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日清戦争 -67 難民輸送

こうしんわすれてたあーーー

 広島 後藤新平

「和船をもっと出せ。日本中からかき集めるんだよ。」

 後藤は叫んでいる。急遽、呼び出された後藤は広島の防疫現場のトップになし崩しになっていた。

 彼はこのころ、相馬事件という事件に関連して、裁判を受け、無罪勝訴したが、職を失っていた衛生官僚である。史実では12月に復職するも、失職中に後任が決まっていたために席がなく、その関係で陸軍の復員関連の業務に回されて頭角を現した人間である。しかしこの世界では9月ごろに難民受け入れを陸軍から要請されて、最終的に彼がその仕事を押し付けられる形で難民受け入れの業務をすることになったのだ。

「とはいっても国内の蒸気船が軒並み徴用された関係で国内輸送がみんな和船頼りなんですよ。」

 戦争は国内に大きな影響を与える。日本の場合常に海上輸送の船舶不足にそれが出る。

 この時代だと、徴用された蒸気船にとって代わって衰退していた江戸期から存在する和船の末裔たちが国内海運の主力にならざるを得なかったのだ。

「その辺は問題ない。戦時の影響で需要が少ないから和船そのものは余っている。大型和船も最近では基本設計が西洋帆船に移行している。老朽船なら集められるらしい。」

 史実において明治18年(1885年)に政府が「500石以上の旧来型和船の製造禁止令」を出した影響で和船のうち大型のものは新規建造を向かい風にも強い西洋型帆船の建造に移行しており、既存船も向かい風に強い帆に換装されている例が多いが、それから漏れた船は眠っている。

「それに軍が逓信省管船局に圧力をかけている。150石以上も規制を適用するようにと。そのうわさを流すだけで現在ある和船の多くが旧式化を恐れて廃棄前提の輸送に投入できる。」

 史実においても1896年の「船舶検査法」で150石以上の和船も規制になった。旧式船で対処できないものはこの時点で大量廃船になる運命だ。

「それに150-150石級は検疫のための船上隔離に好適だ。あまり大船にまとめて収容しようものなら一人の病人のせいで隔離をしないといけない人数が増えすぎてしまうからな。それよりも陸上施設の建造を急げ」


 鎮南浦

「老人・女性・子供優先です。乗船してください。」

 日本は史実と違い、清国が行った焦土作戦にきちんと対策することにした。食料輸送は国際法違反の状態を復仇でクリアした。

 しかし、計算上、それでは助けきれない可能性は高かった。現地に食料を必要とする難民が大量にいれば食料は彼らの胃袋に収まってしまう。

 そこで対策としては難民を日本に移送して現地負担を減らすという工夫がなされることになったのだ。これに動員された船は軍需物資輸送船の帰路の荷室を総動員した。ここに避難民を入れて日本に連れて帰る。日本では内地に余剰になっている和船や島嶼を宿舎代わりに検疫期間を過ごさせて安全と判断できた人間から日本各地の農村に居候させる。

 農村はこの戦争に兵士を出すために労働力が不足している以上、避難民も十分労働者になる。

「父ちゃん!!兄ちゃん!!」

 子供が叫ぶ。別れを惜しむ声だ。しかし成人男性の席はない。

「しっかり稼ぐからな!!」

 男は安心させるように岸壁から叫ぶ。

 男性陣は労働力だ。食料輸送を片道で行った和船から食料を下ろす荷役やその和船を解体して燃料にする労働者として必要不可欠だ。日本は金や食料で労働者として雇われた。

 むろん、この労働力は最前線地帯への軍需物資輸送にも動員される労働力だ。特に、前線に送り込むのは信用のおける労働者…日本に家族を送り出してもらった男性陣だ。裏切れば白い目で見られることになるだろう。

「次が詰まっているから見送りの方々は仕事に戻ってください。」

 すでに家族を送り出して管理者的立場にいる労働者が見送りの労働者を誘導している。

 たとえ史実以上に現地人労働者を供給できたとしてもそれ以上に荷物が増えている。あまり休ませている余裕はないのだ。


 旧式蒸気艦 『(初代)筑波』 転用消毒船

「まさかこんな手段を取るとは思いませんでした。」

 驚いているのは後藤だった。受け入れまでに1週間もない中、衛生関連設備を立ち上げて難民を受け入れて犠牲を出すな。

 この無理難題に彼はある程度の答えを友人から聞いていた。かつて犬猿の仲で対立すらしたことのある北里柴三郎だ。彼のアドバイスを聞いて彼はすぐに蒸気消毒器の準備を始める。それに必要なのは単純に言えば強力なボイラーだ。

 史実の復員兵士消毒事業ではこの蒸気管を2-3か月かけて新規製造した。しかし、間に合うわけがない。間に合わなければ大勢死ぬ。

 そこで既存ボイラーを頼る。蒸気機関車や蒸気船ボイラーを転用するのだ。しかしいずれも余裕はない。民間蒸気船は戦地輸送、蒸気機関車は内地輸送にフル稼働余っているボイラーなどどこにあるのだ?そこで目を付けた先が1つ。

 海軍の蒸気船『(初代)筑波』である。この船あまりにド旧式すぎて外洋航行困難とみなされた船たちである。いずれも蒸気機関だ。

 『(初代)筑波』の蒸気で衣服の殺菌と難民を風呂に入れての衛生管理。最小限の時間でできる限界の策だ。両弦に和船を接舷できることもそのあと押しだ。汚染舷側と安全舷側で完全に動線を分けることができる。この設備なしでは病原菌保有の可能性を残したまま検疫隔離することになるので隔離船の中が致命的になる。

「これで隔離して2週間。感染者がいない船は安全とみなして難民を上陸させて各地に受け入れさせるこれは問題ないだろうな。」

 隣にいる海軍軍人が尋ねる。自分たちの船をこんな使い方をされる。それに複雑な表情をしているが、老朽船ゆえにそれが実質最後の奉公。使われ方の文句と使い道があったのかという驚きの入り混じった複雑な表情だ。

「陸揚げしないと次の避難民を受け入れる余裕がありませんよ」

 後藤は肩をすくめるしかなかった。


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