、青蝋八十六袋。最終保存処理十五日前」


 それに対して、現袋係が声を張る。

「現物、赤蝋六十四、青蝋十二、不明十」


 数字がその場で噛み合わない。

 しかも、噛み合わないことを皆が同時に聞いた。


 白霧港でまとめ板を出した時と同じ感覚があった。

 ひとりで説明するより、同じ数字を皆の耳へ入れたほうが早い。


 さらに、搬入係の老人が手を挙げた。

「青蝋八十六は覚えてます。あの日は北壁の棚が埋まって、若いのに二度も袋台を戻させたから」

 別の荷役係も続く。

「赤蝋がどっと増えたのは、そのあとです。夜明け前で、しかも再封用の細紐だった」


 書かれた数字と、運んだ人間の記憶がそこで重なった。

 王都の倉でも、現場はちゃんと覚えている。

 ただ、言わせる順番がなかっただけだ。


 「搬出控え」

 上席監察官が促す。

 書記が読み上げる。

「夜間搬出、記録なし」

「夜間開扉」

「許可札なし」

「番頭証言」

「ドロワ殿の許可札と伯爵印を確認」


 そこまで来ると、前庭にいた荷役係たちまで息を潜めた。

 見れば分かる嘘と、聞けば分かる空白が、少しずつ同じ形を取り始める。


 ドロワはまだ口を挟もうとした。

「番頭ひとりの曖昧な記憶です。しかも令嬢は北辺で紙遊びを覚えただけで、王都の」

「紙遊びではありません」

 わたしは木箱から札を一枚抜いた。

『耐寒種 北送控』

「これは第二倉の穀物不正と同じ棚から出ました。北送り種子の控えです」


 監察官が目を見開く。

「種子だと?」

「はい。しかも移送札なし。穀物差し替えと同じ夜に動いた可能性があります」


 父がそこで初めて強く言った。

「北辺へ送る劣化種の処理だ。家の裁量で問題ない」

「劣化種なら、なぜ『耐寒種』の焼印を残したまま隠したのですか」


 答えはない。

 あるのは、庭に並んだ袋と帳面だけだ。


 さらに、第二倉付きの若い書記見習いが、震えながら手を挙げた。

「あの夜、別の帳面も運ばれました」

「どこへ」

「旧温度庫です。今は使っていない地下の保管室へ」


 地下。

 その言葉で、胸の奥が小さく跳ねる。


 監察官は即座に封印命令を出した。

「ハルフェン伯爵家第二倉、旧温度庫、関連帳簿を本日付で押収。ラウル・ハルフェンは穀倉管理権限を停止。ドロワは帳簿接触を禁ずる」


 前庭がざわめいた。

 父は顔色を失い、ドロワはさすがに何も言えない。

 それでも、まだ終わりではない。

 家名が潰れたわけでも、不正の全部が裁かれたわけでもない。

 でも少なくとも、もう黙って片付けられる段階は越えた。


 押収品の仕分けが始まると、旧温度庫から細長い木箱が二つ運び出された。

 中には、金属札と薄い保管図。

 札の表面へ刻まれていたのは、見慣れない文言だった。


『北方種子庫 第三層』

『春待ち種 低温保存』


 穀物の差し替えを照らしに来たはずなのに、次の扉はもっと北へ向いている。

 わたしは札の冷たさを指先で確かめながら、白霧港の地下で見た金属板の感触を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ