表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
43/49

第2節「狸と狐(4)」

「どうしたんだ、二人とも」


 まだ少し夕食には早い時間だというのに、どこかそそくさと夕食の準備だと言って出ていったステイシーとカリサに、エドマンドは少し違和感を覚える。


「なにか変だった?」


 そういうニルダは、特に何も感じていないらしい。


 エドマンドが考えすぎなだけだろうか?


「いや、なんでもない」


 言われてみれば何がそんなに気になったのかもわからなくなり、エドマンドも気にしないことにした。


「そう? まあいいや、それよりコリンズさん、その婚約者についてもうちょっと詳しく教えてくれる?」


 エドマンドからコリンズに視線を移したニルダは、件の迷い人の紙とピラピラと振る。


「わかった。まず、私たちの部族、ヴォルペ族と、私の婚約者の部族、マルダーフント族が長い間対立しているのは知っているか?」


「うん、私は知ってる。お父さんから聞いたしね」


 流石はエルフ族長の長女。


 他の亜人種の事情にもある程度知識があるようだ。


 一方のエドマンドは、


「すまん、さっぱりわからん。そもそもマルダーフント族ってのは何なんだ?」


という発言からもわかる通り、ほとんど何も知らない。


 もっと言えば、獣人などコリンズくらいしか知らない。


「やはりか……。そうだな、まず、私が狐の獣人だというのは大丈夫か?」


「流石にそれくらいはな。見たらわかるし」


 コリンズの、金色の毛並みの狐耳と狐尻尾を見ながら、エドマンドは答える。


 流石にこれで、コリンズが狐の獣人だとわからない者はいないだろう。


 コリンズも、これは確認のつもりだったのだろう。


 小さく頷いてから、説明を続ける。


「では次だ。私の様な狐の獣人はヴォルペ族というんだ。そして私たちヴォルペ族の他にも、様々な動物の耳や尻尾を持った部族が存在する。その総称が獣人、というわけだ」


「ってことは、狐以外にも、犬とか猫とかの獣人がいるってことか?」


 コリンズの言っている通りなら、多種多様な獣人がいることになる。


 その中に当然、犬や猫の獣人もいるだろう、とエドマンドは思ったのだが……。


「そうだな……まあ大雑把に言えばそんな感じだ」


 コリンズが苦笑しているところを見ると、どうやら厳密には違うらしい。


 話が逸れそうなので、とりあえず今は気にしないことにした。


「じゃあ、マルダーフント族ってのは、狸の獣人なのか?」


 そう言ってエドマンドは、迷い人の紙の下の方、マルダーフント族族長と書かれた横の狸の意匠を指差す。


「そうだな、マルダーフントは狸の獣人だ」


 つまり狐と狸の仲が悪い、ということか。


 異世界だというのに、妙に日本的な対立関係だな、とエドマンドは思った。


「そういえば、どうしてヴォルペ族とマルダーフント族は仲が悪いの? それはお父さんも教えてくれなかったんだけど」


 エドマンドとコリンズの話に、ニルダが入ってくる。


 ニルダも当事者ではないためか、ヴォルペ族とマルダーフント族の対立関係は知っていても、その原因までは知らないらしい。


「それが……恥ずかしいことに、よくわかってないんだ」


 ニルダのもっともな問いに、コリンズは少し呆れた様子でそう答えた。


 その表情には、自分の部族に対する諦めの色が見える。


「よくわかってないって、それはまた難儀ね」


 ニルダたちエルフとダークエルフの対立の原因は、明確だ。


 それは、人間に対する接し方の違い。


 過去のエルフに対する一方的虐殺に目を瞑り、人間と共存することを選んだのがエルフ。


 過去のエルフ対する一方的虐殺を決して許さず、人間を殲滅することを選んだのがダークエルフ。


 こうした考え方の違いが、エルフとダークエルフの対立軸となっている。


 だからこそ、ダークエルフの出方もわかるし、両者が気をつけていれば不意の衝突も防げるのだ。


 まあ、カリサの誘拐に始まる前回の件のように、例外がないわけではないが……。


「だろう? だからこそ私の父は、結ばれようとしている和平を完全なものにするため、私をマルダーフントの族長の息子に嫁がせようとしているんだろうがな」


 コリンズから始めて聞いたときにも思ったが、これほどわかりやすい政略結婚もないだろう。


 つまり、対立するマルダーフントとこ和平の道具に、コリンズが利用された、ということだ。


 なぜだろう?


 エドマンドは今まで感じたのはことのないほどの怒りを感じた。


 そして同時に、自分がコリンズを守らなくては、という決意が生まれる。


 いや、改めて決意する?


 そんな微妙な違和感に気をとめる前に、エドマンドは自分の気持ちを口にしていた。


「まあ、安心しろって。コリンズは俺が守るからさ」


 そう言ってコリンズの頭に手を置くと、エドマンドの心は自然と安らいだ。


「おっ、エドマンド君も言うようになったじゃない〜」


 ニルダが楽しそうにニヤニヤしながら、エドマンドのことをからかう。


 これまでなら否定していたはずのエドマンドだが、恥ずかしさもあるものの、嬉しさの方が大きかった。


「そ、そりゃそうだろ? コリンズは俺のものだからな」


 少し顔を真っ赤にしていうエドマンドの隣で、コリンズはそれ以上に顔を真っ赤にしてうつむいている。


「はいはい、ごちそうさま〜」


 その様子に、ニルダはやや呆れたように笑いながら、ヒラヒラと手を振る。


 そこで、どこからか「きゅうぅぅ」という可愛らしい音が聞こえてくる。


 その音の方に目を向けると、恥ずかしそうにもじもじするニルダの姿があった。


「ニルダ、おなか空いたのか?」


 エドマンドのその言葉に、ニルダは耳まで真っ赤にしてうつむいたと思ったら、すぐに顔を上げる、


「だって、今日まだ何も食べてないんだもん!」


と自棄になって叫ぶ。


「だもん、ってお前な……」


 ニルダの意外に子どもっぽい一面に、エドマンドはやや呆れながらも、少し親近感を覚えた。


「いいじゃん、別に……私だってまだまだ成長期なんだから!」


 カリサの手前、お姉さんとして振る舞うことの多いニルダだが、人間に直した年齢は十六、七なのだ。


 まだまだ子供、ということなのだろう。


「エド、君のさっきの発言はデリカシーに欠ける。謝るべきだ」


 コリンズまでニルダに味方する。


 どこか釈然としない思いだったが、エドマンドは謝ることにした。


「ニルダ、その、ごめんな?」


 謝るエドマンドから、ニルダは顔を逸らす。


「ふんっ、別に怒ってないし!」


 怒ってるじゃないか、と思ったエドマンドだが、さっき思ったことをそのまま口にしてこうなっているので、ここはぐっとこらえることにした。


「もうちょっとでステイシーたちが夕食を持ってきてくれるはずだか―――」


 しかしエドマンドの言葉は最後まで続かなかった。


なぜなら、


「見つけたぞ! コリンズー!」


という、どこからか聞こえたその声とともに、ダンジョン「幼子の遊び場」に響いた轟音によって、遮られたからだ。


 ダンジョン「幼子の遊び場」の外壁が破壊されたことによる土煙の向こうから、丸い耳に先の丸まった尻尾の恰幅の良い影が、ゆっくりとこちらに歩いて来ていた。 

読んでいただきありがとうございます。


やっとコリンズの婚約者が(影だけですが)登場しましたね。


次回は戦闘シーンになると思うんですが、もしかしたら、今回登場した婚約者視点で「幼子の遊び場」に来るまでの話になるかもしれません。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ