第3節「暗躍する影(3)」
「まあ、その辺のことは一旦置いといてさ。コリンズちゃん、この婚姻契約の魔法を解除したって話くらいは聞いたことあるの?」
悩むエドマンドを一旦放置し、ステイシーは話を進める。
今すぐ解除するにしても、今すぐは解除しないにしても、どちらにせよ解除法は知っておいたほうがいいと思ったからだ。
「そうだな、聞いたことはある。どうやったかは知らないが……」
とりあえず解除法が存在しないわけではないことがわかり、ステイシーは少し安心する。
最悪の場合、全魔法消去で無理やり解除することになるのだが、その場合でもそもそも解除法がない魔法の場合だと、何らか形で全魔法消去のような魔法を消す魔法に対する防御措置が施されている可能性が高まってしまうからだ。
それでもおそらく、ステイシーなら解除できないことはないが、その場合、防御措置の仕組み如何によっては、エドマンドとコリンズが死ぬ可能性すら否定できない。
とにかく、解除法がある魔法であることが、魔法を消すことにおいて重要なのだ。
「その人たちには、何か害があったりした?」
また、解除することに対するリスクが設定されているか、ということも重要だ。
今回の婚姻契約の魔法のように、双方の同意と行動をその行使に要求する魔法の場合は、解除に対するリスクが設定されていることは少ないので、大丈夫だろう、というのがステイシーの認識だが、一応聞いておくに越したことはない。
「直接聞いたわけではないからはっきりとは言えないが、特に何もなかった、らしい」
予想通り、この魔法の解除にはなんのリスクも設定されていなかったようだ。
「そう。じゃあ無理やり解除しちゃっても大丈夫ってことかな?」
懸念事項を全て潰したステイシーは、最後にコリンズに尋ねる。
「おそらく、だが……」
何か目的があってそうしたのだろうから、当然と言えば当然だが、コリンズはエドマンドとの間の婚姻契約の魔法の解除には反対なようだ。
「わかった、じゃあ私が全魔法消去で消しちゃうけど、いい?」
重ねて確認するステイシーに、コリンズは慌てる。
解除されては困る理由があるのだろう。
「ま、待ってくれ! そんなことをして、またジョサイアが来たらどうすれば……」
ジョサイアが再びコリンズを狙って襲ってくるのだとすれば、確かに今婚姻契約の魔法を解除し、エドマンドをもとの強さに戻すことは危険かもしれない。
この意見はステイシーも一理あると思った。
だがしかし、それでは何も解決しない。
結局、ジョサイアが襲ってくる度に、エドマンドが追い返す、ということの繰り返しになってしまうだけだ。
なのでステイシーは、
「うーん、そうだな〜。その問題の大本の原因は、コリンズちゃんのお父さんなんだよね?」
とコリンズに質問する。
「まあ、そう言えなくもないな」
元はと言えば、コリンズの父が、突然コリンズにマルダーフントの族長の息子、まあつまりは先ほど襲ってきたジョサイアと結婚するように言ったことが始まりだ。
なので大本の原因はコリンズの父だ、と言えなくもない。
「よしっ、じゃあそのお父さんのところに行って、話をしてみよう」
結構大変なことになっていると思うのだが、そんなことお構いなしに、ステイシーは楽しそうにそう言った。
「え?」
あまりに突然なステイシーの発言に、コリンズは驚き、間抜けな声を出してしまう。
「え? じゃなくて……お父さんのところの言って話せば解決するんでしょう?」
理解できずにポカーンとしているコリンズに、ステイシーは繰り返した。
そこでようやく、コリンズはステイシーが言っていること理解する。
「いやいやいや、なんでそうなる? それに、話すって何を?」
行ってどうする、というのがコリンズの素直な感想だった。
それと同時に、喧嘩別れする形になっている父に会うのは、正直気が進まなかった。
「もちろん、その結婚には反対です、って言いに行くんだよ」
予想通りと言えば予想通りなステイシーの発言に、コリンズ首を横に振る。
「無理だ、そんなこと言ったって、あの父が聞いてくれるはずがない……」
父は言い始めたら聞かない人だ。
少なくともコリンズの知っている父なら、コリンズが何を言ったところで聞き入れてくれるはずがない。
「そうかな? 言ってみないとわからないよ?」
「…………それでもし、だめだったら?」
「そうだな〜、実力行使?」
笑顔で怖いことを言うステイシー。
確かにコリンズの父はコリンズ以上の実力者だが、ステイシーよりは弱いと思うが……。
「ステイシー、殺しはいけないぞ?」
ステイシーの危険な発言に、先ほどまで悩んでいたエドマンドが会話に戻ってきて釘を刺す。
「もう、酷いな〜エドは、そんな簡単に殺したりしないって」
やだな〜もう、とエドマンドの肩をポンポンと叩くステイシー。
そんなステイシーに、エドマンドはジト目で返す。
「いや、さっき俺のこと殺して蘇生するとか言ったじゃねーか……」
エドマンドは、先ほどコリンズが婚姻契約の魔法について素直に答えなかった時のことを言っているのだろう。
「あれ? そうだっけ?」
わざとらしく小首を傾げるステイシー。
「いや、かわいこぶって言ったってだめだからな?」
いつも一緒にいるため忘れがちだが、ステイシーは十分可愛い。
さっきのだって、普通の男なら許してしまっていたかもしれない。
しかし、もうかれこれ二ヶ月近く一緒にすごしているエドマンドには効かなかった。
エドマンドは相変わらずのジト目で返す。
「ええー、いいじゃん別に〜」
またもわざとらしく頬を膨らませるステイシーに、まだやるのか、とエドマンドは呆れた様子だ。
「話がそれてるぞ……」
遊び始めた二人に、コリンズが思わず注意する。
「ごめんごめんコリンズちゃん。まあとにかく、一度お父さんと話してみよう。ね?」
再びエドマンドからコリンズに視線を移したステイシーは、コリンズの顔を覗きこむようにしてそう言った。
「はあ、わかった……気は進まないが」
いずれ父と話さなければいけない、ということはコリンズもわかっていたので、諦めて覚悟を決めることにした。
「うんうん、それでもいいよ。さあ、そうと決まれば旅の準備をしないとね!」
気が乗らないコリンズとは対照的に、ステイシーは楽しそうにそう言ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ということで、ステイシーが無理やり解除して、はいおしまい、とはなりません。
流石にそれじゃ面白くないですし。
明日も読んでいただけると嬉しいです。
それでは。




