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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
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第2節「狸と狐(5)」

「なんだ!?」


 轟音とともに、エドマンドたちがいた空間の壁が破壊される。


 破壊されて壁がたてる土煙の向こうから、誰かがゆっくりと歩いてきていることがわかった。


「やっと見つけたぞ、コリンズ姫」


 コリンズを姫などと呼ぶ割に、その声音に敬意は全く感じられない。


 エドマンドには皮肉でわざとそう言っているようにしか聞こえなかった。


「コリンズ、知り合いか?」


 丸い耳と同じく丸い尾のシルエットから、相手が獣人であることはわかるが、それ以上のことはわからない。


 他にわかることといえば、土煙の向こうの人物がかなり太っていることくらいだ。


「知り合い、というと語弊があるが……まあ知り合いみたいなものだ」


 苦虫を噛み潰したような表情のコリンズは、歯切れ悪くそう言った。


 少なくとも、会いたかった人物ではないらしい。


「何だその微妙な言い方は」


「そうだぞコリンズ姫、そんな言い方はあんまりだ。俺は君の婚約者だというのに」


 土煙が晴れると、そこには控えめに言って、かなりのデブが立っていた。


 恰幅がいいと言えば、少しはまともに聞こえるかもしれないが、オブラートに包むことなく表現してしまえば、デブと言う他ない。


 そしてそのデブ、狸の耳と狸の尻尾と持っている。


 はっきり言って、気色悪かった。


 コリンズの様な美少女についていれば、あんなにも可愛い獣耳も、デブの男についていると、あそこまで気持ち悪いものかと、エドマンドは逆に感心してしまう。


 そこでようやくエドマンドは、先ほどのデブの発言内容に思考が至る。


 目に入ってきた画像のあまりのインパクトに忘れかけていたが、あのデブ、さっき自分はコリンズの婚約者だ、みたいなことを言ってなかっただろうか?


「お前がコリンズの婚約者? 本当に?」


 思ったことをそのまま、なおかつ信じられない、というと表情と声音のまま言ってしまったエドマンドに対して、そのデブは鷹揚にうなずく。


「そうだとも、人間のガキ」


 ガキと言われて少し頭にきたが、そもそも今のはエドマンドにも非があった。


 むしろ、初対面の年下にあんなことを言われたにも関わらず、落ち着いて返してくるあたり、あのデブ、意外に心は広いらしい。


「そうなのか?」


 デブの方が肯定したとはいえ、未だ信じあぐねるエドマンドは、コリンズにも確認する。


「おそらく、な。私も肖像画でしか見たことないからなんとも言えないが……」


 どうやら、あのデブが件の婚約者で間違いないらしい。


(それにしても、本当にあったことのない奴と結婚させられそうになってたんだな)


 話には聞いていたが、本人を目の前にして、婚約者だと確証を持って言い切れない程だとは思わなかった。


 まあ、この世界は写真が無いようなので、仕方がないかもしれない。


 ちなみに、魔法で写真と同じようなものを作ることはできるらしいが、その魔法が相当高度な魔法らしく、結果、この世界ではその魔法で作った写真は高価すぎてほとんど一般には広まっていないらしい。


「なるほど、あんたがコリンズの婚約者ってのは本当らしい。でその婚約者さんがなんの用だ?」


 冷静に言ったつもりだが、エドマンドの言葉には端々にトゲがある。


 エドマンド自身もよくわかっていないが、なぜだかあのデブを見ていると腹が立ってくるのだ。


「何、簡単なことだ。この私、ロバーツ=ジョサイアは、我が婚約者ベタニア=コリンズ姫を迎えに来た。ただそれだけだ」


 やや芝居がかった話し方でそう言ったデブ、もといジョサイアは、言葉の最後にコリンズへとウインクした。


 それを見て、コリンズは嫌そうに顔をしかめる。


「ああ言ってるが、どうする?」


 エドマンドに聞かれたコリンズは、ゆっくりとエドマンドの前に出る。


「ジョサイア、すまないが、私はもう彼のものなんだ」


 そう言って、コリンズはエドマンドの腕に抱きつく。


「な!?」


 ジョサイアは予想外だったのか、驚いた様子だ。


「だそうだ、どうするジョサイアさん?」


 腕に抱きつくコリンズの頭に、そっと手を置いたエドマンドを見て、ジョサイアはますます驚愕する。


「……本当なのか、コリンズ?」


 ジョサイアは、先ほどまでの紳士然とした雰囲気が消えてしまっている。


 ついでに、コリンズのことを呼び捨てにしてしまってもいるが、本人に気がついている様子はない。


「ほ、本当だ!」


 ジョサイアの威圧的なオーラに少したじろぎながらも、コリンズは気丈に答える。


 その様子にエドマンドは、今回のカリサが不自然に怯えているように感じた。


 以前コリンズ自身より強いシュパンに操られたカリサを相手にした際は、怯えた様子など一切見せなかったコリンズにしては、怯えすぎなような気がする。


「そうか、ではそのガキを殺すしかないなあ!」


 その言葉とともに、ジョサイアは突然襲いかかってくる。


 飛び出した反動で軽く地面に跡が残るほどの勢いで突っ込んでくるジョサイアは、これまでのエドマンドなら視認すらできなかっただろうが……。


「なに!?」


 今のエドマンドには、ジョサイアの動きが完全に捉えられていた。


 振り下ろされたジョサイアの剣を、エドマンドの基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)が受け止める。


 その事実に、ジョサイアは驚愕する。


「あれ? お前そんなに強くないのか?」


 思ったより速くも鋭くもない一撃に、エドマンドはそんな言葉を返す。


「ちっ!」


 エドマンドがそのまま何もしないでいると、ジョサイアは舌打ちとともに飛び退く。


「ふんっ、これで終わりだと思うなよ!」


 そう言ってジョサイアはなにかを地面に投げつけと、次の瞬間、投げつけられた地面が魔法の光を帯びる。


 そして、そのまま地面にの中に落ちていくようにして姿を消した。



(空間筒(ワームホール)? だけど、あんなもの簡単には作れないはず……)


 隣の空間から様子を見ていたステイシーは、ジョサイアと名乗った獣人が去り際に使ったアイテムを分析する。


 どうも、空間筒(ワームホール)を発動できるようだが、術式だけ込められていたとしても、魔力を操れない獣人には使えないはずだ。


 では魔力まで込められていた、ということだろうか?


 しかし、そんな高濃度の魔力が込められるものなんて限られるはずなのだが……。


「ステイシーちゃん……ステイシーちゃん?」


 考えこんでいるステイシーには、カリサの声が聞こえていない。


(赤い? もしかしてそういうこと? でもあんなものどうやって?)


 ジョサイアが空間筒(ワームホール)を発動させた地面をよく見ると、赤い跡がところどころに残っている。


 そうなると、先ほど使われたものにも見当がつく。


 しかし、それでもどうやってジョサイアがそれを―――。


「ステイシーちゃん!」


 ステイシーがあまりにも反応しないので、カリサはその肩を軽く掴み揺すった。


「へ? どうしたの?」


 いきなりのカリサの大きな声に、ステイシーはそんな間抜けな返してをしてしまう。


「やっぱり聞いてなかったんですね……。あの、エドくんって、あんなに強かったですか?」


 先ほどの戦闘を、ステイシーが壁面に広げた透視(クレアボヤンス)で見ていたカリサは、疑問に思っていたことを口にした。


「ああ、そんなことか、それならもう原因はわかってるよ。うん。とりあえず隣に行こうか?」


 カリサの予想に反して、ステイシーは何でもないことのようにそう答えた。

読んでいただきありがとうございます。


やっと婚約者の本名が明らかになりましたね。


ロバーツ=ジョサイア。


それと、なぜか強くなっていたエドマンド。


どういうことかは、次回以降のお楽しみ、ということで。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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