やっちゃいけないやつをやる人
ざまぁをしてみたかったのですが、ざまぁなんだろうか?これ?
なんか変な方向に向かっていますが、ご覧になってください。
卒業舞踏会は盛り上がっていた。
音楽、料理、笑顔。
どこを見ても「貴族の最後の思い出」って感じだ。
ただし一箇所を除いて。
会場のど真ん中。
そこだけ、妙に空いている。
人がいないわけじゃない。
人が避けている。
(あそこ行くなよ)
(視界に入れるな)
(関わったら終わる)
そんな無言の圧が、綺麗な円を作っていた。
その中心にいるのは、一人の令嬢。
アリア・フォン・ヴァルシュタイン。
大公家の令嬢。
説明はそれで足りる。
誰も近づかない理由も、それで足りる。
彼女は何もしていない。
ただ立っているだけだ。
なのに。
誰も近づかない。
そんな場所に。
ズカズカと踏み込む男がいた。
「よし」
王太子ラーハルト・アルヴェイン。
(やめろ)
(戻れ)
(今なら間に合う)
周囲の貴族が心の中で全力で止める。
もちろん届かない。
「皆の者、聞け!」
大声。
音楽が止まる。
全員が顔を伏せる。
(あー……)
(終わった)
誰もが悟る。
これから起きることを。
「私はここに宣言する!」
堂々としている。
何も知らない顔で。
「アリア・フォン・ヴァルシュタインとの婚約を――」
一拍。
「破棄する!!」
静寂。
完璧な静寂。
空気が死んだ。
(言ったあああああ)
(なんで!?)
(誰か止めろよ!!)
(無理だろ!!!)
取り巻きはドヤ顔。
「そうだ!」
「伯爵令嬢のマリアのいじめの証拠もある!
マリアの教科書にらくがきをして、
マリアの教科書を池に落として、
マリアの教科書を干していただろう!」
「らくがきをしていたところから我々はずっと見ていた!」
(見てたんなら止めろよ!)
「顔が見えなくて黒い影にしか見えなかったけど、犯人はお前だ!アリア!!」
(それホントにヴァルシュタイン様なのか?)
(違ってたら黒い影にしか見えない人物が学園をウロウロしてる怖い!)
(だから見てたんなら止めろよ!)
勢いがある。
知識がない。
致命的にない。
ラーハルトは、さらに追い打ちをかける。
「貴様だ、アリア!」
指をさす。
完全にやりきった顔。
その瞬間。
空気がもう一段冷えた。
全員が視線を落とす。
誰も見ない。
見てはいけない。
「……はい」
短い返事。
それだけ。
「婚約の件ですが」
「了承いたします」
以上。
え、終わり?
(終わりじゃない)
(終わりじゃないやつだ)
(むしろ始まりだ)
「では、失礼いたします」
そのまま去っていく。
誰も止めない。
止められない。
道は最初から空いていた。
音楽が再開される。
会話も戻る。
誰も触れない。
なかったことのように。
その夜。
王都のあちこちで同じ言葉が交わされた。
「関わるな」
それだけ。
そして。
この時。
ラーハルトはまだ知らない。
自分が何をしたのか。
そして。
国家が一つ終わることを。




